むすんで ひらいて

すべてが帰着するのは、ホッとするところ
ありのままを見て、気分よくいるために

真夜中のコーヒーショップ

2015年01月19日 | 日記

夕方から、雨が降ったり止んだりしていた。

昼間のじりじりした暑さが去って、一息ついた夜の街角に、19時に開いて朝3時まで営業している「コーヒー屋台!」があるというので、友人に連れて行ってもらった。

 

 

 

片側が、その場で焼いてもらって持ち帰りもできる「マルタバ」という卵焼きと、焼き菓子の調理台、揚げ物用の大きな中華鍋。

そして、豆腐やお芋、玉ねぎの揚げ物が並ぶショーケース。

もう一方は、コーヒー豆の入った瓶やカップの棚と、コーヒーミルなどの置かれているコーヒーを淹れる専用の台。

コの字になっている奥には、お湯を沸かすガスコンロ。

 

 

その上を開閉自在のビニールシートの屋根がつないでいる基地のようなコーヒーショップで、周りにテーブルやプラスチックのスツール(以下イス)が無造作に置かれていて、お客さんは好きなところにイスを持って行って座る。

蓋付きの花柄カップで出される本格的なコーヒーは、一杯60~80円。

店主の手さばきは、コーヒー豆をプレスする時も、葱を刻む時も、卵焼きをひっくり返す時も、精神統一されていて潔く、「コーヒー屋台」という洗練された舞台を観ているようだ。

彼が調理している後ろで、常連さんがコーヒー豆のラベルを揃えて瓶を並べ直していたり、ロシア人のカップルが、注文した卵焼きのできていくところを無言でジイッと見つめていたり、白い上着のレストランのシェフたちがバイクで揚げ物を買いに寄ったり、金の指輪とネックレス、ピカピカ腕時計で同じ具合に影を帯びたブローカーコンビが、ちょっと斜に構えた風情で言葉を交わしていたり、色黒で気のよさそうな二人連れが、淹れたてコーヒーを一匙ずつ大事にスプーンで味わっていたり。

・・・と、そこではお酒や音楽の代わりに、コーヒーカップを並べてひっそりと、常夏の夜更けの集いが開かれていた。

 

 

雨がまたポツリポツリ降りだしたので、軒下にイスを下げて移動した。

「こっちこっち」と場所を開けてくれたタクシードライバーさんは、バリコーヒーのカップの底に沈んだ粉をスプーンですくい、

「僕は、これが好きなんだよぉ。 

でもこのまま『イー』ってすると、口の中が真っ黒でコメディみたいなんだよ~。 ワハハハー」

と、おいし楽しそうになめている。

 

その間にも雨は勢いを増し、屋台が滝のむこうになった。

「へぇー、夜からお仕事始めるんですね。 深夜もお客さんいますか?」

「うーん、あんまりいないね。 でも、夜運転するの好きだから。 時々、車の中で寝てるしね」

「それで背中痛くならない?」

「いやぁ、なるなるー。 ハハハァ」

 

水しぶきが足元まで跳ね上がってきて、もう一息分後ずさりする。 

彼は18歳の時に、お父さんが決めた友人の娘さんと初対面で結婚。

翌年生まれた子が今14歳、その下に12歳の子がいるが、7年前奥さんに好きな人ができて離婚。

子供たちをジャワ島の実家に預けて働いていた。

「別れるまでは、つらかったね。 

運転しててもそのことが頭から離れなくて、しょっちゅう頭痛がしてね。

だけど僕がラッキーだったのは、ここに、こうして話しのできる友達がいたことだよ。

それだって前は、帰るとまたすぐ悩み始めちゃってたけどね。。  

今はもう、ぜんぶ終わったことって思えるんだ」

 

そうして両手を広げ、

「人生がクリアーになって、すーっきりしたよ!  

これからも、そうやって生きていきたい。

僕はジャワ人で一夫一婦制だから、バリ人が時々奥さん二人持ってたりするの見ると、胸が痛むんだよね。

自分がそうだったから。。 男も女も同じでしょう?

でも、彼女たちが大丈夫そうにしてるってことは、きっと何か違うんだろうね。。」

  

水に包まれて孤島のともし火のようになった屋台の端で、店主が天井のたわんだシートを押し上げたので、雨水がザバッーと大きなしぶきを上げてこぼれた。

 

彼は、風下なのを確かめてからタバコをくわえると、イスをちょっと後ろにずらしてライターで火をつけた。

 

「それが人生だね。

僕は教会にもモスクにも行かないけど、神様は(あっちの空を指さして)信じてるから、いいことも悪いことも見ていて下さるって思うの。 

だから自分に正直に、いつもハッピーでいられるようにして、人が喜んでくれたら僕もうれしい。って生きてるんだ」

「うん」

「そうだな。 午後よくそこの浜で釣りしてるんだけど、魚がいっぱい獲れたらアパートのみんなに声かけて、バーベキューパーティーするんだ。 ゥハハ。 たのしいよ

「そう、いいねぇ」

「ん・・・夜布団に入るとね、子供のこととかいろいろ考えちゃうから、それなら夜中仕事しようと思ったんだ。

朝、眠ればいいからね。 ハハ」

そう言って笑いながら横を向き、彼はふっくりタバコを吸った。

 

 

町には、同郷の友人たちが開いている深夜営業のコーヒーショップや食堂が、数件あるという。

ここは毎晩、雑貨店が閉まってから、その前の駐車場に開店する。

今日も真夜中、彼はお客さんを送った合間に、子供たちの集まる砂場のようなあの場所でコーヒーを飲んでいるだろう。

 

 


                           かうんせりんぐ かふぇ さやん     http://さやん.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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