ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【野村秋介と慎太郎】難波先生より

2014-11-04 09:28:54 | 難波紘二先生
【野村秋介と慎太郎】
 10/3「産経抄」が伊丹十三の「ミンボーの女」と暴力団のテロを取り上げている。あれは面白い映画だったが、暴力団が民事紛争に介入する手口を徹底的に滑稽に解剖していたため、暴力団員の怒りを買い、監督が襲われ顔をめちゃめちゃに切られるという事件が起こった。
 昔、「新潮45」で、肝がんの治療に渡米して肝移植をうけたやくざの手記を読んだことがある。誰かが送ってくれた後藤忠政の手記『憚(はばか)りながら』(宝島社, 2010)という本を読んでいたら、「UCLAで肝移植受けた」と書いてあるから、たぶん同じ人物であろう。「ワシントンポスト」が後で「日本の大物ギャングがアメリカで肝臓移植をした」と報じたそうだ。
 で、彼が組長だった後藤組は、富士宮市に起こった山口組系の暴力団で、「伊丹十三襲撃事件」に関与したとして逮捕された5人はいずれも後藤組の組員だった。

 後藤の手記に「第6章:生涯の友・野村秋介」という章がある。野村秋介(1935-1993)は右派民族主義者で、10/9「週刊新潮」掲載の「石原慎太郎手記」によると、自民党の河野一郎(元朝日記者、河野談話の河野洋平の父)の土地が那須御用邸の敷地に隣接しており、宮内庁と境界線争いが生じたとき、「境界をうやむやにするため雑木林に火をつけさせたといわれた」とある。
 この噂を真実と考えた野村は憤慨して、1963/7、河野邸を襲い、拳銃で家人を外に追い出した後、邸宅に放火して、懲役12年の実刑を受けた。
 野村は千葉刑務所を出所後の1992年、参議院議員の選挙に際して、「たたかう国民連合・風の会」から横山やすしらと共に比例区で立候補した。これを『週刊朝日』巻末のマンガ頁「ブラック・アングル」(山藤章二)が、「虱(しらみ)の党」と揶揄した。翌年の1993年10月、朝日新聞東京本社を、社長・中江利忠に謝罪させるために訪れ、中江ら首脳と話し合いの後「皇尊弥栄(すめらみこと いやさか)」(=天皇陛下万歳)と三度唱えて、2丁の拳銃で両腹を撃ち、自殺した。
 石原は野村の死について、「私は通夜に行って、『野村、なんでこんな死に方をしたんだ、なんで相手と刺し違わなかったんだ』と言いました。彼は朝日新聞に対して、命がけで決着をつけるべきだった」と書いている。石原と後藤忠政に共通の友人がいたと初めて知った。
 「虱の党」事件もいまだに謎が多い。後藤は「マスコミは『言論に対するテロ』だというが、マスコミによる『言論によるテロ』もある」とこの事件について述べている。「野村さんは、(事件の起こる少し前から)自分に死に場所と死ぬ時を考え始め、探していたんだろう。それで死に場所を、自分の最後の敵とした朝日新聞に、死ぬ時をあの日(93年10月20日)に決めたんだろうな。」昭和19年10月20日は、「神風特攻隊敷島隊」が出撃する前日だという。後藤の手記からは「死ぬしかない」と追い詰められて行く野村秋介の心理状態が読み取れる。

 他方、石原の手記からは1989/4/20の朝日「KYサンゴ事件」が起こった背景がよくわかる。石垣島の美しいサンゴ礁がある海は、白保地区といい、この海を埋め立てて「新石垣空港」をつくる計画を1979年に沖縄県知事が発表した。<1983年までに測量や漁協に対する漁業補償などが進み、あとは公有水面の埋め立て免許が下りれば着工する段階になっていた。(WIKI)>という。
 1988年、この工事に待ったをかけたのが当時の運輸大臣石原慎太郎で、彼は石垣島へはダイビングによく行っていた。だから白保地区のサンゴ礁の美しさはよく知っていたので、「サンゴ礁を護れ」と埋め立て案に反対して、沖縄開発庁長官と口論になったという。その後国際的な環境保護団体の支援もあり、1989年に「白保埋め立て案」は撤回された。
 が、代替地としてより北部の平野部(現在の新石垣空港所在地)が注目されたとき、たまたま石原慎太郎の別荘用地が付近にあった。「ところが、朝日新聞は私に下手な因縁をつけてきた。朝日は、私が白保案に反対したのは、自分が所有している土地の値段を吊り上げるためだった、と匂わせる記事を書いた。濡れ衣もいいところだ。」(10/9「週刊新潮」)
 この情報から透けて見えるのは当時の朝日は沖縄県民の大多数つまり埋め立て賛成派を支持していて、石原運輸大臣の発言は政治家の私利私欲がらみと理解していたということだ。だから「サンゴ礁が台無しになっている」という報道は、「もうサンゴ礁は破壊され尽くした」という情報を伝え、「埋め立て案やむなし」の主張に有利に作用するという効果が予期されたはずである。
 「サンゴ事件」も、慰安婦報道も「両方とも構造はまったく同じ」と石原慎太郎は書いている。
 10/9「週刊文春」の「朝日新聞問題、私の結論!」という34人の著名人の発言を見ると、朝日擁護派は前高知県知事(NHK出身)の橋本大二郎だけだ。元日銀副総裁・作家の藤原作弥は「朝日は現在、サンゴ事件以上の苦境を迎えています」と述べている。この間多くの論評を読んだが、サンゴ事件と比較して「今回の方がひどい」と述べた意見はこれが初めてだと思う。
 石原慎太郎は「不買運動のススメ」を提唱しているが、それは読者個人個人が決めることだと思う。

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