ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【定足数と議決数】難波先生より

2013-04-30 13:12:21 | 難波紘二先生
【定足数と議決数】「産経」が4/26に「国民の憲法」を発表し、憲法記念日が近づくにつれ、改憲論議が高まっている。
 自民党の「新憲法草案」(2005)をそのまま通すのは難しいので、「改憲手続き」を定めた第96条1項を「ゆるく」する、というのが安倍首相の当面の政治目標であるようだ。
 新聞などの報道では96条だけ報じられて、国会における定足数と議決数について、全体としての解説がない。しかし会議における定足数と議決数はきわめて重要である。


 現役時代、教授会は二種あり、人事以外の案件を審議する「教授会」と教員の人事を審議する「人事教授会」とがあった。
「教授会」の定足数は総員の過半数の出席により充たされ、議決は出席者の過半数によった。これは最悪の場合、総員の1/4以上の賛成があれば、ものごとが決まるということを意味する。
「人事教授会」は正規の教授のみが出席でき、定足数は教授総数の過半数、議決は出席者の2/3以上の賛成で行われた。


 ところが、学部移転の最中に、2種の教授会とも出席者が少なく、何度か流会になったことがある。この時に執行部が出して来た対策が、「定足数を1/2から1/3に下げる」という案だった。
 私はこの案に、真っ向から反対した。流会の原因は、大した議案もないのに、移転で旧キャンパスにいる人を新キャンパスに集めようとするからだ。教授会の回数を減らし、あらかじめ議題と日時を周知すれば人は集まる。また、「人事教授会」が2/3という議決数を定めているのは、それだけ良い人事をしようというのが目的だ。もし定足数を下げれば、理論的には総員の1/6以上の教授が賛成すれば、おかしな人事でも通ってしまう可能性が出て来る。このように主張したら、数学の教授が賛成意見を述べ、大議論になり、結局原案が撤回され、会議回数を減らすことで対処することになった。
 実際に、その後も人事教授会では何回か、人事案件を投票で否決したことがある。


 現行憲法では、「衆参両院の本会議定足数は各総員の1/3以上」、「議決は出席者の過半数」(56条)で、「議員資格の剥奪」は2/3以上の賛成を必要とする(55条)。法案および予算案に関しては、衆議院の優越を第59条と60条で、それぞれ認めている。
 問題は「憲法改正手続き」を定めた第96条で、「各議院の総議員の2/3以上の賛成により国会が発議し、国民投票により過半数の賛成をえる」こととなっている。自民党「憲法草案」(第96条)と「産経憲法」(第117条)では、この「2/3以上」が「過半数」に変えられている。つまり、議員資格の剥奪より、憲法改正の方が容易になってしまう、というものである。


 国民投票という最終決定の場があるとはいうものの、両院で絶対過半数を得た党が、改憲を発議し始めると、改憲に歯止めがかからなくなる恐れがある。極端な例を述べれば、与党が改憲に反対する野党議員を、なんらかの方法で国会に出席できなくしておいて、1/2の定足数を充たし過半数の議決で「国民への提案」を可決することも起こりえる。似たような事例は、ナチス時代に「ヒトラーへの非常大権付与」で起こっている。


 フランスは大革命以来、憲法を5回書き換え、いまは確か「第五共和制」になっているはずだ。アメリカは憲法そのものの書き換えはやっていない。「修正条項」という方式で、50回以上修正を加えている。英国は「コモン・センス」の国だから、憲法そのものがない。日本はまねしたくても、コモン・センスが国民的に成立していないから、英国式はとれない。
 安倍首相は、「戦後レジーム」を終わらせるといっているから、究極的にはフランス方式をねらっているのだろうが、維新の橋下大阪市長すら「それなら日本国民を辞める」というくらいだから、ここに来て96条の「改憲手続き」の改正に絞って攻めようとしているように思える。


 しかしこの条項は船でいうとキングストン・バルブのようなもので、下手にいじると国家の安定性が失われることを十分に認識しておくべきだろう。それよりも、特定の具体的な1条項にターゲットをしぼって、現行の改憲手続きに従って、改憲を行うべきだろう。さもないと、フランスの第四共和制のように、今の憲法体制そのものが危うくなる。いや、安倍政権が、というべきか。
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