トーキング・マイノリティ

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カサブランカをモロッコから見れば…

2007-06-02 20:23:53 | 映画
 『カサブランカ』を往年の名画と見る映画ファンは多いだろう。私も学生時代、名画座のリバイバルで見たものだ。この映画館は学生料金が旧作3百円であり、今のように客の入れ替えもなかったので、友人と2度続けて見れた。主演のハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマンもよかったが、音楽でも興味深い場面がある。

 映画で「As time goes by」が流れるシーンもよいが、主人公リックの店で軍歌を歌うドイツ兵に対抗して、レジスタンス指導者がラ・マルセイエーズを店内の客と共に合唱するのは、クライマックスの1つだ。学生時代は私もこの場面には感動した。当時カサブランカはドイツ支配下に置かれていたが、元はフランス植民地モロッコの首都。自由フランスの指導者がいても不思議ないが、モロッコ自体は自由ではなかった。

 現地のモロッコ人の殆どはムスリムなので、アメリカ人の経営する酒場には戒律から用はなかったはずだが、もし飲酒を希望しても、店内に入れてくれただろうか?植民地で欧米人は酒場やホテルを作っても、現地人は入店お断りなのが多かった。インドの老舗ホテル、タージ・マハル・ホテル(ムンバイ)が造られたエピソードが面白い。インド最大のタタ財閥の創業者ジャムシェードジー.N.タタが英国人の友人とあるホテルに入ろうとした時、インド人である彼は入店を断わられたのだ。その差別に怒ったタタが、1903年現地人でも入れるホテルを建てる。インドだけでなく、他のアジア、アフリカも事情は同じだったろう。

 リックの店にモロッコ人がたとえ入店を認められても、彼らが店内でモロッコの独立を讃える歌を歌ったのなら、たちまち叩き出されただろう。モロッコ人からすれば、独仏共に尊大な異教徒支配者に変わりない。ナチス支配に抵抗運動をしていた自由フランス軍も、戦後宗主国からの独立を求めるベトナムなどで弾圧・虐殺を行っている。

 今年の3月頃だったか、NKH BS1で「変わりゆく中東世界」という特集を放送していたが、モロッコも取り上げられていた。国王のお声掛りにせよ、モロッコにも女性のイスラム神学者が誕生したという内容だった。もちろん国内の保守的な男の聖職者には、女がイスラム法を教えるのに激しく抵抗する者もいる。そんな中での女性神学者の奮闘を映していたが、収録したのがアメリカのTV局だった。そのため途中で「モロッコでは何世紀にも亘り、女性は男性に隷属を強いられてきた」との解説があったのは興ざめだった。モロッコに限らず、キリスト教圏も男女平等は戦後になってからの歴史の浅いものなのだが。

 映画の影響でカサブランカは観光地になっているという。モロッコ人があの映画を見たら、どんな感想を持つのだろう?まさか現代は、反仏感情はさほどないと思われるが、教科書では植民地時代をどう教えられているのだろう。

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2 コメント

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私の行った、カサブランカ (二人のピアニスト)
2007-06-02 21:21:56
私は4年前に、カサブランカに行くチャンスがありました。
旅行者の見る街と、現地で生活する姿では全然違うものであって、本当のあの街を見たことにはならない、と、その時にも思っていました。
あの映画に出てくる場面の、鮮明に記憶に残っている、「リックの店」に行って、この席で、このカウンターで、あの状況が起こったのだ、と思うと懐かしく思える筈だったのですが、実は、映画は、その場所で撮影されたものでなく、逆に、映画が有名になってから、あの場所が造られた、と予め聞かされていたので、現地では索漠とした気分でした。 でも映画の中のままに作られています。
新市街の立派なホテルの内部は、ニューヨークでもパリでも見たことが無い位の豪華さで、唖然としましたが、旧市街を歩くと流石にモロッコに居る、と感じました。 理髪屋の親父に手招きされたのだが、凄い店内状況に、流石の私もビビッてしまい、散髪しないでしまったことを、今も後悔しています。
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衛生 (mugi)
2007-06-03 21:31:36
>二人のピアニストさん
カサブランカに行かれたとは、うらやしまい。
日本人観光者はカサブランカに、どうしても映画の面影を求めるようです。戦時のプロパガンダ目的で作られたにせよ、未だに観光客を呼び寄せるのだから、その影響力はすごいですね。現代大ヒットした映画のロケ地など、半世紀後に観光客が訪れるでしょうか?

幕末にエジプトに立ち寄った福沢諭吉は町の不潔さに閉口して、悪い印象しか書き残していません。現代に至るまで、日本と近東の衛生状況はかなり差があるようです。
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