ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【天声人語】難波先生より

2014-04-07 10:26:09 | 難波紘二先生
【天声人語】「朝日」4/2の記事をネットで見ていて、英語版では「天声人語」がラテン語の「Vox populi, Vox dei(民の声、神の声)」と訳されているのに気づいた。

 http://www.asahi.com/articles/ASG425T8XG42UEHF00X.html
<There is a doctoral dissertation titled "The effects of ultraviolet rays on the electric reaction of the eyeballs of frogs." If you just chuckled at the nonsensical quote in recognition, you are most likely a fan of novelist Natsume Soseki (1867-1916) and familiar with his book, "I Am a Cat." That is the title of the dissertation Kangetsu-kun, a character in the novel, is working on. And, it is a well-known fact that Soseki modeled Kangetsu-kun on physicist Torahiko Terada (1878-1935).
 Terada is the source of many quotable comments, among which is, "Anyone who aspires to be a scientist must fall in love with Mother Nature, who opens her heart only to her lover." I used this very same quote in this column back in January in praise of the "monumental discovery" announced by Haruko Obokata, head of a research unit at the Riken Center for Developmental Biology (CDB).>
 日本語版はこうなっている。http://www.asahi.com/articles/ASG41365JG41USPT008.html <実存はしないが、知る人ぞ知る博士論文がある。「蛙(かえる)の眼球(めだま)の電動作用に対する紫外光線の影響」という。にやりとした方は漱石ファンだろう。小説「吾輩(わがはい)は猫である」に出てくる寒月(かんげつ)君の取り組む論文だ。そのモデルが物理学者の寺田寅彦なのは、よく知られている。
 ▼味わいの深い多くの言葉を、寅彦は残した。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」。そんな一節を1月の小欄で借用したのは、「大発見」をなした小保方晴子さんへの賛辞だった▼喜びとともに報じた快挙を、カッコつきで書かねばならないのはやりきれない。> 英文の方は、ネイティブが意訳したのか、忠実な翻訳ではない。ともあれ、天声人語氏はすっかり当初の理研発表を信じたようだ。
 「天の声にも変な声がある」と述べたのは福田赳夫首相だが、「朝日」は「民の声」を代表していて、それが「神の声」といいたいのか、それとも自分が「神の声」でそれが「民の声」になるべきだと言いたいのか。
 ラテン語原文では民の声と神の声の間にest(である)が省略されているだけだから、「民の声は神の声」という意味だ。
「オックスフォード引用句辞典」によると、この言葉は英語の格言:The voice of the people is the voice of God.だという。「民の声は変だ。神の声でもあり、そうでないこともある。」(A.ポープ、1737)や、「民の声は嘘の声(Vox humbug)」(米北軍シャーマン将軍, 1863年)とも関係があるそうだ。元は、フランスのシャルマーニュ大帝に仕えた、英国生まれの学者アルクィヌス(c.745~804)の、「民の声は神の声だと言い続ける人びとに耳をかしてはならない、民衆の激高しやすさは常に狂気に近いからだ。(Nec audiendi qui solent dicere, Vox populi, vox Dei, quum tumultuositas vulgi semper insanitae proxima sit.)」という言葉から来ているという。
 「岩波・ギリシア=ラテン引用語辞典」にも載っている言葉だが、背景説明や引用関係の記述がまったくなく、役に立たない。日本語ウィキによると「天声人語」は1904年1月5日に「朝日」に登場したコラムだという。 http://ja.wikipedia.org/wiki/天声人語
 ラテン語の用例をみると、この言葉「民声声」は必ずしも肯定的な意味で使われていないから、「天声人語」の出典は中国にあるか創案である可能性が高いと思う。
 それはともかく「天声人語」氏は<寺田寅彦を引用して小保方の「祈念碑的発見」を称賛したこと>を恥じている。「朝日」はネットで過去記事が読めないから何と書いてあったのか知らないが、英語版の「Vox populi, Vox dei」はちょっと傲慢な感じがする。本屋の新書コーナーに行くと、山際澄夫「すべては朝日新聞から始まった<慰安婦問題>」(ワック文庫, 2014/1)という本がよく売れている。著者は元産経記者で、タイトルは刺激的だが中身はこの問題の発端と経過を「朝日」記事の点検により検証したものだ。
 スイスのノバルティス本社は日本支社の幹部を更迭して、信頼を回復しようとしている。恐らく日本移植学会関係者への「寄付講座」の問題も方針転換が行われるだろう。朝日も過去の誤報ときちんと向きあう努力が必要だ。
 今回のSTAP細胞事件では、理研の広報に広告会社が関与したという。まずメディアがとびつき、ついで大衆がすっかりそれを信じた。大衆とは、かくも騙されやすい存在だ。2006年の「病腎移植」でも同じことが起こった。あの時は初めから猛烈なバッシングで、学術的異論はメディアに取り上げてもらえなかった。
 「宣伝におよそ学術的詳細は不要である。大衆の受容能力はきわめて限られており、理解力は小さい。すべての効果的宣伝は重点を絞って、スローガンのようにして、継続的に行う必要がある。宣伝にあれもこれも取り入れようとすると、大衆は提供された素材を消化することも記憶しておくこともできなくなる。…宣伝は大衆に確信させるためにある。大衆は鈍重だから、ひとつの知識をえるまでに時間がかかる。そのために同じことを何度も繰り返す必要がある。」(要約:「わが闘争(上)」, 角川文庫)
 2ヶ月間、理研と◯◯堂の「STAP細胞」という広報に躍らされたメディアと大衆を見ると、ヒトラーの高笑いが聞こえるような気がする。宣伝に成功して、世の中がひとつの考えしかできなくなった状態が「狂信」で、これがファシズムの基盤となる。狂信は「洗脳」といってもよい。独裁というのは統治の一手法にすぎない。今の日本はいつでも狂信状態に陥る危険性があることは、非科学的な反喫煙運動をみればわかる。
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