【ボストン】難波先生より

【ボストン】での爆弾テロ事件は発生後、わずか４日で犯人のチェチェン人兄弟が割り出された。米紙は読んでいないが、日本メディアはほとんどNY支局からの報道で、そこからボストンは600キロも離れている。日本なら東京から岡山の事件について報じているに等しい。
　ボストンは学問、文化の町で、NYの経済、ワシントンDCの政治と並んで東海岸の３大センターだ。これからは「知価革命の時代」で、ハーヴァード大やMITでの最先端の研究取材が大事になるのに、日本メディアの取材体勢はおそまつだ。ほとんど米TVや米紙報道を利用している。「サンスポ」はこう伝えている。
　http://www.sanspo.com/geino/news/20130420/sot13042005030002-n3.html


　＜インタファクス通信によると、米メリーランド州に住む兄弟のおじ、ツァルニ氏は「タメルランから（事件の）前に許しを請う電話があり、近く会いに来るはずだった」と証言した。同氏はボストンのテレビに「彼らはこの世に生きている資格はない。兄は出来の悪い臆病者だ」と話した。
　ロシア在住の容疑者の父、アンゾル・ツァルナエフ氏はインタファクスなどの電話取材に「（兄は）殺さずに生きて捕まえるべきだった。息子たちは敬虔（けいけん）なイスラム教徒。弟は米国の医科大学の２年生で、休日に兄弟で会いに来るはずだった」と語った。＞


　FBIは、「犯人はパニックに陥った群衆とは別の行動をとる人物」とみて、複数の監視カメラによる動画映像を解析し、容疑者の様態を絞り込み、年齢、宗教などのデータベースと照合し、容疑者特定に至った。（4/20午前には残った容疑者を逮捕した。）見事なものだ。日本の警察庁にこれができるか、はなはだ疑問だ。それにしてもジョージ・オーウェル(George Orwell: 1903-50:本名=Eric A. Blair) の、隠しカメラにより常に市民が監視されている社会『1984』(1949)が実現したわけだ。
　（村上春樹はこの１字を変えて「1q84」という駄作を書いた。こういう作家がノーベル文学賞をもらえるとは思えない。）


　米メディアの報道で感心するのは、「罪は犯した個人にある」という立場を崩さず、近親者やことに親を取材することだ。ヒンクリーという青年(ちょっと精神異常があった）が、ワシントンでレーガン大統領が車に乗るところを狙撃し、護衛のひとりが死亡した事件では、両親がTVに出演して弁明したが、親を非難する世論はまったく興らなかった。日本のメディアはこういう場合、「道義的責任」という自分では信じていない武器をかざして、一方的に関係者を糾弾する。あれは陰湿でやりきれない。


　チェチェンはカスピ海の西岸カフカース山脈の北にある乾燥した低地帯だ。黒海とカスピ海に挟まれた、この狭い地峡にアディゲ共和国からタゲスタンまで７つの小さな国がある。民族的に複雑な歴史があり、ロシア正教とイスラム教が衝突し、バクー油田からのパイプラインが通るから、紛争が絶えない。チェチェンは人口130万人程度で愛媛県(140万人）より小さいのに、1994年の第一次チェチェン戦争以来、2000年までロシアと２度戦争が起こっている。独立派はモスクワで何度も爆弾テロ事件を起こした。


　犯人とされる兄弟は、おそらく紛争があった90年代後半に、チェチェンで生まれたのであろう。（ただ時事は父親が現在タゲススタンに住む、と報じている。）チェチェン紛争が今度の事件とどう関係しているのか、今後の報道に注目したい。弟の方は＜米国の医科大学の２年生＞とあるが、ハーヴァードかマサチューセッツ医大の学生だろうか？
　（4/20のNYTでは、「(弟の）ジョハル容疑者はマサチューセッツ大学ダートマス校に在籍していた。」とある。
　http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324309104578433540507979854.html
「モスクワ時事通信」は「口腔医」を目指していた、と報じている。これは歯科医のことだろう。この大学の医学校はウースターという町にある。ダートマスにはない。）


　米国の医大はカレッジ卒業生しか入学を認めない。日本でいうと他学部卒業生しか医学部に入れない。これは「医師としての人格、適性」を重視し、事前審査をするからで、「歩留まり」をよくするためだ。日本では最初から医学部入試をやるから、教養もない社会性もないのが医学生になり、かなりドロップアウトする。それも教育年限が６年しかない。
　どうして医学生が人命を無差別に奪う、爆弾テロ事件を引き起こしたのか、これもまだ分からない点だ。