むすんで ひらいて

すべてが帰着するのは、ホッとするところ
ありのままを見て、気分よくいるために

つながりたかった

2022年07月05日 | こころ
健二くんは25年前、大学の体育の授業で一緒になった女の子に恋をした。
3週間くらいデートをして、めでたくお付き合いすることになったけれど、徐々に彼女のわがままが気にかかるようになって、3カ月後にはお別れしてしまった。

先に彼がちょっと冷たくなり、つられて彼女が少しずつ離れていった。

夜、彼と携帯で話していたわたしは、暗い寝室に移ってベッドに横になって聞いた。

「えー、例えば、どういうところをわがままって感じたの?」
すると、彼は唸った。
「うーん。例えば…俺が地下にある店に友達と飲みに行くとか、携帯の電波が入らないとこに行く時は前もっておしえてって言うんだよ」
当時はピッチだったから、電波の入りは今ほどよくなかった。
「向こうは俺が電話しても自分の都合でしか出ねーのにさ、俺には報告しろって、なんだよそれって。そういう自分勝手だなぁって思うとこばっかだったんだよね。ま、わがままなお嬢さまだったんだよ」

うっ。身に覚えが。全然わかるぞ。
わたしは、自分のことのように弁明していた。

「あー、不安だったんだろうね。わたしの中にも全部あるからさ。人の持ってるいいとこも、よくないとこも。だから思うんだけど、彼女は、健二くんが今どこにいるのかなって、つながりたい時につながりたいって。その安心感がほしかったんじゃないかなぁ
と。

こういう不安て、友達同士でいた時は気にならなくても、付き合って近づいたのに何かが嚙み合わないと、むくむく生まれてくる。
一人っきりで知らない草原に放り出されてるみたいで、位置を確かめたくなるんだ。

でもこれは、あがきだから、応急処置にしかならない。

気を許して、お互いの素が出て、甘えや期待が増して、無意識にもこれまで抱えてきた傷を相手に癒してもらいたくなる時。。それは、自分一人では探求できない愛を深めるチャンスだ。

弱いところも、歪んだところも丸ごとを受け止め合って、糸電話のように心が響き合えたら、二人は大きな一人。

健二くんは、意外にもすんなり感じ入って、
「あー、不安だったのかぁ。だから、俺がだいじょうぶだよって彼女思ってあげれてたら、違ってたんだろうねぇ。あー、もう遅いけどぉ」
と、悔しがった。

どこから気持ちが湧いているのか…怒りの元には悲しみがあり、わがままと見える背景には、不安や恐れがあるかもしれない。

今できる限り自分の底にあるものを見せ合って、共感できるところは一緒に慈しみ、理解できないところはできないなりに耳を傾け、それはいったん引き出しにしまって寄り添う静けさがあれば、心は落ち着きどころを見つけるだろう。

暗がりで健二くんの声を聞きながら、あの時の二人が今、微笑んでいたらいいなと思った。





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