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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

カビネットなフランケン

2009-08-05 20:19:32 | 夜々懐想
21才の夏
僕は 浜松の 勤労青少年寮にいた


小さな会社に 若い人材を
地方から 受け入れやすくするための
公的な宿泊施設だった


朝 6時半には 館内に
大音量で ラジヲ体操が流され
眠い目をこする若者が 集まる


夜 10時には 部屋の照明が切られる
そして 11時には コンセントさえ切られ
電化製品さえ 全く使えなくなる夜が来る


冷房などなく 扇風機も 夜11時まで
暖房も 夜11時には 切られてしまう
今の僕の 野生的生活は 
どうやら この頃に 培われたみたいだ


僕は とりあえず挨拶はするが
寮生とは それほど 仲良くしようと努力しなかった
でも 親しく近づいてくれる人が 何人かいた


ケンさんは 日体大を出た マッチョな27才だった
筋肉の仕組みを教わって 筋トレの方法も教わった
僕は とても やせっぽっちだった


ケンさんと一緒に 酒を飲むようになって
近所の酒屋に行って マスターと仲良くなった


マスターは ドイツワインのマエストロで
素人で貧乏な僕らに
ドイツワインを楽しむ方法を 毎回 教えてくれた


夜中 電源が切られてしまうから
僕らは 冷蔵庫を持つことができなかった
だから ちょっぴり高いアウスレーゼも
二人で 一晩で 飲み干したりしていた


葡萄の産地 葡萄の種類 等級
ちょっとずつ 飲み比べて
僕らは ちょっとした ドイツワイン通 気取りだった


「なんで フランケンだけ こんなボトルなのかな」
『うん なんでだろうね』


緑や 茶色の 普通のボトルが並ぶ中で
フランケン地方だけは だるまのようなボトルだった
そして 僕らが通う店には 最後まで このボトルは並ばなかった


「いつか トロッケン・ベーレン・アウスレーゼ 飲もうぜ!」


僕らは 安くても おいしい 僕らだけの お気に入りをみつけ
でも 最も最高級のワインの味を
それぞれ 空想の中で描きながら グラスをチビチビやっていた


あれだけ 仲がよかったのに
ケンさんとは 寮を出て 
それっきりになってしまった


ケンさん 元気でやってるのかな
僕は 筋トレをしながら 時々 思い出す
いつまでたっても ケンさんのようなマッチョには なれないまま


フランケンワインを もらった
等級は カビネット …小さな部屋
僕は今も カビネットに住んでいる