吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー(上・下)』河出文庫/2016年7月30日11刷

2017-10-19 08:39:24 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 かなりアブない本なのです。



 ベルリンの地下壕で死んだはずのヒトラーが、現代にタイムスリップして蘇る。
 しかも70年前と変わらない主義主張を人々に訴える・・・と、誰もが『これはヒトラーをパロったビルボード芸人に違いない』と思い込んでしまい、ヒトラーはたちまちメディアの寵児となってしまう。台本無しで持論を延々とブチ上げると聴衆は拍手喝采、彼は持ち前の知力で70年間の技術革新に追いつき、たちまちのうちに現代社会を認識し理解する。メディアとインターネットを駆使して主張を展開するやアクセスは70万回を超え『狂気のユーチューブヒトラー』として賛否両論の嵐を巻き起こす。

 映画化されたので、中にはご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

 ※映画のサイトを観たい方はこの(↑)画像をクリック!

 この本、東大・京大生が選ぶ本のトップ1に輝いたそうで、ウケているらしいのです(大丈夫なのか?東大・京大生!?)。

 時あたかも(一昨日のニュースで)ヒトラーの故国オーストリアでは31歳の若いカリスマ指導者のもと難民排斥を訴えて極右政権が誕生・・・おお、歴史は繰り返しているではないですか!

 ヒトラーの論旨は首尾一貫していてブレない。聞いていると全く正当な主張に思えてしまう。
 実は前提そのものに誤りがあるのだが、聞いているうちにそれがどうでもよくなってしまう。

 この本では、こんな感じに彼の優生学的見解が語られて行きます・・・・
 犬の飼育とは、それを行う人間の程度を示す、たいへん興味深い例だ。そこにはまた、人種の無制限な交配がどんな結果をもたらすかが浮き彫りになっている。犬というのはとりわけ、管理をせずに放置すれば、相手を選ばず交尾して繁殖してしまう生き物だからだ。その結果、何が起きるのか?南欧の諸国を観れば答えは一目瞭然だ。無節制な交配から生まれた雑種犬は野良犬となり、野生化し、堕ちていく。だが、人間が秩序ある交配を行えば、雑種ではなく純血種の犬を増やし、それぞれの種を完全形に近づけていける。

 第一声に『案外マトモじゃないか?』。次を聞いて『確かにそうだろう』。段々と『そりゃそうだ』→『いや全く・・・』→『そうだそうだ!』→『その通りだ!』から『ジーク(勝利)!』,『ハイル(万歳)!』,『ジーク!』,『ハイル!』の大合唱に繋がっていく過程が描かれて不気味です。

 

 ヒトラーはTVメディアとインターネットを武器に世論を味方につけ、新聞社をインタビューでコテンパンにノシ上げ、現在の極右政党に乗り込んでその堕落ぶりを叩きのめし、支持を広げていく。一方でネオナチからは『ユダヤのブタめ!』と敵視され(これは笑える)、とうとう襲撃を受ける。

 退院したヒトラーが政界への進出を決意、再び歴史が動き始めることを予感させて物語は終わる。

 また歩き始めたヒトラーの新しいスローガンはこうだ『悪いことばかりではなかった』。