日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

近刊・私の収穫

2011-11-24 23:34:04 | 居酒屋
様々な情報が氾濫する現代にあっても、このような切り口で居酒屋をとらえた書物が果たしてあったでしょうか。その名も「煮込み」です。
「煮込みのうまい居酒屋」を取り上げただけの本なら、わざわざここで取り上げたりはしません。この本の価値は、「煮込み」そのものを一冊の本としてまとめ上げたという点にあります。全国から厳選された33の名店で出される煮込みが、各店につき2頁を割いて紹介されており、1頁目は主役である煮込みをクローズアップした写真1枚と簡単な紹介文、2頁目は料理本のごとく6コマの写真を交えた調理法が記されるという構成です。店舗の情報は各店半頁で巻末にまとめられており、これまた簡潔ながらも必要にして十分な情報が網羅されています。煮込み一品を圧倒的な主役に据えて、その由来や特徴、さらには調理法までを簡潔にまとめ上げるという、斬新かつ完成度の高い構成には感服するほかなく、「居酒屋100選」に出会ったとき以上の新鮮な驚きというものを覚えます。
とりわけ価値が高いのは、いわゆる「東京三大煮込み」が巻頭にて揃い踏みを果たしていることです。これほどの名品をレシピにまで踏み込んで紹介するにあたっては、取材者も相当の労力を注いだであろうことが容易に想像できます。実際のところそのレシピとは、「牛すじ5kg」であるとか、「30人分」であるとか、家庭では到底再現できないような分量で、果たしてこれがどれほどの役に立つかという素朴な疑問が起こらないではありません。しかし、熟練した職人が大鍋で仕込むからこそよいのであって、素人がこの本を片手に見よう見まねで作っても、名店の味はおそらく再現できないでしょう。名品に込められた職人技の一端を知るだけでも、居酒屋の楽しみが一段と増すこと請け合いです。ありきたりなガイドブックに食傷気味の向きには、是非ともおすすめしたい一冊です。

居酒屋の定番 煮込み
単行本ソフトカバー88ページ
出版社 柴田書店
ISBN-10 4388061085
ISBN-13 978-4388061082
発売日 2011/2/24
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