【錯覚】難波先生より

【錯覚】「現代のベートーベン」について元「日テレ」ディレクターで今、法政大学教授の水島宏明という人が「ハフィントンポスト」に論評を寄せている。
　http://www.huffingtonpost.jp/hiroaki-mizushima/post_6818_b_4742131.html
　「実に巧妙なウソだったので、みんなまんまと騙された」という。
　そうは思わない。ウソは稚拙だった。騙されたのは「障害者だ」という先入観があったからだ。先入観を抱いた途端に、冷静で客観的な判断ができなくなるのである。さる文士の言葉に「可哀想たぁ、惚れたってことよ」というのがある。「惚れた弱み」ともいう。同じ心理的メカニズムだ。

　例を挙げよう。
１. 旧石器遺跡捏造事件で考古学者の岡村道雄が藤村新一に騙されたのは、藤村が色弱であると事前に告白していたからだ。そこで岡村は、「私たちには同じような褐色にしか見えない地層だが、ひょっとすると彼（藤村）にはその微妙な色の違いが見えて、地層と地層の境、つまりかつて地表面であったある地層の上面を、鋭く見極めることができるのだろう」（「縄文の生活誌」講談社、2000/10, p.25, 回収前の旧版）
と思いこんだのである。この思い込みはその後28年間も続き、日本の考古学に計り知れない損害をもたらした。
　２. 2002/4/28放送のNHKスペシャル「奇跡の詩人」事件では、日木流奈という重度脳障害の少年(12)が、母親の差し出す50音文字盤を指で指して、文章や詩をつくるとされた。（図１）

　写真を真面目に見れば、子供の指には（廃用性の）拘縮があり動かせないはずだ。母親が子供の手首をつかみ、文字盤の上を移動させているのは明白だ。（図で子供の目線位置、母親の目線位置がずれていることに注目。）（動画では）しばしば子供は文字盤を見つめていなかった。（NHKはこの番組の再放送を拒否した。）
　http://ja.wikipedia.org/wiki/奇跡の詩人
　３. 私は見ていないが、今回の「佐村河内守」事件でもNHKは、2013/3/31のNスペ「魂の旋律―音を失った作曲家」という番組で、佐村河内を美化したらしい。まったく学習能力のないテレビ局だ。「奇跡の詩人」の繰り返しではないか。
　http://ja.wikipedia.org/wiki/佐村河内守

　この三つの事例に共通するのは「身体障害者が考えられない能力を発揮する」という「感動ドラマ」である。自分で勝手に信じこんで被害に逢う（金を巻き上げられるとか、恥を掻くとか）のは構わないが、それを報道するのは止めてもらいたい。
　「朝日」は「佐村河内」事件に関して謝罪し、過去の２本の記事を削除したが、系列の「WEBRONZA」で「視聴者にも問題なかったか？」という問題提起を行い、批判を浴びているという。
　http://www.j-cast.com/2014/02/13196707.html

　NHKや朝日の報道をそのまま受け入れた視聴者にも問題があったという点については、私も同感である。この３事例は常識で考えれば、すぐに疑いの眼で見るのが当然だろう。
　「実に巧妙なウソだったので、みんなまんまと騙された」というのは、ジャーナリストの責任を回避する言葉だ。昔、少年のスプーン曲げを信じて、大騒ぎしていた頃のテレビとちっとも変わらない。

　それにしても「かつては全聾だったが、３年前から回復していた」という本人の弁明には驚いた。
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/f-et-tp0-20140212-1256327.html
　「両側性鼓膜欠損」がどうしたら自然回復するのか、メディアはちゃんと取材し、自らを検証する「報道特集」を組んでもらいたいものだ。（NHK会長は「検証番組を製作する」言っているようで、この点は好感がもてる。）

　2/13「日刊ゲンダイ」は、札幌の聴覚障害詐欺事件についてこう報じている。
＜６年前、北海道で１３０人以上の聴覚障害年金詐欺が発覚した。このうち、約１１０人には「途中から治る」という“奇跡”が起きたが、最後まで障害者だと言い張った２０人は全員が有罪になっている。＞
　http://gendai.net/articles/view/geino/147950/2