トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

約束の旅路 05/仏 ラデュ・ミヘイレアニュ監督

2007-06-24 20:20:22 | 映画
 エチオピアにもファラシャと呼ばれるユダヤ人がいることを、この映画を見て初めて知った。彼らはソロモン王とシバの女王の末裔にあたるとイスラエルでも認定され、イスラエル政府はファラシャを移住させる作戦を敢行する。この映画はイスラエルに移住してきたエチオピア少年の物語。

 1984年、イスラエル政府はエチオピアの貧困からユダヤ人を救い出すという名目で、移住受け入れ策をを実行する。これは“モーセ作戦”と呼ばれ、ファラシャたちはスーダンの難民キャンプまで移動してくる。途中、飢餓、病気で死亡した者、夜盗に殺害された者も多く、無事イスラエルに移住できたのは8千人ほどだが、4千人近くは命を落としたそうだ。
 難民キャンプにはユダヤ教徒だけでなく、キリスト、イスラム教徒もいた。ユダヤ系はイスラエルに移住できると聞いたエチオピア人キリスト教徒の母は、9歳の息子に身元を偽りイスラエル行きを命じた。キャンプにいても飢餓と貧困から脱出する術はない。少年は母と別れてイスラエルに渡る。

 イスラエル政府はファラシャを本国に空輸して移住させたが、収容施設で一人一人面接し、エチオピアのユダヤ人だと認定した者だけを受け入れる。ニセと分かるや、直ちにエチオピアに送還した。9歳のエチオピア少年は教えられたとおり自分や両親、兄弟、出身の村の名を全て偽り、認定に通る。少年はシェロモ(ソロモン)というイスラエル名を付けられ、フランス系ユダヤ人夫婦のもとに引き取られる。養父母はリベラルな考えの持ち主で、シェロモに惜しみなく愛情を注ぐが、少年は身元の偽りと故郷と違いすぎるイスラエル社会に思い悩んでいた。

 一口にユダヤ人といえ、東洋系やアフリカ系もいるが、イスラエルを牛耳るのは白人系ユダヤ。白人系は「黒いユダヤ人」を差別・蔑視し、シェロモが通う学校には、我が子を“黒人”と学ばせるのを嫌い、転校させようと考える親もいた。せっかく豊かなイスラエルに移住しても馴染めず、自殺するアフリカ系ユダヤ人も少なくなかった。アジア、アフリカ系はイスラエルでも社会の底辺の存在なのだ。

 聖書に関する討論会の場面は凄い。この会にシェロモも出るが、出されたテーマが「アダムの肌は何色だったのか」。白人系討論者は神は自分に似せて人間を創った、当然肌も白く、最初の人類は白人だったと主張。肌色が異なったのは聖書にあるとおり、ノアの息子の一人であるハムが男色をしでかして呪われ、南に移り住み肌も黒くされ、アフリカの黒人の祖となったという説をぶつ。人種差別思想の権化である。人類の起源はアフリカの学説など、敬虔なユダヤ教徒には受け入れられないだろう。

 アダム白人説に対し、シェロモは反論する。アダムの言葉の元は粘土を意味している、土をこねて人間を創ったのだから、アダムの肌は土の色、要するに赤い肌色だった、と。シェロモの演説で会場は拍手に包まれる。
 シェロモはポーランド系ユダヤ少女と親しくなるも、彼女の父は彼を忌み嫌い、交際を激しく禁じる。“黒人”だけでなく、ユダヤに成り済ました食い詰め者のキリスト教徒だと疑っていたのだ。成り済ましは他にロシア系にもいたらしい。

 己の出自を偽ったところで、イスラエル社会では“黒人”扱いされ、自らのアイデンティティに悩むシェロモ。彼は医師になる道を選び、9歳以来会ってない母を捜す為もあり、アフリカの難民キャンプに赴く。

 ファラシャは本当にユダヤ系エチオピア人なのか、私はつい疑いたくなる。神話と伝説がかなり入り混じると思うが、それでも彼らの容姿は他の黒人と異なり肌の色は褐色で鼻筋も通っている。黒人も様々な民族に分かれているから、一概には言えないが。ユダヤ人の肌の色はともかく、聖書に沿う解釈をすれば、最初の人類はユダヤ人だったとなる。ユダヤはあらゆる民族の長子であり、それゆえヤーヴェが重んじたとなるが、これまた最たる“中華”思想だろう。

よろしかったら、クリックお願いします


最新の画像もっと見る