ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【パラダイム・チェンジ】難波先生より

2014-05-19 18:35:31 | 難波紘二先生
【パラダイム・チェンジ】
 佐倉統が「STAP細胞があるかどうか、どうやって判断するか、論文に書いてある情報をもとに判断する。それしか方法はない」と「中央公論」時評に書いている。その通りだと思う。2/7のメルマガに<1953年にヒラリーとテンジンがエヴェレスト初登頂を果たした後、数年して中国政府が「別ルートでエヴェレスト登頂に成功した」と発表したが、西側世界は信じなかった。公表された登攀日誌があまりに雑で、実際に登ったのなら当然あるはずの、意味のない細部の記録が欠けていたからである。>と書いた。ここの2.「独創?」をお読み願いたい。
 http://blog.fujioizumi.verse(リンクの際は半角小文字に).jp/?eid=247
 報じられた「小保方実験ノート」を見て、さらに疑念が強くなった。こんなずさんな記録では、実験が本当に行われたのかどうかすら疑わしくなった。

 STAP論文(ネイチャー論文1)の著者要約は、「著者らは独自の細胞リプログラム現象を報告し、それをSTAPと呼ぶ。それは核移植も転写因子の導入も必要としない。STAPにおいては、一過性の低いpHストレッサーのような強度の細胞外刺激が哺乳類の体細胞をリプログラムして、多能性細胞を創出することができる。純粋のリンパ球に由来するSTAP細胞の動画と遺伝子再構成の解析により、分化した体細胞が細胞選択によってではなく、リプログラムによりSTAP細胞を生みだすことを著者らは発見した。STAP細胞は多能性マーカー遺伝子の調節領域においてDNAメチル化の著しい減少を示した。STAP細胞を胚盤胞に注入すると、STAP細胞はキメラ胚を形成し、胚細胞を通じての子孫産生に効果的に関与した。著者らはSTAP細胞由来の活発に増殖する多能性細胞株をも提示する。このように、著者らの所見は、哺乳類細胞のエピジェネティックな分化決定がつよい環境因子により、文脈依存性の様式で変換され得ることを指摘する。」(拙訳)となっている。
 著者要約は著者の言いたいこと、重要だと考えることが書いてある。
 この要約が強調しているのは「分化した体細胞が酸性ストレッサーのような細胞外刺激により初期化されて、受精卵と同じになる」ということだ。その証拠として1)TCR遺伝子の再構成と2)幹細胞遺伝子を発した細胞が示す蛍光の2点が挙げられている。しかし理研調査は1)の遺伝子再構成はなく、論文の画像が捏造であることを明らかにした。2)の動画に見られる蛍光を発する細胞は死につつある細胞が発する自家蛍光で、その証拠は間もなく動き回るマクロファージに食べられてしまうことだ。これは香港のリー教授も「再現不能」論文で指摘している。
 実験方法について、小保方らは「一過性の低いpHストレッサー」つまりpH5.7の塩酸緩衝液(buffer)処理30分(静止液25分、遠心分離5分)で体細胞が初期化するとしている。ところが、ここには何のセレンディピティもない。この箇所で引用されている論文は、3本で
1. Holtfreter J(1947) :J. Exp Zool 106:1997-222 (Neural induction in explants which have passed through a sublethal cytolysis)=これはカエルとイモリの原腸胚における神経管の誘導に関する、米ロチェスター大生物学教室からの実験報告で、哺乳類の実験にはあてはまらない。よって引用不適当。pHと電解質の種類を検討した以下の論文ならまだましだろう。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21027535
2. Gerhart J (1996): Dev Dyn 205:245-256 (Johannes Holtfreter’s contributions to ongoing studies of the organizer)=これは1992年に死去した上記の発生生物学者ホルトフレーターの功績を讃える追悼的総説であり、技術的部分の引用文献としては不適切である。
3. Byrnes WM (2009):: Mol Reprod Dev 76:912-921 (Ernest Everett Justm, Johannes Holtfreter,and the origin of certain concepts in embryo morphogenesis.
これについてはここで論文が読める。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19610071
これもジュストとホルトフレーターが胚発生学に与えた影響を述べた総説論文である。従って論文の技術的部分の引用文献としては不適だ。ジュストは19世紀から20世紀前半に生きたアメリカの生物学者だ。
 <何度読んでもどこに小保方さんの独創性・革新性があるのか、縁もゆかりもない他者により実験の再現が行われたのか、さっぱりわからない。>(2/7メルマガ【独創?】)と書いたのはこういう理由からだ。
 ホルトフレーターは両生類胚の分化誘導に「pH6.0以下のクエン酸」緩衝液を用いた。小保方がそれを「pH5.7の塩酸」緩衝液に変えた理由は何か、それが「方法」にも「考察」にも書いてない。
 Hurtado C.らは2007年に「Neural induction in the absence of organizer in salamander is mediated by Ras/MARK」(Dev Biol:307:282-289)という論文を発表している。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2096472/#!po=83.9286
Rasは発がん遺伝子であり、なぜか小保方論文ではこの部分が抜け落ちている。当初がん遺伝子を用いていたiPS細胞との違いを強調したかっためか?
 ホルトフレーターの実験はニューコープ(1969)により再現できず、彼は逆に「ニューコープ・センター」と呼ばれる内胚葉から中胚葉を誘導する部位を発見した。実験動物はアフリカツメガエルだ。シュペーマンが発見した「原口背唇部」の分化誘導部位は「シュペーマン・オーガナイザー」と呼ばれている。

 当初の記者会見で理研CDC副センター長の笹井氏は小保方論文を「コペルニクス的転回」と評価した。分化しきった体細胞が本当に初期化すれば、細胞生物学の根幹が変わるから確かにそういえるだろう。それを「パラダイム・チェンジ」という。パラダイムはトーマス・クーン『科学革命の構造』(みすず書房, 1971)が用いた言葉だ。先日の新聞が本書の訳者中山茂氏の訃報で、「パラダイム(paradigm)という用語を日本に紹介した」と報じていた。元は文法の規則を表す言葉だが、当初「科学の約束ごと」の意味で使われるようになり、後に社会的な約束ごとの意味でも使用されるようになった。
 科学においてパラダイムの変換が急激に起こると、「科学革命」になる。「体細胞のストレスによる初期化」が事実なら、まさにそれに相当する。
 パラダイムという用語を自由に使いこなし、普及させたのはむしろ柴谷篤弘「反科学論」(みすず書房, 1973)であろう。彼は「科学者個人の能力はほぼ一定しているので、科学者が対象を理解し記憶する能力にも一定の限界がある。しかし科学の進歩により知識の総量は増加する。よって知識総量に対する個々の研究者の知識の比率は相対的に減少する」と述べている。これが「専門家の無知」の病因である。「たこつぼ現象」、「専門バカ」ともいう。

 どの人物評も見ても「超優秀な頭脳の持ち主」と笹井芳樹氏は評されている。それでも専門家の無知は避けられない宿命にある。「幻のSTAP細胞」の背景にはそういう事情もあるだろう。
 しかしながら4/16の彼の記者会見での発言をみると、「STAP細胞は存在するのか」という記者の質問に対して、「STAP現象を前提にしないと説明できない部分がある。STAP現象は最も有力な仮説。検証する価値がある」(産経4/17記事)と言葉を変えて直答を避けている。「STAP細胞」を「STAP現象」に言い替えた巧みな答弁だ。
 この「現象(Phenomenon)」という用語はネイチャー論文の本文にはない。「細胞の再プログラム現象」として、STAP細胞が生じる過程を総称して「要約」の中で用いられているだけだ。ここを書いたのは笹井氏だろう。そうしてみると、1/29の記者会見では「STAP細胞ができた」ことを強調し、疑惑がつのってからの記者会見では「STAP現象は有力な仮説」と、「現象」で逃げをうてるとあらかじめ計算されていたのであろうか。
 もちろん実態のないところに現象などありはしない。が、多くの批評家は彼の「科学的説明」に納得してしまった。
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4 コメント

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Unknown (笹井氏)
2014-05-20 01:44:40
笹井氏は、アメリカ時代にツメガエルのオーガナイザーを研究しており、コーディンを発見しています.ホルトフレーター実験について当然詳しく知っていたはずです.
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素人ですが (酒井重治)
2014-05-20 03:31:37
私は生物学にも文学的にもど素人ですが
存在を確信していたからSTAP細胞発表となったはずなのに、今はSTAP現象だと笹井氏は言っているところをみると、それだけでも一般の人々を騙したことになる。
独立総合研究所の青山繁春氏は、「STAP現象と笹井氏は言っているが、科学的にハッキリとSTAP細胞はあると仰っている」と述べている。
この人もおかしい。現象と細胞では意味が全然違う。
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概念の転換 (良いパラダイムチェンジとは)
2014-05-20 06:24:16
パラダイムチェンジとはもともとは科学の世界からでたことですが、いまは広義に渡って使われています。日本は古い医学会が今だに自分達の権益を守るため、それを脅かす存在を排除しようとしています。今、東北地方に新しく医学部を創ろうという、動きがあります。一見地元医師会対新設組という構造にみえますがそうでしょうか。私はどちらにもそれぞれの利益の為の戦いにみえます。そもそもこれだけ人口減少が言われているのにまだ医学部はいるのでしょうか?問題なのは医師不足ではなく、医師の偏在なのです。今歯科医が供給過多と言う問題もあります。パラダイムチェンジ、そう、古い概念で考えていると迷宮に入ってしまいます。
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真似しただけなのに (パラダイムチェンジがまず必用なかたが)
2014-05-22 11:33:11
ノーベル化学賞を受賞した野依良治名古屋大学大学院教授(63)が、約2年前に名古屋国税庁の税務調査を受け、199 9年分までの7年間で約3300万円の申告漏れを指摘されていた。(2002年4月4日読売新聞)後に修正申告。小保方さんは理事長を見習っただけ?
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