笑顔のMOTO

日々の生活で感じた色んなことを、綴っていきます。

消えてなくなったスラム街。

2007-05-11 21:47:18 | アジアの話
最近、マニラのフィリピン国鉄線路沿いにあるスラム街が、
ある一区画だけ、ばっさりすっきり移転された。
先月マニラに行った際に、写真を撮ってきた。

1年ほど前までは、線路ぎりぎりまで家が立ち並び、
家の前に立っていたら、電車に引かれてしまう、
電車がくるたびに、家の隙間に入らないといけない、
ってぐらいだった地域だ。
空港からマカティに行く途中に通る道路沿いにあったので、
マニラに行ったことのある方なら、一度は見ている光景だと思う。

こんなにも綺麗に移転されたことに驚いたのだが、
さらにびっくりするのは、新たなスラムが作られずに、
更地が維持されていること。今年の1月にマニラに行ったときに
すでに更地になっていたから、少なくとも3ヶ月以上は
維持されている。

これ、フィリピン国鉄の事業による移転なのだが、
現段階では、マカティ地区の4.5kmだけしか実施されておらず、
ちょっと先に行くと、相変わらずのスラムが広がっている。

この移転事業の事前調査を、自分の会社が携わっていたため、
事業の内容を聞くことが出来た(Beforeの写真も頂いた)

North-South Rail Linkage Project。
フィリピン国鉄の、軌道改善、複線化、駅施設改善、
車庫施設整備を含んだ総合的な改善事業。
対象地域は、マニラからルソン島南部までに及び、総延長65.9km。

このプロジェクト全体の想定移転住民は、47,985世帯。
総延長65.9kmだから、平均すると10mあたり7世帯もの人が
住んでいることになる。

鉄道用地内の中でも、線路から5m以内に含まれる世帯を、
プライオリティエリアと指定し、優先的に移転に取り組んでいる。
そこに住んでいる世帯は、Phase1の延長40kmで、20,221世帯。

たった5mの幅なのに、10mで5世帯。。
両脇に住んでいると考えても、1世帯あたりの面積は
20m2しかない?!
生活環境の悪さは、容易に想像がつく。

これらの世帯の大半は、ミンダナオやビサヤといった
地方から出てきた人々。彼らは、この事業に伴って、
政府が準備する移転住宅に移るか、自分の故郷へ帰るか
のどちらかを選択することになる。

移転に伴い支給される補償は、合計203,000ペソ(約52万円)。
低金利で購入できる家、食料補助、水道や電気
生活援助の無利子ローン、移転補償費、等々、、が含まれる。
平均月給1万円といわれるこの国で、この補償費用は、金額だけ
みると充分といえるかもしれない。

インタビュー結果によると、移転に反対する人はあまりおらず、
むしろ住環境の改善、生活水準の向上のいい機会として
受け止めている人が多いようだ。

ただ、移転住宅にはインフラは充分に整備されるが、
マニラの隣の県にあることを考えると、小規模なビジネスで
生計を立てていた人は、雇用機会を失ってしまい、
移転後の生活を維持していくのは、大変になるだろう。
実際、移転先が遠すぎたため、みんなすぐに戻ってきてしまい、
スラムが復活してしまった、という話を聞いたことがある。

現段階では、新たな移転予定地の建設は、充分には行われておらず、
マカティ地区以外では移転は進んでいないようだ。

計画通り他の地域でも移転が進み、スラムが再生することもなく、
フィリピン鉄道が通勤鉄道として機能する日が来るのだろうか。
数年、いや数十年先、のことかな。