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日本のイスラム研究業界の異常性 その一

2022-09-09 21:40:18 | 読書/ノンフィクション

 学界と言えば、一般人には真摯な学術研究者たちの組織というイメージがある。しかし他の業界と同じく、日本のイスラム研究業界にも権力闘争やパワハラが蔓延っており、反主流派は肩身の狭い思いをしているようだ。
 そんな反主流派のひとり飯山陽氏は、著書『イスラム教再考』(扶桑社新書)第8章冒頭の「日本のイスラム研究業界の不問律」という見出しで、こう述べている。

日本のイスラム研究業界には、イスラム研究者は反体制的でかつイスラム好きのイスラム擁護論者でなければならないという不問律があります。さもなければポストや予算を握る業界の権力者に認められず、研究者に認められなければ業界でポストを得て生き残るのは非常に困難です。生き残るためにはひたすら権力者に忖度しなければならないのです。
 これは深刻な問題です。なぜならこの業界では、業界のテーゼである「イスラームこそ解決」に対するいかなる異論も反論も認められていないのです。
 学問の自由、言論の自由は、憲法で保障された基本的人権です。健全で実りある学問・研究は、それなしには存在しえません。だから日本のイスラム研究は不毛なのです」(223頁)

 第8章のタイトルはズバリ、『「飯山陽はヘイトを煽る差別主義者」か』。続けて飯山氏は日本のイスラム研究業界をこう批判する。
初めから目的が決まっているのですから、何を研究しても「イスラムは平和の宗教」などイスラム教を賛美するものしか出てきません。金太郎飴さながらの不毛さです。
 彼らの多くにとってイスラム教は常に、自らの政治イデオロギーを投影するにふさわしい理想的な像を結んでいなければなりません。ゆえに彼らの中には、理想的イスラム像をわずかでも棄損する研究者に対し、自らの地位や権威を誇示してその言論を否定し、圧力をかけ、負のレッテルを貼り、執拗に人格攻撃をし、学問や言論の自由を奪い、社会的地位抹殺を図ろうとする者もいます」(224頁)

 飯山氏は第8章で自らが受けた具体的な圧力や負のレッテル貼り、人格攻撃などを行った加害者の実名を出して反論している。氏の主張を一方的な被害妄想と思った読者もいただろうが、もしこれが事実としたら言葉もない。おそらくイスラム研究業界に限ったことではないだろうが、日本の研究業界における封建制は21世紀になっても変わらないようだ。

 過去記事で何度も書いたが、私が中東史に関心を持ったのは学生時代に映画「アラビアのロレンス」を見たことがきっかけ。それ以前は世界史でも関心は専ら中国史だったが、中東史を読むようになってすっかり中国史への興味を失ってしまう。世界で最も古い歴史を持ち、重層な歴史と文明のある中東に対し、中国史は似たような繰り返しで単調に感じたのだ。
 ただ、日本人研究者の書いたイスラム教解説については、「イスラムは平和の宗教」などイスラム教を賛美するものばかり、金太郎飴さながらで不満だった。コーランなど地方図書館さえ置いているのに、軽く目を通しただけでとても“平和の宗教”とは思えず、イデオロギーから異教徒、殊に多神教への憎悪と敵視の凄まじさを感じた。

 イスラム研究者はとかくイスラムの寛容さを強調、ジズヤ(人頭税)と引き換えに異教の信仰を認めたことを以って、「イスラムは寛容(または平和)の宗教」と説く。確かにキリスト教しか認めなかった中世欧州に比べれば、かなりマシだろう。
 しかし、その異教への寛容さも同時代のインドや中国のような多神教圏に対しては、格段に劣るとしか言いようがない。イスラム化したイランからゾロアスター教徒がインドや中国に多数亡命していったのはそのためだったし、インドや中国が彼らを受け入れなければゾロアスター教はとうに消滅していた。
 ちなみにジズヤはサーサーン朝時代の人頭税に倣ったとされるが、民族宗教のゾロアスター教は基本的に異教徒に布教活動は行なわなかった。

 イスラムは先ず武力で征服活動を行っている。西欧が十字軍に血眼になっている頃、イスラムも盛んにインド侵攻をしている。インドや中央アジアではイスラムが加害者だった歴史を知る人は少ない。十字軍を非難する日本のイスラム研究者は、こちらにはダンマリである。

 そんな護教的研究者ばかりの中で、イスラムに“辛口”な池内恵氏の著作は私には衝撃的だった。氏の主張はwikiにもまとめられており、よくぞ言ってくれた!という想いになった。
 これこそ、私が望んでいた見解だったし、ようやく日本にもこのような研究者が出て来たと嬉しかった。実は池内氏も、イスラム研究業界から酷い目に合わされていたことが『イスラム教再考』に載っている。
その二に続く

◆関連記事:「イスラムの寛容
加害者としてのイスラム」 

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