むすんで ひらいて

すべてが帰着するのは、ホッとするところ
ありのままを見て、気分よくいるために

笛吹き男と魔女の街 Ⅰ

2015年04月20日 | こころ

ハワイへ十日間出かける友人が、出発の前日、マウイ島の海岸に持っていくというオカリナを演奏してくれました。

練習を始めて間もないと言うけれど、彼女がスカートの裾をかすかに揺らしながら吹くジブリの曲や童謡は思いがけなく軽妙で、それでも時たま低音高音がふらっと外れるとククッと笑いがこみ上げました。こんな音を連れて歩いたら、なにかちいさくてかわいいものが、ひょこひょこ寄って来るんじゃないかという気がして、ふと「ハーメルンの笛吹き男」を思い出しました。

 

前に、このドイツのハーメルンという街がどんなところか気になって訪ねてみたことがあります。駅で電車から降りたのは、わたしと地元の人らしき三人で、側には絵本の中のような淡い色合いの美しい建物と、人も車もあまり通らない整然とした道がずっと続いていました。長い間、笛吹き男にねずみや子供たちがついていく、わさわさした街のイメージを抱いていましたが、それはあっけなく静かな光景へと書き換えられました。

反対に、友人に薦められて魔女がマスコットキャラクターになっている面白い街、とだけ聞いて行った、やはりドイツのゴスラーという街には、旅行者や住民がたくさん行き交っていて、素敵なカフェや、本やパン、雑貨やジェラートを売るお店が並び、壁や外灯がところどころ苔に包まれた静謐な学校に、どの家の窓辺も街路に向けて花が飾られている観光地的な風景が広がっていました。(帰ってきてから、その旧市街が世界遺産に登録されているのを知りました。)

 

ゴスラー駅を出て気の向くまま歩いていると、しばらくして雨が降り出しました。辺りを見回して雨宿りできそうな場所を探すと、円形広場を囲んでいる三角屋根の建物のうち、ちょうどよさそうな広いレストランが目に入ったので、ひとまずそこに入ることにしました。

中は思ったよりガランとしていて、一組の年配の夫婦が真ん中辺りのテーブルで店員さんと話しをしていました。わたしは広場の見える奥の窓際に行き、パスタとカプチーノを頼むと、そこから、つややかに濡れた石畳を足早に横切っていく人たちや、向かい側に建っている家の窓枠の深い茶色や、窓の外に飾られたゼラニウムの濃い赤をぼんやり眺め、メモ用紙にスケッチしながら雨の上がるのを待ちました。

ところが、夕方が近づいてもいっこうに天気の変わる様子はありません。ほとんど霧雨だし、これなら行けるところまで行ってみようと心を決めて立ち上がり、お会計を済ませると、黒いエプロンのウェイターさんが「これ、持ってきなよ」と英語で言って、やはり黒くて大きな、ほんとうに魔女が持っていそうな傘を差し出してくれました。

外気はさっきよりひんやりしていて、軒下でその傘を広げると、ほんの少しそわそわしました

 

                                                         (つづく)

 

 

 

今月初め、毎年お花見をする丘

 

  

 

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