ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【落ちた偶像】難波先生より

2017-10-17 12:40:54 | 難波紘二先生
【落ちた偶像】英国の作家グレアム・グリーンの原作を、キャロル・リードが監督・製作した映画(1948)だ。約90分のモノクロ作品だ。NTSCのビデオ信号からDVDを製作したのか、画像と音声にノイズが多かった。(後でラベルをよく読むと「韓国製」とあった。)
 サスペンス映画なので、前半は不安感を高めるためか音楽が不協和音に満ちていて、不快だった。タイトルを見ると、「音楽:ウィリアム・オルウィン」とあった。わざと不協和音を多用するので有名な音楽家だそうだ。私は「運動性音痴」だが、「感覚性音痴」ではないので、不快・不安の感情を掻き立てられた。これが監督の意図的なものだったと、映画後半になって納得した。後半の謎解きに入ると、背景音楽がなくなる。
 ロンドンの某国大使館を舞台とした物語で、執事(バトラー)のベインズと彼を慕う大使の息子少年フィリップ。それにベインズの夫人で大使館の家政婦、同じく大使館のタイピストでベインズの愛人ジュリーという、男女の三角関係がからむ事故死事件が主題になっている。「カズオ・イシグロの『日の名残』は、第二次大戦後の「大英帝国」解体で、落ちぶれて行く貴族の館の執事を主人公にしている。彼の小説にはこの影響があるな…」と思いながら見た。

 「墜ちた偶像」のことは高校時代に知ったが、ベインズ(ラルフ・リチャードソン)、フィリップ少年(ボビー・ヘンリー)、ジュリー(ミシェル・モルガン)という主演俳優のうち、ミシェル・モルガンだけを知っていた。ラルフ・リチャードソンはジャン・ギャバンやハンフリー・ボガードのような個性的な男優ではない。映画を見ていたら主演俳優の名前は覚えるので、「この映画は見ていない」と確信した。小説も読んだ記憶がない。「耳学問」にすぎなかったのだ、と知った。
 父の大使は公務でほとんど不在、母は病気で入院中、という環境設定で物語は進む。孤独なフィリップ少年は、庭に面した館外壁の外れる古石の奧に、マクレガーと名づけた小さな蛇をこっそりと飼っている。執事とその妻の家政婦とフィリップの3人で夕食する時、誰も食前に手を洗わないのにびっくりした。食前までマクレガーと遊んでいた少年は、まだポケットに蛇を入れている。「1948年のロンドンはこうだったのか」と思った。

 後半になり、2階の階段から転落死したベインズ夫人の死因捜査にロンドンの警察や監察医が乗り出すと、大使館員との会話で「英語でないから分からない」という台詞が市警側のスタッフから何回か飛び出す。音声が悪いから聴き取れないのかと思っていたが、ラストシーンで謎が解けた。入院中だった母親が帰宅してきて、玄関を入ったところで階段にいる息子に両手を挙げ「いらっしゃい 早く」(字幕)と呼びかける。完璧なフランス語アクセントだ。
 ところがこの部分の台詞を何度聞き返しても「ビィアン・ディ・モシェリ ビィアン」としか聞こえない。これはえせフランス語だと思う。もし本物のフランス語だったら、観客は、舞台は「フランス大使館」だと思うだろう。フィリップ少年の父は駐英フランス大使だということになる。これだと英仏間に外交問題が発生しかねない。「アカデミー作品賞」は無理だろう。そこまで考えて、よく作ってあるなと思った。
 英雄視していたベインズに信頼を失い、事故死を殺人だと思い込んだ少年が心ならずも、結果的にベインズを窮地に追い込んで行く。この視点転換が美事だった。

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