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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

僕達の七夕

2010-07-07 01:59:14 | 夜々懐想
専門学校 2年の夏休み
僕は 家族で天童に旅行に行った
隣の街には 彼女が帰省していた


僕は 旅館の公衆電話から
彼女の実家に電話した
お母さんが出て 初めましての挨拶をして


凄く緊張した


とりついでもらって 電話に出た彼女も
とっても ヒソヒソ声で
嬉しかったのと ビビっていたのと





「なんていう旅館に泊まってるの?」
僕は 十円玉を足しながら 宿の名前を伝えた
「わかった じゃあ 抜け出して行くから 2時間後に」


僕は 家族の待つ部屋に戻って
浴衣から 普段着に着替えて
『ちょっと 近所を散歩してくるね』 嘘をついた


すぐに帰ってきて 普段着のまま寝た振りをして
約束の時間の少し前に 再び部屋を抜け出した
もう ハタチだったのに そんなコトすら大冒険だった


山形の夏は 夜でも暑かった


温泉街だったから 夜中になっても
わずかな人通りは あって
ボンヤリ眺めながら 彼女を待った


約束の時間を 少し過ぎた頃
彼女は 自動車でやってきた
幸か不幸か 僕は 彼女の教習所の失敗談を聞いていた


助手席に乗って 隣の街の 彼女の実家を見た
「ここが 私の家」
『ふうん』


会えて 嬉しかったことより
家族を出し抜いた 緊張より
彼女の運転は 恐怖だった


絶対に翌朝の 地方新聞に載るだろうな
今まで聞いた どんな怪談より
背筋が凍った 真夏の夜だった


『せいちゃんと 会った?』
「ううん せいちゃんは 仙台にいるから」
『ふうん』


その夜 交わした会話で
記憶に残っているのは
それくらい


夏休みで 帰省すれば
きっと 元彼に会ったんだろうなって
嫉妬な動機で 聞いてみた


「でも 仙台は 仙山線で一本なんだ」
『ふうん』


あれだけ 会いたかったのに
嫉妬と 恐怖で
僕は 真夜中の邂逅を激しく後悔した


再び 旅館の前まで 送ってくれて
じゃ 二学期に会おうと
あまり さわやかでない別れ方をした


それから 一年後
僕は 浜松にいて 彼女は 実家にいて
僕等は終わってしまった


猫よりも 雷を怖がって
プリンさえあげれば 機嫌が直って
寂しさに耐えられない人だった


でも 彼女は もういない


たしか あの夜は 旧暦の七夕だったんだ


1年に1度しか会えない 織姫と彦星だって
もともとは 激しく愛し合い過ぎたから 引き裂かれたんだし
それでも 会えるんだもんね 1年に1度


せめて そっと 思い出してあげたい
少なくとも 1年に1度くらいは
僕等の天の川は 生と死の間に流れているから