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トーキング・マイノリティ

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デリー6 09/印 その一

2011-11-15 21:10:54 | 映画

 10月4日、NHK BSプレミアムでインド映画『デリー6』を放送しており、録画したそれを先日見た。最近は国営、民放を問わず韓流一色と化しているが、以前のNHKでは結構マイナーなアジア映画を放送していたものだ。特に地方在住者にとってインド映画など目にする機会も殆どなく、ビデオレンタル店ですら置いていない始末。久しぶりにインド映画を鑑賞できたのは嬉しい。

 映画大国と呼ばれるインドも、最近の都市部ではТVもかなり普及してきたことが映画からも伺える。監督はラケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー、今回初めてこの名を知ったが気鋭と謳われているそうで、この作品は監督46歳の時のものだという。題名通りデリーが舞台の作品で、主人公の目を通して現代のデリーが語られる。タイトルの「デリー6」とはオールド・デリーの郵便番号。デリー中心部に住む人々は、誇りを込めて自分たちの住む地区をこう呼ぶという。

 デリー中心部だけを一望すれば、近代的な街並みからもインドの経済成長ぶりが分かるし、中国の大都市とさして変わりないようだ。一方でカースト制や宗派対立という、この国特有の問題を抱えており、この作品でもそれらが描かれている。映画の冒頭にある言葉は重い。
塵やほこりにも神の輝きがある。自分の内を見よ。遠くに神はいない。神を愛するなら皆を愛せ。これこそが礼拝の作法である…

 続いてラーマーヤナ劇のシルエットが登場するのはやはりインド。21世紀でもこの叙事詩は映画やТVドラマ化はもちろん、野外劇でも盛んに演じられている。町の広場でもラーマーヤナ劇が上演され、上演途中でスポンサーでもある政治家が舞台に登場するのもインドらしい。劇では勇ましいラーマを演じる役者も、政治家には神に対するように首を垂れる。文化振興のためというより、選挙を当て込んだ政治家の自己宣伝が真の目的かもしれない。

 主人公ローシャンはNYに生まれ育ったインド系米国人青年。しかし、病に侵され死期が近いと宣告された彼の祖母は、故郷のデリーで最後を迎えたいと言い張り、祖母と共にデリーに移り住む。米国とは何もかも違うデリーの風習に驚き戸惑いつつ、祖母の実家の隣人の娘ビットゥーとも知り合い、彼女に心惹かれるローシャン。
 折しもローシャンがインドに移住した頃、町ではカーラー・バンダル(黒猿)騒動が起きていた。神出鬼没の怪物を巡り、町中の人々はその噂でもちきり。それがヒンドゥーとムスリムとの争いに火をつけ、ローシャンも騒動に巻き込まれていく…

 主人公がNY生まれという設定も興味深い。監督はデリー出身らしいが、あえて余所者の視点という試みもあるのだろうか。ローシャンが NY生まれになったのも、両親の結婚が原因なのだ。ヒンドゥーの父がムスリムの娘と恋に落ち、当然父親から反対され、2人は米国に駆け落ちする。それを手助けしたのは母で、母もやがて米国に移り住む。彼女は最後は故郷で迎えたいと願う主人公の祖母でもある。
 このようなケースでは、主人公の宗派は何だろうか?祖母に神に祈れと言われたローシャンは、父の神々か、母のアッラーなのか?と言い返すシーンがあった。宗教に無関心な人ならそれでも構わないし、大都市では普段は問題ないだろうが、保守的な地方なら宗派が異なる男女は交際するのさえ難しい。

 映画に見る黒猿騒動には苦笑させられた。2001年、実際にあったデリーの都市伝説モンキーマンを元にしたそうで、市民を恐怖に陥れたという。マスコミでは連日黒猿ニュースを垂れ流し、それが恐怖心とパニックを煽る。方々での盗みや殺人も全て黒猿のせいにされ、被害報告や自称目撃者もТVに登場する。噂に尾ひれがつくのは何処も同じらしい。「黒猿、黒猿と騒ぎ過ぎ!」と冷ややかに見るビットゥーのような娘もいるが、女は概してトンでも話を好む傾向がある。デリーの主婦たちは黒猿の噂に興じている。

 これだけ騒ぎになれば関連グッズも制作され、飛ぶように売れるのはどこかの国と同じである。マスコミが煽り、煽動された人々が集団ヒステリーに陥る状態もそっくり。ただ、騒動が沈静化した後は忘れ去られる日本と違い、宗教対立にも発展するのがインドなのだ。
その二に続く

◆関連記事:「だれも知らなかったインド人の秘密

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