今学期とってる授業のひとつに、CEO Perspectiveというのがある。
これは著名なグローバル企業のCEOを招いて講演してもらう、という授業で、
今後GEのイメルト氏や、SAPやフォードの社長が来る予定。
当然学生にも大人気。
教室は150席全て埋まり、階段に座ったり立ち見が出るほどの盛況だった。
初回の昨日は、アメリカでは急成長の小売業、コストコのJim Sinegal氏。
コストコは日本にも進出してるので、知ってる方も多いかもだが、倉庫型の店舗に、大容量の食料品や日用品が積んであるような会員制スーパー。
(私が西海岸にいたときにCostCoにいった時の記事はこちら)
ちゃんとしたナショナルブランドが、その辺のスーパーより圧倒的に安い値段で売っている、ということで顧客を集め、大成功したリテーラーだ。
(例えばコーラはこの前決裂する前までは、コカコーラのみの扱いだったし、
男物ワイシャツはブルックス・ブラザーズ、ジーンズはリーバイスをそろえている。)
1983年に、倉庫を改造した店舗で、卸を中抜きして消費者に直接販売するモデルを開始。
それが、2009年の売上げは米国の小売ではウォルマート、クローガーについで第三位になったそうだ。
(ドラッグストアのCVSを入れると4位)
2004年頃は、ホームデポとかターゲット、Walgreen、Safewayなどが上位にいたはず。
いつのまにか、それらを抜かして急成長していたとは!
そんなコストコを一代で成長させたJim Sinegal氏は、Forbes100のグローバル大企業社長というより、
中西部の白人のおっちゃん風の、小柄で朴訥な感じの人だった。
(本人はピッツバーグのご出身)
(写真のスライドは、1999年に日本に進出したときの写真)
結論からいうと、小難しいことばかり言うMBAにはちょうどいい刺激の人だった。
たった27年で、ひとつの倉庫を売上げ7兆円の大企業にまで成長させた社長とはこんな人なのか。
以下、とても印象的だったことを、メモ書き風にまとめておく。
・すごくシンプルにものを考える人だった
一時間の講演は、1983年の創業以来、いつ何をしてきたか、という紹介だけだった。
経営哲学とか、ましてやわけわからんフレームワークとかを持ち出すような人ではなかった。
学生が難しい質問をしても、シンプルに答えが返って来る。
こちらが難しく考えてるのがアホみたいに思える人だった。
・企業理念もすごくシンプル
「品質の高いものを、出来るだけ手間を省くことで安く売る」を徹底している。
それを世界中で展開してる。
・とはいえ小売業のローカライズはやっぱり大変。
「俺の息子(東アジア担当)は日本に12年住んで、はじめて日本のビジネスを成功と言えるまで持っていけた」
質問タイムのとき、私も一応質問してみた。
曰く「ウォルマートやカルフールなど他のグローバルな小売業は、東アジアに進出してことごとく失敗してるが、コストコは韓国でも日本でも台湾でも割と成功している。違いは何だと思うか?」
彼の答えは「他は知らないが、自分たちは米国と同じことをやってる。30%以上の品は米国と同じブランドを入れているし、店舗の仕組みも同じ」
というものだったが、確かにそうかもしれないが、ある程度のカスタマイズは国ごとに必要なはず。
それに対して、「とはいっても他の国で事業を成功させるのは大変」だ、という上記コメント。
米国から指示するんじゃなく「12年日本に住んだ」というのが、一言でその大変さを表しててすごいと思ったね。
少し付け加えると、日本でウォルマートやカルフールが失敗したのは、最も競争が激しいセグメントに突っ込んでしまったから、というのもある。
一方、後述するように、コストコが狙った位置づけは、日本では誰もやってない、無競争なセグメントだった、という戦略の問題だった、と私は見ている。
と私が考えることを、このおっちゃん(失礼)は感覚的にシンプルに分かってる感じであった。
・顧客満足度を上げるには、顧客の期待値をコントロールする
「カスタマーサービスを提供して無いのに、顧客満足度カスタマーサービス部門で一位」なのだそうだ。
要は消費者は、コストコは倉庫だと思ってるから、サービスなんて最初から何も期待してない。
それなのに、店員が思ったより親切だから、カスタマーサービスで満足するのだ。
かなり逆説的ではあるが、相手の満足度を上げるには、相手の期待値がこちらの提供できるものより下げておくのは常に大切という話。
・品数は多いが、一品目のブランド数を絞ることで、サプライヤーへの強い交渉力(Bargaining power)を維持
例えば朝食シリアル。
シリアルを朝食に食べるのが当たり前の米国では、
スーパーに行くと、4,5メーカー、40-50ブランドくらい取り揃えてるのが普通。
ところがCostCoでは、味の種類ごとに一種類ずつ、計12ブランドしか入れてないんだそうだ。
ミネラルウォーターは一種類。
トイレットペーパーは2種類。
でもって、品質やブランドの高いものだけを入れている。
どういうことかというと、コストコは安いことで顧客を引きつけてるので、品数そろえなくても顧客は来る。
コストコがブランドを絞ると、サプライヤーは、コストコに入れてもらうために色々努力する。
よってコストコはサプライヤーへの強い交渉力を維持することが出来る。
下手にブランド数を増やすと、場所がとられるだけでなく、選ぶのがコストコでなく消費者に移ってしまうから、バーゲニングパワーを失ってしまうのだ。
という長ったらしい解説は私がつけたものであって、Jim Sinegal氏本人は、「一品目のブランド数は絞る」としか言わないのだった。
あくまでシンプル。
・「品質の高いものを安く売る」という明確なバリュープロポジション-まさにブルーオーシャン。
これも私による解説で恐縮だが、それまで小売業には、コストコみたいな位置づけの企業はなかった。
コストコに比べると、ウォルマートは品質の低いものを安く売ってるだけだし、Safewayは高いものを高く売ってるだけだ。
コストコは、従業員とかの手間を省いて、大容量で売る、ということで、高いものを安く売る。
いわば、誰もいない市場セグメントに入ったので無競争で、しかもそれがボリュームゾーンだった、というわけだ。
それが、コストコの一番の勝因だと私は思う。
あー、なんか、彼がシンプルに考えてることを、こんなに長ったらしく解説してる自分がアホみたいに思えてきたよ。
従業員15万人のグローバル企業を率いるためにはこの「シンプルさ」が必要なんだな。
これが一番の学びだった気もする。
(お願い)この記事の引用は構いませんが、全文転載は避けてください。
MBAの授業なので権利問題がややこしくなるからです。よろしくお願いします。
欧米思想の欠点、間違うと間違ったまま増幅してしまう。日本の思想のいいところは、間違っても、なんとなく良い方向に転換されてしまう。
間違わないようにする欧米の努力は評価しているけど、時間の無駄になっていることも確か。小さな間違いが拡大して、だいなし。
日本の欠点は、日本の良さを自覚できない。たいて、外国の思想を良しとして受け入れて、とんでもないことをしてきた歴史がある。
それこそ日本ではイオンが同じようなモデルに基づいて小売価格を決める力を持っていて、各地の農協をはじめ生産者が悲鳴を上げていますし(自分の狭い了見に基づくものですいません)。
むしろ成功まで12年かかってしまった日本の厳しい競争環境に感心してしまいます。今の日本市場で成功を収めるポイントは何なんだろうと逆に考えさせられました。もしくは、そのシンプルさを貫くだけの力の根源は何なのかに興味がありますね。
> 「俺の息子(東アジア担当)は日本に12年住んで、はじめて日本のビジネスを成功と言えるまで持っていけた」
にがっかりしました。企業を理解している人間とマーケットを理解している人間の両方が必要なのはわかりますが、息子ぐらいの経験で企業理解に熟達しているとも思えません。息子が日本にいた12年間もビジネスチャンスを逃していたと見えます。コストコを理解している人間を送り込み、日本マーケットを理解している人間を採用しなかったのはなぜなのか、それが知りたいです。
確かに複雑になるとセクションをまたぐにつれて振り幅が大きくなってしまいます。特に曖昧な言葉だと必ずコストにかかってくる。日本の場合は環境に依存している(文化的差異が少ない)のと、従業員の努力(無償労働!)で修正している。
人間工学が戦時中に発展した国の精神でしょうか。他文化だからこそシンプルにしないとならないという文化的土壌があるのか。
「コントロールする」という思想は欧米系の学問の特徴に思えます。自然を征服するという形で現れ、その反動で自然保護に走る。
日本語がシンプルなのはハイ・コンテクストな文化だからでしょう。昨日のトヨタの議論に近いですが。
>Isaoさま
台湾でもはやってる-恐らく日本とは違う理由なのでしょうね-は面白いですね。
>Masaakiさま
私は記事中にも書いたように、コストコはイオンや西友(Walmart)とは違うセグメントで無競争に戦ってるのだと思ってるんですよ。
それでも厳しい日本の小売環境、というのはほんとにそうですね。
>大手町さま
確かに。あの一言じゃなんも分からないですけどね・・
公開企業だから色々調べれば出てくるかもですが。
>ワカサギさま
日本にも分かりやすい標語で従業員が団結してる企業が結構あると思ってます。
複雑になるのは大企業のもつ共通の問題ですよね。
もう一つ、Lilacさんのブログでは触れられていませんが、COSTCOは従業員手当が篤いことで知られ、待遇良すぎだろということでWall Streetとしばしば対立しています。
これらの事象が示すのは、帰属意識が強く企業文化が浸透した従業員で構成されるのが、COSTCOだということです。COSTCOは価格や陳列の側面が強調されがちだけど、こういったHRの側面はCOSTCOが単なる田舎のスーパーから世界企業までたゆまぬ成長を続ける要因なんでしょうね。
私も物事をこ難しく考えがちなMBA学生として、経営の原点を見た気がしました。
FMCG業界で仕事をするようになって、
「多くのお客さんに来て欲しい」
あるいは
「おきゃくさんには多くの品物を買って欲しい」
と、両方を追い求めようとする会社が多いことに気がつきました。まー,売上を上げたいならば、この二つが同時に成立すれば、売上は乗数で効いて来るはずなので無理ないです。
が、しかし、、、、
「品揃えを増やす」
ことと
「単品の価格を安くする」
は、矛盾します
ポーターの競争戦略論(産業組織論)が予測する通り、品数を増やすと、供給者の買い手に対するインパクトが減るので買い手の交渉力は減少するはずです。
つまり、1位ブランドを安く売るためには、1位ブランドだけを置いて、どこのリテーラーよりも沢山売らなきゃいけません。
まあ、こんなのポーターを持ち出すまでも無く、当然のことですよねー。
そして、両方をおうことをポータは
「Stuck in the middle」
といった。
でも、こんなシンプルなことが、誰もできない。だから、コストコは成功した、、、ってとこでしょうか。
と言うことで、コストコの朴訥なオッチャンの成功は、自分の戦略を(買い手の交渉力を高める戦略)、短期的な欲目ムシで愚直に実行できた結果なんだろう、という感じがしましたー。
だから、朴訥としてるのかも、、、です。
(欲深いヤツなら、Stuck in the Middleにはまっちゃうから)
どうでしょー
よければ、コメントしてください
ではですー
「良いもの安く売る」と言った場合、何が「良いもの」なのかの定義が一つ重要だと思うのですが、その点におけるCostcoの弱点は「Costcoで売っていたから良いもの」というメッセージは出せず、「○○で売っていたものがCostcoで幾ら」という商品のValue訴求そのものについては全くの他者依存であることだと思っています。要はRetail競合があって始めて成り立つビジネスモデルでもあるということです。ビジネス方針として拡大基調の際には絶対はずせない成長セグメントですが、ブランドValue向上に寄与しないというのはいつも心掛かりでした(今でも)。
そんな彼らが一番気にしているのはAmazon.comでした。会議ではいつもAmazon価格に対するクレームばかりでした。
なぜならば、Amazonはその充実した商品情報やユーザー主体のコミュニティよる口コミ情報の場の提供に強みがあり、まさに自ら「商品のValue」を顧客に伝える能力が高いこと、そして、ecommerce故の低マージン体質でCostco価格に十分対抗できる収益構造を持っているからです。(彼らの留まらぬ安売り攻勢に対しさすがに我々を対策を講じたので今はその状況も変化しつつありますが・・)
お互いシアトルを拠点とする超優良Retailですが、広いアメリカ本土を相手に随分狭いところで小競り合いをしています。
あと、忘れてはいけないのはCostcoのリターンポリシーのゆるさですね。これ結構消費者視点では大きなメリットです。倉庫を見に行ったときに、ウチのリターンセンターにある商品の半分以上がCostoから返却されたものでした。Walmartも良く知っておりますが、経営陣以外はどちらかというとのんびりした方々で運営されている企業という印象があります。
最後に商品数を絞る点については、ベンダーに対する交渉力向上もありますが、同時に複数商品をあつかった場合の在庫管理リスクを避けるという視点もあると思います。在庫が溜まったときの彼らのリアクションは尋常じゃないです。