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もうすぐいなくなります 絶滅の生物学 その一

2022-05-05 21:00:08 | 読書/ノンフィクション

『もうすぐいなくなります 絶滅の生物学』(池田清彦 著、新潮文庫)を読了した。3年前に見た『わけあって絶滅しました。』(ダイヤモンド社)は図鑑だったこともあって楽しく読めたが、本書は筆者が生物学者ということもあり、ややマニアックな印象。以下は新潮社HPでの紹介。

生命誕生からおよそ38億年。地球上ではおびただしい数の生物種が出現と絶滅を繰り返してきた。現在でも、例えばトキやニホンオオカミはとうに滅び、イリオモテヤマネコ、ゾウ、マナティー、シロナガスクジラなどが絶え果てる寸前である。そしてこの先、人類も地球上から消えていなくなるのだろうか――。
 絶滅と生存を分ける原因は何か。絶滅から生命の進化を読み解く新しい生物学の教科書。

 本書で専門用語が使われることがあっても、お堅い生物学の話ではない。とかく気難しいというイメージのある生物学者だが、著者はユーモアのセンスにも恵まれている学者だった。
 本書では生命の大量絶滅の大きな原因として、地球の内在的な理由(超大陸ができるというようなこと)と、外在的な理由(隕石の衝突や超新星の爆発など)が挙げられている。一般に恐竜の絶滅は大隕石が落ちたことによって引き起こされたと思われている。

 しかし、隕石だけが原因で恐竜が絶滅したかは分からず、その前から恐竜はどんどん減っていたという説もあり、逆に大隕石が落ちた後も恐竜は暫く生きていたのではないか、という人もいるそうだ。大量絶滅を引き起こすような大隕石は1億数千万年に1度くらいの頻度で地球に衝突しており、となると、あと数千万年の間に1回くらいは大隕石が飛んでいるでしょう……と書いた後、著者はこう述べていた。
きっとそれまでに人類は別の要因で絶滅しているでしょうから、大隕石の落下によって人類が絶滅するかもしれないというふうに心配する必要はないのかもしれません」(25頁)

「絶滅するも絶滅しないのも「偶然」」で、偶然性というのは大きいという。そして大絶滅のおかげで生物は進化すると著者は述べ、「絶滅」と「進化」はカップリングとか。確かに恐竜が絶滅しなければ、哺乳類はここまで進化しなかったはず。但し哺乳類も進化と絶滅による淘汰が激しい。
 天変地異のような環境の激変があった訳でもなく、徐々にその生物種が衰退し、絶滅に向かっていく、という例も少なくないそうだ。他の種が繫栄している中、ある種のグループが絶滅してしまう、というケースもあるという。

 例えばゾウは今はアフリカゾウ、アジアゾウ、マルミミゾウの3種しかいないが、かつては多くの種がいて、マンモスだけでも化石種で14もの種が見つかっているそうだ。ゾウはこれまで化石種で約170種も見つかっているくらい、多様化していたが、すっかり衰退してしまった。
 ゾウの仲間の場合、マンモスのように人間の狩猟が衰退原因のひとつと考えられるものもあるが、多くの種がヒト属の出現以前に滅んでおり、殆どは人類の活動とは無関係で滅んだと思われます、と著者はいう。

 絶滅の原因としてまず一番に考えられるのは、やはり適応力がなくなったということでしょう、と著者は見ている。環境が変わったり、変わった環境に進出した時に、遺伝的な多様性を増やすことが出来なくなったというのは、ゲノム(核酸上の遺伝情報の総体)のシステム自体が硬直化したからだと著者は考えている。
 それまでは比較的自由に突然変異できたのが、突然変異をする方向性が限られてしまうと、環境の変化などがあった時、もう新しい変異をする能力がなくなり、新たな環境に適応できなければ終りになるのでしょう、という一文は何とも重い。

 ある系統が必ず新しい種を生み出す訳ではなく、生み出さないまま絶滅してしまうケースは多いそうだ。ゾウの場合、多くの種に分岐したが、後にそれらが環境変動に適応できずに徐々に減り、系統そのものが絶滅寸前になっているように著者には見えるという。
 ゾウだけではなく、サイやバク、ウマからなる奇蹄種も同類らしい。ウマはウマ以外に3種のシマウマや4種のロバも含まれるが、それでも8種のみとか。モンゴルの蒙古ウマは、約5,500年前に現在のカザフスタンで飼われていた家畜の子孫であることが、近年、DNA分析になり明らかになったことを本書で初めて知ったが、つまり蒙古ウマは真正の野生種ではなかったのだ。 

 環境の激変が起きなくとも、新しい種或いは近縁の種との間にコンペティション(競争・競合)があり、そのコンペティションに敗れたほうが絶滅するということもあり、さらには、理由はよく分からなくとも絶滅してしまう、という例もあるそうだ。ネアンデルタール人が滅んだのは、ホモ・サピエンスとのコンペティションに敗れたからだと言われている。
 競合に敗れた理由は諸説あるが、ネアンデルタール人の喉の構造はホモ・サピエンスとは異なっていて、あまり大きな声で喋れなかったかもしれない……と著者はいう。ささやくような声しか出せなかったとすれば、ホモ・サピエンスとのコンペティションにおいてはやはり不利だろう、と。確かにホモ・サピエンス同士でも声がデカい方が断然有利なのは否めない。
その二に続く

◆関連記事:「わけあって絶滅しました。

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