【アミロイド】「旧石器捏造」事件の時、10万年前の石器から動物の脂肪酸が抽出され、脂肪酸分析により調理した動物種が割り出せることなどありえない、という私の主張にご支援を頂いた、食品化学の専門家Yさんから面白いお手紙を頂いた。お元気でおられるようで何よりに思う。
糖尿病におけるHbA1c値の上昇は、食後血糖値ピーク(グルコース・サージ)の際に、赤血球により取り込まれたグルコースが主たる要因で起こる、という私の説に賛意を表された上で、アルツハイマー病におけるアミロイド蛋白質も同様に高血糖が原因ではないか、というのが一つの論点である。
1)その理由として脳の「βアミロイド蛋白質は、血液由来の糖分が結合して形成される」のではないか?」とされている。
以下、この点についてコメントしたい。
「アミロイド物質」というのは、ドイツの病理学者ウィルヒョウが人体内(肝臓と脾臓)に半透明灰色の異常物質が沈着する例を認め、これがデンプンと同じように「ヨウ素デンプン反応」により青く発色するところから、「デンプン(アミラセア)類似物質(アミロイド)」と命名したのが始まりである。かつては「類デンプン」とも呼ばれていた。
「ヨウ素デンプン反応」はグルコースのポリマーであるデンプンの螺旋状構造の中に、ヨウ素分子がしみ込むために起こる。デンプンの分子が小さければ赤味を帯び、長くなるほど青みを帯びる。アミロイドの場合も、ヨウ素分子がしみ込むことは間違いないが、アミロイド分子は螺旋状でなく「βプリーツ構造」という、スカートのひだ状の構造をしている。このβプリーツ構造は狂牛病の原因である異常プリオンの特徴でもある。
コンゴ―レッドという色素はセルロースに吸着するが、線維を染めると共有結合でないために、汗でしみ出すので衣類には使用できない。しかしアミロイドの特異染色として試薬に用いられている。これはこの色素が、アミロイドのβプリーツ線維構造に吸着するためと考えられる。
アミロイド蛋白質には化学的組成が異なる10種類くらいの種類があるが、電子顕微鏡で見ると、いずれも細長い線維を形成している。このうちアルツハイマー病に関与しているのが、「Aβアミロイド蛋白質」である。
アルツハイマー病(AD)はアロイス・アルツハイマーによって1906年に「早発性痴呆」として記載された脳の疾患である。第21番染色体が3本ある(トリソミー)ダウン症の患者が45歳以上まで生存すると、アルツハイマー病と病理学的・臨床的に変わらない脳病変および症状を呈する。アミロイドはアミロイド前駆蛋白質(APP)から形成されるが、この遺伝子は第21番染色体上にあることが知られている。
ADにはさらに第1, 第14, 第19番染色体上にある遺伝子の異常が関与していることが知られており、「単一遺伝子病」ではない。
ダウン症患者に糖尿病が多いことは知られていない。糖尿病患者にADが多発することも知られていない。(Ⅱ型糖尿病での危険率は1.8倍)
APPはN-末端を外に、C-末端を細胞質内に向けた膜貫通性の蛋白質で、この長いペプチドは膜外可溶性部の付着部、膜のすぐ外側、膜の内側の3箇所で3種の酵素により切断されるが、膜のすぐ外側で切断された場合、APP蛋白の不溶部が細胞質内の取り込まれAPP分子の凝集が生じ、アミロイドベータ(Aβ)線維を形成する。Aβは細胞毒性があり、神経突起やシナプスの破壊をもたらす。このAβが凝集したものが「老人斑(アミロイド斑)」であり、これが細胞内に蓄積したニューロンは機能を喪失する。無症状高齢者の脳にも認められるが、AD患者では視床、海馬を中心として脳全体に顕微鏡により多数認められる。
2012年9月10日にNHK「試してガッテン」が取り上げたことで、インスリン不足とADとの関係が注目されているが、
http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20120926.html
食後にインスリン分泌を促進する「インクレチン」とそれを分解する酵素DPP-IV(阻害剤がⅡ型糖尿病治療薬として用いられる)のAD予防効果は明らかでない。http://ja.wikipedia.org/wiki/インクレチン
赤血球内でHbA1cの形成が起こるのは、赤血球にはミトコンドリアがなく、過剰なグルコースを細胞内でピルビン酸以上に分解するためのTCA回路が欠損しているためである。これに対して脳細胞にはグルコースの貯蔵体であるグリコーゲンがなく、脂肪滴もなく、血中から吸収したグルコースはただちにピルビン酸に分解され、沢山あるミトコンドリアによりATP分子の産生がおこなわれ、このエネルギー供給体により生活している。
以上の点を総合して勘案すると、糖尿病におけるHbA1cとアルツハイマー病におけるAβの形成過程には類似点がなく、「食後高血糖の防止がアルツハイマー病予防に役立つ」という仮説は支持しにくい。
2)「血糖」としてグルコースだけが注目されているが、他の「還元糖」も「Maillard反応」によってヘモグロビンなどの蛋白質と不可逆的に結合するので、食後グルコースの上昇を測る「グリセミック指数」には意味がなく、「血糖値測定」もグルコースだけでなくフルクトースやガラクトースも含めた「血中還元糖」全体の測定の方が望ましい、と述べられている。
以下、コメントを述べる。
「還元糖」というのはアルデヒド基類似の性質があり、無機の陽イオンを還元する能力をもつ糖をいう。PAS反応や「ヨードデンプン反応」はこれを利用した組織化学反応である。還元性を示す糖類には、グルコース以外に単糖としてフルクトースなど、二糖としてラクトースなどがある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/還元糖
「血糖」として量的に問題となるのは実際的にグルコースだけである。後は「炭化水素」としては、グルコースの分解産物である乳酸が10mg/dl、ピルビン酸が1mg/dl程度を占めるにすぎない。
食事後の血糖値の上昇パタンは、食べ物の種類、消化吸収の個人差により異なり、自己の消化吸収特性を「指数」として把握しておくことは意味があると思われる。
現行の「グリセミック指数」は食物別の血糖値上昇指数であり、
http://ja.wikipedia.org/wiki/グリセミック指数
個人差を考慮していない点には問題があるが、糖尿病患者あるいはその予備軍が食べ物を選ぶには参考になると思われる。
「Maillard反応」は日本語では「メイラード反応」と呼ばれるが、フランス人名であり英語WIKIでは「メイヤール反応」となっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Maillard_reaction
これは糖を過熱すると褐色になる現象をいい、糖が蛋白質に非酵素的に結合する「アマドリ(Amadori)反応」とは別物である。
アマドリ反応については日本語WIKIにないので、英語を示す。http://en.wikipedia.org/wiki/Amadori_rearrangement
次にグルコース以外の還元糖が異常に血中に増加する疾患としては、実際的に先天的な「ガラクトース血症」以外に知られていない。
これは「常染色体性劣性」の遺伝子異常によるもので、母乳中の乳糖(ラクトース)が小腸上皮微絨毛に存在するラクターゼにより、グルコースとガラクトースに分解され血中に吸収された後、グルコースはさらに分解され利用されるが、ガラクトースを分解する酵素ガラクトシダーゼが欠損しているため、それ以上に分解、利用されず、血中ガラクトース濃度が異常高値となるものである。
乳児は生後1年以内に、白内障(レンズ蛋白の白濁)、脳障害(ニューロンの変性・壊死)を発症し、食物からガラクトースを除去しないかぎり致死的である。しかし、この場合、脳にアミロイドが出現することは知られていない。
以上を総括すると、血液糖の主成分はグルコースであり、「グリセミック指数」はむしろ個人の消化吸収特性を反映するように改変すべきであるが、指数自体には意義があると考える。ちょうどアルコールの適性飲用量を決定するのに、個人にアルコール脱水素酵素があるかどうかを、加味するのと同様である。
またグルコース以外の単糖に毒性があるとする生理学的・病理学的証拠はなく、HbA1cを糖尿病の血糖管理の指標とする現行の検査法に大きな誤りがあるとは思えない。
人間の生存に不可欠な酸素が同時に老化や病気の原因であると同様に、栄養の基本であるグルコースがまた害をなし、病気の原因となるのは、人間存在の理法から見て、けだし当然である。古人曰く「過ぎたるは及ばざるがごとし」と。
糖尿病におけるHbA1c値の上昇は、食後血糖値ピーク(グルコース・サージ)の際に、赤血球により取り込まれたグルコースが主たる要因で起こる、という私の説に賛意を表された上で、アルツハイマー病におけるアミロイド蛋白質も同様に高血糖が原因ではないか、というのが一つの論点である。
1)その理由として脳の「βアミロイド蛋白質は、血液由来の糖分が結合して形成される」のではないか?」とされている。
以下、この点についてコメントしたい。
「アミロイド物質」というのは、ドイツの病理学者ウィルヒョウが人体内(肝臓と脾臓)に半透明灰色の異常物質が沈着する例を認め、これがデンプンと同じように「ヨウ素デンプン反応」により青く発色するところから、「デンプン(アミラセア)類似物質(アミロイド)」と命名したのが始まりである。かつては「類デンプン」とも呼ばれていた。
「ヨウ素デンプン反応」はグルコースのポリマーであるデンプンの螺旋状構造の中に、ヨウ素分子がしみ込むために起こる。デンプンの分子が小さければ赤味を帯び、長くなるほど青みを帯びる。アミロイドの場合も、ヨウ素分子がしみ込むことは間違いないが、アミロイド分子は螺旋状でなく「βプリーツ構造」という、スカートのひだ状の構造をしている。このβプリーツ構造は狂牛病の原因である異常プリオンの特徴でもある。
コンゴ―レッドという色素はセルロースに吸着するが、線維を染めると共有結合でないために、汗でしみ出すので衣類には使用できない。しかしアミロイドの特異染色として試薬に用いられている。これはこの色素が、アミロイドのβプリーツ線維構造に吸着するためと考えられる。
アミロイド蛋白質には化学的組成が異なる10種類くらいの種類があるが、電子顕微鏡で見ると、いずれも細長い線維を形成している。このうちアルツハイマー病に関与しているのが、「Aβアミロイド蛋白質」である。
アルツハイマー病(AD)はアロイス・アルツハイマーによって1906年に「早発性痴呆」として記載された脳の疾患である。第21番染色体が3本ある(トリソミー)ダウン症の患者が45歳以上まで生存すると、アルツハイマー病と病理学的・臨床的に変わらない脳病変および症状を呈する。アミロイドはアミロイド前駆蛋白質(APP)から形成されるが、この遺伝子は第21番染色体上にあることが知られている。
ADにはさらに第1, 第14, 第19番染色体上にある遺伝子の異常が関与していることが知られており、「単一遺伝子病」ではない。
ダウン症患者に糖尿病が多いことは知られていない。糖尿病患者にADが多発することも知られていない。(Ⅱ型糖尿病での危険率は1.8倍)
APPはN-末端を外に、C-末端を細胞質内に向けた膜貫通性の蛋白質で、この長いペプチドは膜外可溶性部の付着部、膜のすぐ外側、膜の内側の3箇所で3種の酵素により切断されるが、膜のすぐ外側で切断された場合、APP蛋白の不溶部が細胞質内の取り込まれAPP分子の凝集が生じ、アミロイドベータ(Aβ)線維を形成する。Aβは細胞毒性があり、神経突起やシナプスの破壊をもたらす。このAβが凝集したものが「老人斑(アミロイド斑)」であり、これが細胞内に蓄積したニューロンは機能を喪失する。無症状高齢者の脳にも認められるが、AD患者では視床、海馬を中心として脳全体に顕微鏡により多数認められる。
2012年9月10日にNHK「試してガッテン」が取り上げたことで、インスリン不足とADとの関係が注目されているが、
http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20120926.html
食後にインスリン分泌を促進する「インクレチン」とそれを分解する酵素DPP-IV(阻害剤がⅡ型糖尿病治療薬として用いられる)のAD予防効果は明らかでない。http://ja.wikipedia.org/wiki/インクレチン
赤血球内でHbA1cの形成が起こるのは、赤血球にはミトコンドリアがなく、過剰なグルコースを細胞内でピルビン酸以上に分解するためのTCA回路が欠損しているためである。これに対して脳細胞にはグルコースの貯蔵体であるグリコーゲンがなく、脂肪滴もなく、血中から吸収したグルコースはただちにピルビン酸に分解され、沢山あるミトコンドリアによりATP分子の産生がおこなわれ、このエネルギー供給体により生活している。
以上の点を総合して勘案すると、糖尿病におけるHbA1cとアルツハイマー病におけるAβの形成過程には類似点がなく、「食後高血糖の防止がアルツハイマー病予防に役立つ」という仮説は支持しにくい。
2)「血糖」としてグルコースだけが注目されているが、他の「還元糖」も「Maillard反応」によってヘモグロビンなどの蛋白質と不可逆的に結合するので、食後グルコースの上昇を測る「グリセミック指数」には意味がなく、「血糖値測定」もグルコースだけでなくフルクトースやガラクトースも含めた「血中還元糖」全体の測定の方が望ましい、と述べられている。
以下、コメントを述べる。
「還元糖」というのはアルデヒド基類似の性質があり、無機の陽イオンを還元する能力をもつ糖をいう。PAS反応や「ヨードデンプン反応」はこれを利用した組織化学反応である。還元性を示す糖類には、グルコース以外に単糖としてフルクトースなど、二糖としてラクトースなどがある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/還元糖
「血糖」として量的に問題となるのは実際的にグルコースだけである。後は「炭化水素」としては、グルコースの分解産物である乳酸が10mg/dl、ピルビン酸が1mg/dl程度を占めるにすぎない。
食事後の血糖値の上昇パタンは、食べ物の種類、消化吸収の個人差により異なり、自己の消化吸収特性を「指数」として把握しておくことは意味があると思われる。
現行の「グリセミック指数」は食物別の血糖値上昇指数であり、
http://ja.wikipedia.org/wiki/グリセミック指数
個人差を考慮していない点には問題があるが、糖尿病患者あるいはその予備軍が食べ物を選ぶには参考になると思われる。
「Maillard反応」は日本語では「メイラード反応」と呼ばれるが、フランス人名であり英語WIKIでは「メイヤール反応」となっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Maillard_reaction
これは糖を過熱すると褐色になる現象をいい、糖が蛋白質に非酵素的に結合する「アマドリ(Amadori)反応」とは別物である。
アマドリ反応については日本語WIKIにないので、英語を示す。http://en.wikipedia.org/wiki/Amadori_rearrangement
次にグルコース以外の還元糖が異常に血中に増加する疾患としては、実際的に先天的な「ガラクトース血症」以外に知られていない。
これは「常染色体性劣性」の遺伝子異常によるもので、母乳中の乳糖(ラクトース)が小腸上皮微絨毛に存在するラクターゼにより、グルコースとガラクトースに分解され血中に吸収された後、グルコースはさらに分解され利用されるが、ガラクトースを分解する酵素ガラクトシダーゼが欠損しているため、それ以上に分解、利用されず、血中ガラクトース濃度が異常高値となるものである。
乳児は生後1年以内に、白内障(レンズ蛋白の白濁)、脳障害(ニューロンの変性・壊死)を発症し、食物からガラクトースを除去しないかぎり致死的である。しかし、この場合、脳にアミロイドが出現することは知られていない。
以上を総括すると、血液糖の主成分はグルコースであり、「グリセミック指数」はむしろ個人の消化吸収特性を反映するように改変すべきであるが、指数自体には意義があると考える。ちょうどアルコールの適性飲用量を決定するのに、個人にアルコール脱水素酵素があるかどうかを、加味するのと同様である。
またグルコース以外の単糖に毒性があるとする生理学的・病理学的証拠はなく、HbA1cを糖尿病の血糖管理の指標とする現行の検査法に大きな誤りがあるとは思えない。
人間の生存に不可欠な酸素が同時に老化や病気の原因であると同様に、栄養の基本であるグルコースがまた害をなし、病気の原因となるのは、人間存在の理法から見て、けだし当然である。古人曰く「過ぎたるは及ばざるがごとし」と。
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