「トーヨー新報」食客日記

豆腐などの大豆(加工品)、こんにゃくを中心に、日本・世界の食文化……その他諸々について、あれやこれやと夢想する日々です。

壽寶寺

2012-05-04 12:01:06 | ブツ

旧字で「壽寶寺」と書けば厳めしいけど、町中にある普通のお寺「寿宝寺」。
肩肘張らず気さくな雰囲気なのだけれど、大寺院でないためか、
拝観させてもらおうと思ったらば、電話予約が必要なのですね。
大御堂観音寺から三山木駅(JRおよび近鉄)まで下りて、5分ばかり東進。
勢いで出掛けたぼくだったから、そのまま入り込んでしまい、
お寺の方に気を遣わせ(本当にありがとうございました!)、
お目にかかりたかったご本尊さま「十一面千手千眼観世音菩薩立像」に
会わせていただいたのです。庫裏の中には、降三世明王金剛夜叉明王も列席。
       ☆
こちらの千手観音の凄さは何か?と一言で言えば、
律儀に、馬鹿正直に、千本の手を取り付けてしまったという造形です。
元々、ヒトに2本の腕しかないのは、進化論や機能主義を踏まえての
生物学的なデザインの制約を受けてのもの。それに対して、
奔放な想像力の赴くままに、千本の手を付けてやるんだ!
と思いついたところで、やはりデザイン的に苦しくなってしまう。
そんな訳で、カウントの仕方を変え、42本=「千手」と見なして
(1本の手で25の世界を救う――という儀矩からだったかな?)
無難に収めるのが大抵の仏師なのですが、寿宝寺の千手観音では
いや、千手と言ったら、ちゃんと千本作るの!」なんて
頑張っちゃったのですね(同じ作例は、葛井寺唐招提寺にも)。
       ☆
葛井寺の千手観音の千手が技術的に巧緻で、感心させられるのに反し、
寿宝寺の千手観音の千手は、とにかく、勢いです。
熱い想いに任せて、つい、やっちまったぜ!みたいな。
潔いです。気持ちいいです。
……ところが、その意匠とは別個に、面差しの優美さ。
お寺の人がわざわざ庫裏の照明を変えて、
月光の中での尊顔、日中の光の中での尊顔――といったふうに、
千手観音の顔の表情がいかに変化するかを実演してくれました。
ぼくは、(月光を模した)白色蛍光灯の下で見る
哀しげに目を伏せたようなまなざしに 心を魅かれたのです。

観音寺(大御堂)

2012-05-04 11:09:14 | ブツ
JR三山木から2.5キロメートルの距離に、「大御堂観音寺」は位置する。
歩けばなかなか愉快な距離だが、横をびゅんびゅん車が通過するので、
遠景に見える南山城の山景を悠長に楽しんでいられそうもない。
ちょっと、もったいない感じはする。
近くを流れる川が木津川につながる「普賢寺川」、
普賢寺橋」という名の橋もあれば、(ぼくが定食に感動した)
地鶏料理のブランドも「普賢寺香珍鶏」――この「普賢寺」とは、
天武天皇の勅願により、義淵が開基。
聖武天皇の御願により、良弁が伽藍を増築した「普賢教法寺」のこと。
その現在に伝わる後身が、「観音寺」(別名を「大御堂」)である。
       ☆
実際、JR三山木駅から西へ向かっての一本道をまっすぐ登っていくだけ。
だけれど、目印らしい目印が何も無いから(途中、「目印の木」と
名付けられた、よくわからない榎は立っていたけど……)、
歩き続けているうちに不安と焦りを感じる。
ようやく、「ちきんはうす佐々木」の数十メートル先で「観音寺橋」を見つけ、
一安心するも、橋を渡ってすぐ左折すればよかったものを、
そのまま まっすぐ上がって行ったものだから、
同志社大キャンパスに迷い込んでしまったり。初見は予想外に難儀した。
       ☆
拝観受付は普通の民家で、玄関口で尋ねると、本堂に直接行ってくれ、と。
行けば、先客が住持から仏像の由来等を説明されているのが外まで聞こえる。
中へ入ると、焼香を促される(……最近はプライベートでの焼香ばかりだった)。
そうして、本尊と対面する。
国宝の「十一面観音菩薩立像」が端然としてポージング。
自由気ままに、何食わぬ顔して、毅然としてあった。
天平16年(644)、良弁が安置したものといわれる、木心乾漆造の天平仏。
※ちなみに、国宝としての十一面観音像は全部で7体。
住持は立て板に水のコメントを流麗に語り続けるけれど、
教義や寺格などを超越して、ただそこに十一面観音がいた。
いつかまた二人で逢えたらいいな と祈った。

(画像は本堂軒先に並べられた鬼瓦もとい龍瓦?)

ちきんはうす佐々木

2012-05-04 08:30:11 | グルメ
その昔、大阪の「S新聞社」に勤めていた頃、
昼食時間になると、梅田の駅前第3ビルの向かいに
新御堂筋に面して、「日本一おいしい親子丼」だとか銘打った
小体な店まで自転車を駆った。狭くて、薄暗い階段を下りた所にある
地下1階のカウンターだけの店舗で、
午前11時から午後2時までの限定オープン。
しかも、材料が切れた強制ら終了という強気の営業にもかかわらず、
それでも毎日、正午前から行列が地上まで湧き上がってきたものだ。
が、ダブル使いの卵から、ジューシーな鶏肉、鶏がらスープのどれもが
真剣に美味しかったのだから、憑かれた人の多かったのも、むべなるかな。

昨日(5月3日)、南山城の方からお呼びがかかっている気がしたから、
JR学研都市線(片町線)に乗り込んで、JR三山木まで足を運んできた。
JR三山木駅は無人駅。駅周辺に、コンビニやチェーン店風の
飲食店はちらほら目につくが、閑散とした印象は否めない。
連休でなく、学生らが通学する平時ならば、もっとにぎやかなのかな。
古寺にブツを拝みに行こうという目論見なのだから、
そうそう贅沢は言っていられず、車道脇の舗道を登り始めた。
が、同志社大学キャンパスを右手に眺めやりつつ、
本当に何も無いと索漠感。空腹を覚え始める正午過ぎだった。
       ☆
目的の寺もなかなか見当たらず、お腹も空いたし……と
若干ネガティブな気分に陥りつつあった時、
気合の入った「地鶏料理専門店」の看板が! 店の暖簾や建材など諸々、
年季の入った料理屋の風情が、何とも言えず胃袋を刺激する。
迷うことなく「ちきんはうす佐々木」の暖簾をくぐり、飛び込んだ。
どこに隠れていたのか?と驚くくらい、客が入っていて、混雑している。
手っ取り早く、日替わり定食(1,000円)をオーダー。
       ☆
チキン・カツもチキン・ステーキも噛み締めるたびに、
地鶏の滋味が口中にあふれてくる。ちゃんとした食材に触れられる多幸感。
ちょっと摘まませてもらった親子丼も甘くて、舌鼓を煽る、あおる。
そして、添えられた汁物が味噌汁でなく、鶏がらスープ。
(口中に含んだ瞬間、味わいは異なれど「日本一おいしい親子丼」を想起)
これですよ、これ! 間違いなく本物の鶏を使っているからこその味わい。
どうやら、この店では養鶏場を営み、自家飼育となる「普賢寺香珍鶏」を
直接提供しているらしい(レジで精算する場所では生卵も売っていたよ)。
すき焼きや焼き鳥などのお品書きに、泊り込みで呑み喰いしたい……と煩悩に震えた。