【書評】「STAP騒動」は終りが見えない。5/5の各紙は理研の研究者全員約3,000人が、過去10年間に書いた自分の全論文の「自己点検」を、理事長の指示により始めたことを報じている。論文数では約2万5,000本になるという。
大変な作業で、理研は社会的信用を失っただけでなく、通常の研究業務も停滞することになるだろう。2Ch「生物板」のスレッド数はNo.357になっても、まだ日替わりで増えている。ここだけで35.7万件の書き込みが行われたことになる。
不正論文発掘は、大学研究者のものにも波及しつつあり、日本版ORIを設置しまともに対処しないと、日本のバイオサイエンスは大きなダメッジを受けるだろう。
それにしても体細胞と生殖細胞、万能幹細胞と多能性幹細胞、臓器特異性幹細胞の違いについて、一般の理解が米国に較べて格段に劣っていると思う。それが日本で成人男性の33%がSTAP細胞の実在を信じているのに対して、「Knoepfler(ノフラー)ブログ」投票ではわずか7%という差になって表れているのだろう。
http://www.ipscell.com/page/2/
生命科学がひろく大学教養科目になっており、また雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」や「ナショナル・ジオグラフィック」という科学雑誌が読まれ、すぐれた科学ジャーナリストが多数いる国との違いを痛感する。
にわか勉強だが、基礎生物学に関する読みやすい本を続けていくつか紹介したいと思う。
そこで、エフロブの「買いたい新書」書評にNo.215:山中伸弥・畑中正一「iPS細胞ができた!」を取り上げた。
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1398669486
副題が「広がる人類の夢」となっている。山中は1962年生まれ,神戸大医学部卒で,いうまでもない2012年のノーベル医学賞受賞者。畑中は1933年生まれ京大医学部卒の著明なウイルス学者で,京大ウイルス研教授,所長を務め,発がん性ウイルスに関する研究と著書で知られる京大名誉教授。
2006年8月にマウス皮膚細胞でiPS細胞の作成に成功した山中は,翌年11月ヒトの皮膚細胞でも作成に成功した。「これは単独でもノーベル賞受賞に値する」と直感した畑中が申し入れて,この異色の対談が成立した。08年初めに行われた対談時,山中は京大「iPS細胞研究センター(現研究所)」長」。本書は2008年にソフトカバーで出版された後,現在は同名で集英社文庫にも収められている(454円)。
全体が8話で構成されており,読みやすい。ヒトiPS細胞は米国の36歳白人女性の頬の皮膚に由来する市販の細胞を用いて作られたこと,元の細胞は表皮細胞由来ではなく表皮下にある線維芽細胞であること,05年にはマウスiPS細胞の作成に成功していたが,韓国で黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大学教授の「ES細胞捏造」事件が05年に発生したため,「論文を出したくても出せない」状況になり発表を延期したことなどが率直に語られている。
感心するのは,畑中のあくなき知的好奇心と山中の謙虚な語り方から分かる人柄だ。クローン・カエルを最初に作成したガードン(ノーベル賞を共同受賞)の仕事を先行研究として評価しているし,マウスの体細胞に増殖に関係する遺伝子24種をあらかじめ全部導入し,1個ずつ壊(ノックアウト)して最低限必要な4個の遺伝子見つけるという「コロンブスの卵」的発想は,共同研究者の高橋和利(現京大講師)によるものだと明らかにしている。
良書は年を取らない。内容は今でも正確で新鮮であり分かりやすい。メディア関係者がきちんと読んでいたら,STAP細胞をめぐる今回のバカ騒ぎは防げていただろう。幹細胞を知るに必読の一冊だ。索引があり,用語解説が巻末にまとめてあるとよかった。
大変な作業で、理研は社会的信用を失っただけでなく、通常の研究業務も停滞することになるだろう。2Ch「生物板」のスレッド数はNo.357になっても、まだ日替わりで増えている。ここだけで35.7万件の書き込みが行われたことになる。
不正論文発掘は、大学研究者のものにも波及しつつあり、日本版ORIを設置しまともに対処しないと、日本のバイオサイエンスは大きなダメッジを受けるだろう。
それにしても体細胞と生殖細胞、万能幹細胞と多能性幹細胞、臓器特異性幹細胞の違いについて、一般の理解が米国に較べて格段に劣っていると思う。それが日本で成人男性の33%がSTAP細胞の実在を信じているのに対して、「Knoepfler(ノフラー)ブログ」投票ではわずか7%という差になって表れているのだろう。
http://www.ipscell.com/page/2/
生命科学がひろく大学教養科目になっており、また雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」や「ナショナル・ジオグラフィック」という科学雑誌が読まれ、すぐれた科学ジャーナリストが多数いる国との違いを痛感する。
にわか勉強だが、基礎生物学に関する読みやすい本を続けていくつか紹介したいと思う。
そこで、エフロブの「買いたい新書」書評にNo.215:山中伸弥・畑中正一「iPS細胞ができた!」を取り上げた。
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1398669486
副題が「広がる人類の夢」となっている。山中は1962年生まれ,神戸大医学部卒で,いうまでもない2012年のノーベル医学賞受賞者。畑中は1933年生まれ京大医学部卒の著明なウイルス学者で,京大ウイルス研教授,所長を務め,発がん性ウイルスに関する研究と著書で知られる京大名誉教授。
2006年8月にマウス皮膚細胞でiPS細胞の作成に成功した山中は,翌年11月ヒトの皮膚細胞でも作成に成功した。「これは単独でもノーベル賞受賞に値する」と直感した畑中が申し入れて,この異色の対談が成立した。08年初めに行われた対談時,山中は京大「iPS細胞研究センター(現研究所)」長」。本書は2008年にソフトカバーで出版された後,現在は同名で集英社文庫にも収められている(454円)。
全体が8話で構成されており,読みやすい。ヒトiPS細胞は米国の36歳白人女性の頬の皮膚に由来する市販の細胞を用いて作られたこと,元の細胞は表皮細胞由来ではなく表皮下にある線維芽細胞であること,05年にはマウスiPS細胞の作成に成功していたが,韓国で黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大学教授の「ES細胞捏造」事件が05年に発生したため,「論文を出したくても出せない」状況になり発表を延期したことなどが率直に語られている。
感心するのは,畑中のあくなき知的好奇心と山中の謙虚な語り方から分かる人柄だ。クローン・カエルを最初に作成したガードン(ノーベル賞を共同受賞)の仕事を先行研究として評価しているし,マウスの体細胞に増殖に関係する遺伝子24種をあらかじめ全部導入し,1個ずつ壊(ノックアウト)して最低限必要な4個の遺伝子見つけるという「コロンブスの卵」的発想は,共同研究者の高橋和利(現京大講師)によるものだと明らかにしている。
良書は年を取らない。内容は今でも正確で新鮮であり分かりやすい。メディア関係者がきちんと読んでいたら,STAP細胞をめぐる今回のバカ騒ぎは防げていただろう。幹細胞を知るに必読の一冊だ。索引があり,用語解説が巻末にまとめてあるとよかった。