ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評など】大隅和雄「事典の語る日本の歴史」/難波先生

2014-09-30 09:03:07 | 難波紘二先生
【書評など】
 エフロブ「買いたい新書」書評にNo.236: 大隅和雄「事典の語る日本の歴史」を取り上げました。
 http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1411370213
 文字で書かれた文書に依拠したものを「歴史」とするなら,日本史は間接的には『魏志倭人伝』に始まり,直接的には『日本書紀』に始まるといえるでしょう。以後官による「正史」の編纂が行われました。『日本書紀』に続く『続日本紀(しょくにほんぎ)』,『日本後紀』,『続日本後紀』,『日本文徳天皇実録』,『日本三代実録』という「六国史」がそれにあたります。
 『日本三代実録』の編纂者である菅原道真は,それ以前の歴史書の記載を項目ごとに抜き書きして,テーマ別,年代順にまとめ新しい歴史ハンドブック『類聚国史(るいじゅうこくし)』を編纂しました。これらを基にした、最初の日本通史が南北朝期に書かれた北畠親房の『神皇正統記』です。
 本書は日本の歴史の上で,さまざまな分野にあらわれた「知の集大成」としての「事典」を紹介し,解説している。それらは大まかに日本語辞典,外国語辞典,百科事典,常識教養書,説話集に分かれる。著者は1932年生れで東大文学部国史科を卒後,北大助教授を経て東京女子医大教授となり,日本の中世思想史を主に研究した。
 道真の『類聚国史』(892)が政治と行政について前例を調べるマニュアルなのに対して,源順(みなもとしたがう)による『倭名類聚抄(和名抄)』(935)は,当時の標準語であった漢語に対応する和名とその説明を万葉仮名で記した,日本最初の漢和事典である。この流れの事典には江戸中期に版木本で出た寺島良安『和漢三才図会』(1712)がある。
  16世紀の後半にポルトガル宣教師による日本布教が始まると,当時の日本語とその音をローマ字で採音した『日本語・ポルトガル語辞典』(日葡辞典)(1603)が作られました。この辞書は中世から近世にかけての日本語の発音や意味を記録していて,貴重な日本語資料となっている。本格的な「外国語・日本語辞典」が作られたのは幕末に蘭学が興ってから,蘭仏辞典を翻訳した『ハルマ和解』(1796) 出版が最初です。以後仏和,英和の辞書が続きました。維新後に政府が西洋文明の導入促進のために行った,仏百科事典の翻訳『文部省百科全書』(1873~84)さらに日本最初の本格的百科事典,『日本百科大事典』(三省堂,1908)の刊行がおこなわれました。
 かつて人々は読み本や小説本から知識や教訓をえていました。芥川龍之介の小説が多く素材を得た説話集は、短編小説のモチーフの宝庫です。『今昔物語集』と双璧をなす,700余話を収録した『古今著聞集』(1254)や同じような項目立てでありながら,解説を主とした『塵袋』(1270頃)のような「読む事典」もあらわれた。『太平記』は読み本の原型であり,講談の源流といわれる「太平記読み」によって,広く庶民の文化に浸透しました。
 巻末には紹介された書物133点の書名索引が付せられている。これらの書名の年代別リストと簡便な入手先が書かれてあるともっとよかっただろう。ともあれ「日本の歴史はどのような資料に基づき書かれているのか?」という疑問に答える格好のレファレンス本として推薦いたします。
 =献本お礼=
 旧石器考古学が専門の竹岡俊樹先生から、新著の『考古学崩壊:前期旧石器捏造事件の深層』(勉誠出版, 2014/9)の献本をいただいた。厚くお礼申しあげます。ご執筆ご苦労様でした。
 この本は2000年11月の「旧石器遺跡捏造」事件の背景や「毎日」スクープの真相、考古学会による「検証」などの動きを批判的に総括し、日本の考古学に何が欠けているのか、なぜ失われた信用を今も取り戻せないのかを総合的に解明したもので、やや専門的だが、あの事件について信頼のおける唯一の学術書といってよいだろう。
 約150点の参考文献が付されているが、これを見ると日本の旧石器時代に関しては、2010年以後に
1) 角張準一:「旧石器捏造事件の研究」(鳥影社, 2010)
2) 岡村道雄:「旧石器遺跡捏造事件」(山川出版, 2010)
3) 松藤和人:「検証<前期旧石器遺跡発掘捏造事件>」(雄山閣, 2010)
の3冊しか出版されておらず、旧石器文化そのものを扱った本がない。考古学の活動が沈滞しているのがよくわかる。
 この竹岡氏の批判を真摯に受け止めて、考古学会ははやく立ち直ってほしいものだと思う。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 9-29-2014鹿鳴荘便り/難波先... | トップ | 【修復腎移植ものがたり(7) ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事