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図解 いちばんやさしい地政学の本 その一

2022-09-23 21:30:15 | 読書/ノンフィクション

『図解 いちばんやさしい地政学の本』(沢辺有司 著、(彩図社文庫)を先日読了した。私が本書を知ったのは河北新報の第一面に広告が載っていたためだった。いかに広告宣伝にせよ、かなり売れているというコピー付で。
 何度も書いているように私は軍事に疎い。地政学という名称だけは知っていたが、具体的な学術書は未だに読んだことがない。“いちばんやさしい”と銘打っており、この機会に地政学関連本を見ても悪くないと思い購読してみた。税込750円の文庫版だったし、価格面でもリーズナブル。本書の「はじめに」の書き出しはこうある。

いま世界では、パンデミックの混乱がつづくなか、ロシアのウクライナ侵攻や切迫する台湾有事、北朝鮮のミサイル発射など、物騒なニュースがたえません。なぜこうした問題が起きているのかを考えるとき、さまざまな解釈の方法があるでしょう。
 たとえば1つには、これまでの「歴史」を紐解くことで見えてくることがあります。ウクライナ危機についていえば、「プーチンが、旧ソ連の領域を取り戻そうとしている」などと解釈できます。

 一方、地図をベースとした「地政学」を使うと、少し違った見方になります。「ウクライナのような、大国と大国のあいだにはさまれたバッファゾーン(緩衝地帯)は何時の時代でも紛争が起きやすい」と解釈されます。ウクライナという地域は、歴史とは無関係に、地政学的に見てどうしても紛争が起きやすい場所にあるのです。
 このように、実際にいま世界で起きていることの多くは、「地政学」を使うことでかなりクリアに見えてきます。

 上記の太字は本書でそうなっている箇所で、私個人が太字にしたのではない。歴女ということもあり、どうしても私はこれまでの「歴史」を紐解いて解釈しがちだったが、ウクライナという地域は、歴史とは無関係に、地政学的に見てどうしても紛争が起きやすい場所にあるという意見は目からウロコだった。続けて著者はこう述べる。

 まだなじみのうすい方も多いかと思いますが、いま、地政学的視点の重要性が増しています。「地政学」とは、地図をもとに政治や軍事を考えていく学問です。軍事理論でもあるため、戦後の日本では封印されていました。
 地理というのは、時代が変わっても変わりません。ですから、変わらない地理をもとにすることで、それぞれの国や地域がとる戦略というのは自ずと決まってくる、と考えられます。となると、いくら世界情勢が混沌としてきても、その国がとるべき一貫した正しい戦略があるはずだ、となります。地政学ではこう考えるわけです。

 先の文章の太字も本書でそうなっていて、著者は「はじめに」をこう結ぶ。

 混沌として先の見えない時代です。だからこそ、普遍的な知である地政学的視点をもつことが大切です。それによって、自信をもって世界と向き合うことができるはずです。

 本書は全7章で構成され、以下はその目次。
第1章 地政学とは何か?
第2章 世界をかき回す覇権国家 アメリカの地政学
第3章 帝国主義へ回帰する北の大国 ロシアの地政学
第4章 アジアから世界の覇権をねらう 中国の地政学
第5章 「地域」と「世界」の間で揺れる ヨーロッパの地政学
第6章 紛争と大国の思惑が渦巻く 中近東の地政学
第7章 大国の情勢を映す アジアの地政学

「はじめに」には地政学は戦後の日本では封印されていたと書かれているが、ドイツも同じだったことが第1章に載っている。そもそも地政学とは「欧米の帝国主義と結びついて発展した理論」だったので、ナチスの基本哲学にもなっていたのだ。このため、戦後のドイツでは地政学は、「ナチスの哲学」として危険視され、学問としての地政学はほぼ消滅されられてしまった。
 ちなみに第1章にはプーチンが、「地政学的な問題は、イデオロギーとは何の関係もない」とはっきり述べていたことが載っており(17頁)、今やリアルな地政学が前面に出て来る時代となってきたようだ。
その二に続く

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