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図解 いちばんやさしい地政学の本 その二

2022-09-24 21:30:15 | 読書/ノンフィクション

その一の続き
 私も含め、総じて女性は軍事面に弱い。実はシーレーンとはいったい何を意味するのか知ったのは、ネットを通じてだった。 それ以前にはシーレーンの用語だけは知っていたが、具体的なイメージがなく、標識もない海にシーレーンとは何ぞや……と思っていたほど。
 女性とは対照的に男性は軍事に関心を持つタイプが多く、私自身、男性ブロガーさんからシーレーンについて教えて頂き、その重要性を遅まきながら何とか分かった。どおりで軍事に詳しい男性がシーレーン防衛を強調していたワケだ。鎖国をしていた江戸時代と異なり、シーパワー(海洋国家)の日本は、シーレーンの安全保障は最重要課題なのだ。これが損なわれれば、輸入依存度が高い日本は食料にも事欠く。

 私的に最も興味深かったのは、中国の地政学を書いた第4章最後の項目「北極圏開発をめぐる争い」。北極圏開発では沿岸国であるロシアや米国、カナダ、ノルウェー、デンマークがリードしていたが、ここ数年、中国が積極的に参入してきたという。
 北極圏の経済的魅力の1つは資源で、北極圏には豊富な天然資源があるとされ、「世界の未発見で掘削可能な天然ガスの30%と石油資源13%」があると云われる。この資源開発で存在感を増しているのが中国。

 2018年1月、中国は初めて北極政策についての白書『氷上のシルクロード』を発表する。「一帯一路」を北極圏にまで広げ、積極的に関わっていく方針である。既に2013年には上海に「中国・北欧北極研究センター」を立ち上げ、アイスランド、デンマーク、スウェーデン・ノルウェー、フィンランドと連帯し、資源開発や政策立案などを行ってきたそうだ。
 中国が特に注目しているのは、北極圏の中でもグリーンランド。グリーンランドはデンマーク領だが、自治政府が置かれている。中国は広大な国土に眠るレアアースやウランといった天然資源の開発に投資するほか、空港の建設などインフラ整備の事業でも関わりを深めているという。グリーンランドとしては、中国からの投資を受けて経済的自立を図ることで、独立を目指したい考えなのだ。

 北極といえば、最近は温暖化のために氷が溶け、生息地を追われたシロクマの映像がよく映されるが、この地では既に資源開発が行われていたことを本書で初めて知った。メディアでは盛んにSDGsなるスローガンを掲げているが、水面下では資源の争奪戦が始まっている。
 そして中国がグリーンランドに空港などの戦略地点を獲得すると、地政学的な火種を生む恐れがあるという。米国はグリーンランドを安全保障上の重要な地域として空軍基地を置いており、今後、この地域で両国間の緊張が高まるかもしれない、と著者はいう。

 北極圏のもう1つの魅力は北極海航路。北極海航路にはロシア沿岸を通る「北方航路」と、北アラスカやカナダ沿岸を通る「北西航路」の2つがある。殆どは北方航路がメインで、この航路を使えば、日本~欧州間で考えた時、スエズ運河を経由する従来のルートの3分の2に短縮される。海賊被害などの多いスエズ運河航路を回避できることで、安全性の向上というメリットがある。
 ロシアが北極海航路の売り込みに積極的なのは書くまでもなく、この航路を積極的に活用しているのが中国。中国にとって米国海軍の存在しないルートを築きたいのだ。

 以上を以って著者は、「北極航路をコントロールできるようになった国は、これからの国際的戦略を有利に進められるようになる可能性があります」(146頁)と述べる。既に一部では「中国北極脅威論」が叫ばれているが、これを報じた日本のメディアがあるだろうか。第4章はこう結ばれている。
日本は出遅れていますが、地政学的に意味を持ちはじめた北極圏にも目を向けるべきでしょう」(146頁)。

 記事をアップするに当たり、本書について検索したら、「はやりの「地政学」本を置かない理由 鎌倉の書店主に聞いた」という記事がヒットした。いかにも朝日新聞デジタル版に相応しい書店主で、「「地政学」に関する本は置いていません。国家や国際関係を論じていて、主語が大きい。語られることを個人として引き受けられず、責任を持てないと感じます。」という。
 書店主の金野典彦氏は、「書棚には、特定の人種、国や国民をさげすむ、いわゆるヘイト本は置いていません。ヘイトは差別。差別は人権侵害ですから、当たり前のことだと思います。」とも話していたが、日本人ヘイト本なら置いているのやら。道楽なら流行らない書店でも続けられるし、表向きは小さな書店を経営する工作員が登場するスパイ小説があったような。

 第7章・大国の情勢を映す アジアの地政学の最後は、「シーパワーの島国・日本の脅威は常に大陸にある」。金野氏や特亜シンパには大いに気に入らない主張だろうが、本書の結びは考えさせられた。
エネルギーの調達先を多角化すると同時に、このような海底資源(メタン・ハイドレート)の開発を進め、エネルギーの自給率を高めることも重要になります」(252頁)

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