トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

なぜ日本人はクリスマスが好きなのか? その二

2021-12-26 21:40:04 | 世相(日本)

その一の続き
 戦前は一部の都市部の富裕層や文化人の間で行われていたクリスマスだが、一般大衆に広まったのは戦後だった。広く大衆に受け入れられるようになったのは派手な広告が大だし、キリスト教への好感を植え付けるため、宣伝を手伝ったキリスト教団体もいたという。
 一部にせよ、戦前からクリスマスを日本人が受け入れたのは、元から新しがり屋でお祭り好きな気質に加え、昔風に言えばハイカラなイベントが好まれたのだ。

 大体クリスマスほど、華やかなイベントがあるだろうか?美しく飾られたクリスマスツリーを見ただけで心が華やいでくるし、街に流れるクリスマスソングは、何かと気ぜわしい年末の気分を明るくさせる。クリスマスシーズンに合わせて行われる各種イベントも楽しい行事が目白押し。クリスマスソングやイベントも宣伝の一種ではあるが、とにかく宣伝が上手い。
 対照的に神道や仏教では、これほど賑やかなイベントはないだろう。釈迦の誕生を祝う花まつりも、花で飾られた式場で甘茶を頂く程度。昔は甘茶は滅多に飲めないものだったが、砂糖が当たり前に入手できるようになった戦後、甘茶は特に有難がられる飲物ではなくなった。

 かくして国民の99%がノンクリとされる日本で、クリスマスは12月のイベントとしての地位を確立する。ニュースサイトの元記事にも次の書込みがある。
307: ヘール・ボップ彗星(和歌山県) [US] 2021/12/23(木) 18:13:23.22 ID:ez9Tn8nY0
お祭り好きな日本人の気質と、消費させたい販売側・広告屋の思惑が上手くハマっただけ
ハロウィンもこのパターンで急に拡散して馴染んだ

 キリスト教布教の手段として、せっかくキリスト教団体がクリスマスを宣伝したにも関わらず、一向に信者は増えなかった。その理由をクリスチャン、非クリスチャン双方が様々分析しており、私も「日本で受けないキリスト教」という記事をアップしたことがある。
 非クリスチャンによる考察は同感させられることが多いが、クリスチャン側の考察も挙げてみたい。「キリスト教が日本に広まらない5つの理由とは?【クリスチャンが考察】」という記事で、管理人のクリスチャンはこう指摘している。

①“多神教”の文化が根付いているから
②親が他宗教を信仰しているから
③植民地化された経験がないから
④知識がないから
⑤単純に興味がないから

 ①~③までは私も同意する。だが④知識がないからはいかにもクリスチャンらしい。クリスチャンはよく異教徒に知識がないというが、彼らもまた異教の知識はない。己の宗教こそ絶対と妄信しているから、単純に興味がないのだ。
 尤も件の管理人の両親は非クリスチャンだったそうだが、これでは改宗させないと両親は地獄行きになろう。管理人は己がクリスチャンであることを周囲にカミングアウトするも、特にいじめは受けなかったためか、「日本人はキリスト教をめちゃくちゃ毛嫌いしているわけでもなさそうですよね。」と述べている。

 但し、キリスト教の知識があってもこの宗教に好感を抱くとは限らない。むしろ知るほどに嫌悪感を持つ人もいるし、私ほどではないが歴史ブロガーにはキリスト教を非難する管理人が少なくない。
 学生時代のクラスメートに、キリスト教は愛の宗教だと褒めていた女生徒がいた。もしかすると彼女はクリスチャンだったかもしれないが、私はこう訊ねたことがある。「ヨシュア記についてどう思う?」。

 もちろん意地悪な質問だったし、私に問われた時の女生徒の顔はたちまち強張ったのが印象的だった。一般の日本人は聖書における聖絶、つまりジェノサイドを知らないから、キリスト教をめちゃくちゃ毛嫌いしないのだ。
 日本のキリスト教聖職者は、ヨシュア記についての解説を極力避けるという。拙ブログにNobなる自称カトリックからコメントがあり、「まさに光の御使いに変装したサタンに心を奪われてヨシュア記を書いたのではないでしょうか?」(2011-02-21)という一文があった。

 こんな詭弁で異教徒が誤魔化せると思い込んでいるようだが、同じことは神父やシスター、同信者には絶対言えないだろう。もし中世ならば、聖書の言葉を否定する異端として火あぶり確実だが、異教徒にはいくら虚言しても罪にはならない。
 明治時代ならキリスト教には近代的なイメージが強かったが、令和ではそんな印象はとうになくなっている。そのため興味がない日本人が大半だが、それでも知識はある程度あった方が良い。何といっても世界最大の信徒数の宗教だし、来日外国人にも信者は多いのだ。

◆関連記事:「震災とクリスチャン
日本で受けないキリスト教
キリシタンはなぜ迫害されたか?

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
黒蜥蜴 (スポンジ頭)
2021-12-27 22:30:37
 江戸川乱歩の「黒蜥蜴」は銀座でクリスマスパーティーをやっている場面から始まります。金持ちだけにせよ、しっかりと東京ではクリスマスパーティーをしていたのでした。

しかし、スーパーにうず高く積まれていた鶏肉加工品、あの行方はどうなっているのか考えると、いささかもったいない気もします。
返信する
神を疑う自由 (motton)
2021-12-28 11:16:08
キリスト教が日本に広まらない理由は、唯一神という設定が原因でしょう。
その設定を受け入れると、神を疑う自由を失うわけです。その神が唯一神である証拠もないのに。
返信する
Re:黒蜥蜴 (mugi)
2021-12-28 21:46:45
>スポンジ頭さん、

「黒蜥蜴」の始まりはクリスマスパーティーでしたっけ??子供時代に読んだのに、すっかり忘れていました。パーティーで「黒蜥蜴」が「女王様」とチヤホヤされていたのは憶えていますが。

 私もクリスマス以降の鶏肉加工品の行方が気になります。十年近く前のスーパーでは値下げして売られていたのに、今はサッパリ見かけません。ローストチキンなど翌日でも大丈夫なのに、ごみとして処分されるならば勿体なさ過ぎ。
返信する
Re:神を疑う自由 (mugi)
2021-12-28 21:48:14
>motton さん、

 仰る通りアブラハムの宗教特有の教義、唯一神という設定ゆえにキリスト教が日本に広まらないのです(イスラムも同じ)。
 イスラムに改宗した日本人が、イスラム理解のための講座を開いたのですが、唯一神を強調したためか聴衆から怒りを買ったことがイスラム系サイトに載っていたのを憶えています。

 キリスト、イスラム両教徒にとって、神を疑う自由など考えられません。そのような考えは無神論者となり、異教徒よりも無神論者の方が敵視されます。
返信する
黒蜥蜴 その2 (スポンジ頭)
2021-12-29 08:29:26
>「黒蜥蜴」の始まりはクリスマスパーティーでしたっけ??

 そうなんです。黒蜥蜴がクリスマスパーティーで全裸で踊るのが物語初めのシーンです。ここから東大と思われる医学部に保管されている死体を盗み出し、殺人の隠蔽を行うシーンへと続いていきます。昭和9年の話ですが、パーティのシーンはいわゆる戦前のイメージと異なりますね。
返信する
Re:黒蜥蜴 その2 (mugi)
2021-12-29 22:53:42
>スポンジ頭さん、

 黒蜥蜴は何とパーティーで全裸で踊っていたのですか!私が読んだのはポプラ社から出版されていた子供向けの本だったので、そのシーンは省略されていたのかもしれませんね。

 しかも作品の時代は昭和9年。戦前にストリップ劇場があったとは思えませんが、私的なパーティーでは密かに行われていたのやら。
返信する
黒蜥蜴 その3 (スポンジ頭)
2021-12-30 13:51:46
> 黒蜥蜴は何とパーティーで全裸で踊っていたのですか!

 そうです。ネックレスとイアリング、ブレスレットを付けただけの姿で踊るのです。子供向けの本でそんな話は無理でしょう。ウィキを見ると、今のようなストリップは戦後だそうです。さすがに戦前は公には無理でした。

 先日戦前の左翼新聞を見る機会があったのですが、それによると、映画が娯楽のトップであった戦前ですら、映画を見たことのない日本人は半数程度(だったと思います)あって、映画館は都市部に偏在していたとの事でした。だから、都市と地方の差は現在と比較にならず、東京なら派手派手しいクリスマスパーティーをしていたのでしょうし、また、扇情的な内容の描写でも一定のリアリティがあったのでしょう。

 こちらは1930年代の東京や宝塚です。裕福な雰囲気を漂わせており、昭和20年の焼け野原からは想像がつきません。関係ありませんが、関西の大手私鉄、阪急電車の話が出てきたのは個人的に笑えました。この中では名前は出ず、知っている人が聞けば分かるナレーションで出てきています。
https://www.youtube.com/watch?v=1CdrQjAOtGU
https://www.youtube.com/watch?v=95W1-SkOzt0

 ただ、建物はあまり高いものはありません。乱歩の本だと非常に高い建物が東京にあるような描写がありますが、これは戦前の人間と戦後の人間の感覚の違いでしょう。
返信する
Re:黒蜥蜴 その3 (mugi)
2021-12-31 22:52:57
 いかに小説でも黒蜥蜴のストリップはスゴイ!戦前にこんな作品を発表してもOKだったのは驚きますが、エログロナンセンスが流行った時期もありました。wikiのエログロナンセンスの解説には、乱歩の『陰獣』により猟奇ブームが巻き起こったとか。

 戦前の地方に映画館があっても、未成年は見られなかったそうです。母の高校時代、映画をこっそり見に行ったクラスメートは翌日担任から大目玉を食らったとか。現代では考えられませんが、映画を見ること自体が不良だったのです。

 動画で見る1930年代の東京や宝塚の繁栄ぶりは、まるで戦後のようですね。当時すでに自動車のキャンペンガールもいて、ニッサンのCМだったのは笑えました。街ではまだ和服の女性が少なくないですが、地方だと洋服はまだまだだったのでしょう。
 確かに高層ビルは見かけませんね。そしてナレーションの女性の声は何かで聞いたように感じましたが、名前は思い出せません。

 今年も参考になるコメントを沢山いただき、有難うございました。それでは、よいお年をお過ごし下さい。
返信する