ももママの心のblog

猫が大好き。有料老人ホームで生活相談員をしています。映画が好きだけど、なかなか見られません。

クィーン

2007-07-12 | 映画 か行
現役の女王という誰でも顔を知っているが、日常生活については詳しくしいらない人物・エリザベス女王をヘレン・ミレンが単なる物まねにならない演技で演じた。国際的に任期が高いが、ロイヤル・ファミリーを離れたばかりのダイアナ妃の悲劇的な事故死に直面し、苦悩する女王をリアルに描いた。

2007年(公開) イギリス、フランス、イタリア ヒューマンドラマ
2007年7月4日 ワーナーマイマル・シネマ・多摩センター
監督 スティーブン・フリアーズ(がんばれ、リアム)
出演 ヘレン・ミレン(カレンダー・ガールズ)、マイケル・シーン(ブラッド・ダイヤモンド、タイムライン)、ジェームス・クロムウェル(ヒマラヤ杉に降る雪ほか)
(出演作品などは、私が観た物にかぎる)

1997年8月31日。チャールズ皇太子と離婚間もないダイアナ妃はパパラッチとの過激なカーチェイスの末交通事故死する。人気の高かったダイアナ妃の悲劇的な死は、イギリス国民は大きな悲しみを与えた。しかしエリザベス女王(ヘレン・ミレン)は一切コメントなし。広大な敷地から一歩も出ず、ロンドンに戻ろうともしない。このような態度は女王には、ダイアナが王室を離れた一般人であるため当然だったが、国民には薄情だとしか受け取られなかった。首相に就任したばかりのブレア(マイケル・シーン)が事態の収集に乗り出すが・・・。

エリザベス女王の顔は全世界的に有名である。女王としての在任期間も長い。エドワード8世が退位したため父親であるアルバートがジョージ6世として王位を継いだ。しかし身体の弱い彼は早世。長女であるエリザベスが王位を継いで50年を越えているとのこと。エドワード8世の「王位をかけた恋」はロマンチックなお話だが、当事者にとってはそんな生易しいものではなかろう。
イギリスはアメリカやフランスと違って国王(女王)を君主とする立憲君主国である。日本では国家の象徴として天皇の存在があるが、もっとイギリスでは国王の存在感は大きいようだ。王政に反対していたトニー・ブレアが首相になるに当たって、女王から任命される場面があったが、そんなイギリスの事情が伺える気がした。フランスのように革命を起こして王政をひっくり返していないので、女王に対するカリスマが今もあるのか?労働党党首のブレアが女王をかばい、尊敬している状況は理解できる気がする。
ダイアナ妃は単なる皇太子妃ではなく、ファッションリーダーであり地雷除去などのチャリティーに熱心に取りくむ世界的なアイドルになっていた。チャールズはその影に隠れ、カミラ夫人との不倫問題でどうも分が悪い。エリザベス女王はかねてからダイアナとの仲の悪さが言われていたが、単なる「嫁姑問題」ではないとこの映画で納得した。伝統を守ってきたエリザベス女王に対し、ダイアナは大胆に現代的な女性だったのだ。格式や伝統を重んじて生きてきた女王にとって、ダイアナの態度すべてが彼女を否定することになるのだ。何しろ、エリザベス女王は王位継承権下位の生まれ育ちだったが、「伯父のロマンス」のおかげで父親の命は縮められ、いやおうなしに女王にならねばならなかったからだ。そして、その彼女のすべき仕事は連綿と続く英王室の伝統を支え、更に繁栄させることなのだから。一生を掛け、自分自身を押し殺しながらやってきた仕事を否定される思いの女王と、子爵の家系の出であるとはいえ、かなり王室とはかけ離れた育ち方をしたダイアナはとても自由な女性だったのだろう。
現役女王、首相に対して好意的に書かれた脚本である事は差し引いても、王室を離れたダイアナの事故死は想定外の出来事。伝統にのっとって対応した女王が非難されるのは気の毒だった。しかし、皇太后が言うように「私たちが知らない間に時代が変わってしまった」のだろう。
ダイアナの悲報をいち早く告げられた女王たち一家の様は、王室でありながら普通の家庭でもあるような会話がやり取りされ、興味深かった。とりあえずつけたTVを前に、しゃべる家族を「声がうるさくて聞こえない」と叱咤するフィリップ殿下(ジェームス・クロムウェル)は、一家の主としてよくいるタイプ。広大な敷地内で鹿狩りをする一家だが、女王が自らレンジ・ローバーを運転するのも、家族の為に食器を並べるのも、さりげない一こまだった。私たちが全く知らないイギリス王室の一面が垣間見えた気がした。
ヘレン・ミレンはアカデミー賞をはじめとして2006年の主演女優賞を総なめしているが、当然のことと思える。単なる物まねにならず、女王の苦悩する内面を堂々と演じきった。威厳のある女王の存在はイギリス国民の誇りだろう。


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