My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

GE ジェフ・イメルト会長に会う (15.398 CEO Perspective)

2010-03-04 13:17:03 | MBA: MBA授業

ご無沙汰です。
何と、10日近くも書いてなかったですね。
旅行行ってたとかではなく、ボストンにいたけど、とても忙しかったのでした。

その間に、GEのJeff Immelt氏が講演に来たり、IBMの上級研究員が講演したり、
「サマーウォーズ」の細田守さんが来たり、更に私自身の講演がボストンにてあったり。
10日も日本語を書いてないと、書くのが下手になるので、読みにくいかもだけど、頑張って書くです。

まず生イメルトに会ってきた話から。
前にコストコの記事で紹介した、「CEO Perspective」という授業のゲスト講演者としてスローンにやってきた。
アメリカでは(日本でも?)経営の神様とされてるジャック・ウェルチの後継者。
今でこそ、「ウェルチとは別の意味ですごい経営者」と認められてるけど、就任初期(2001年9月)は、
就任翌日に起こったテロのせいで保険事業が赤字、航空機エンジン事業が不振などで株価が急落。
信頼を回復するのに3年近くかかり、かなりの辛酸をなめてしまったお方である。

ちなみにGEというのは、General Electric の略。
発電用タービンや航空機エンジンなど重電分野を中心に、60以上の事業を持っている企業だ。
世界最大級の事業規模(約20兆円。トヨタよりちょっと小さい)
前に電球の記事で書いたように、もともとエジソンが発明した電球で独占的地位を築いて儲けた企業であり、
それを原資に、重電分野に次々に進出していった。

近年は、企業買収や撤退が盛ん。
医療機器も最近は有名だが、これも企業買収を軸に拡大したもの。
それも、ひとつの分野で圧倒的な優位性が保てなければ、すぐに撤退する。
成長分野で、圧倒的優位が持てる可能性がある分野は、買収して進出する。
こういう企業を、金融投資でいろんな種類の商品を分散して持つのを「ポートフォリオ」というのになぞらえて、「ポートフォリオ企業」とよんだりする。

この方です(APより転載)。

教室に入ってきたとき、その存在感の大きさに圧倒される。
背も高いし、肩幅も広く、更にその周りにオーラが・・って感じの人だ。

で、講演はというと、どうやら全く話すネタとかは用意してこなかったようである。
紹介されて、軽く話した後、学生に向かって
「今後10年の世界では何が重要になると思うか?」と問うた。
「ビジネススクールなんだからそのくらい答えられなきゃダメだろう」とけしかけて、学生に手を上げさせて答えさせる。
更に、
「その中でGEにとって重要な変化は何か?」
「GEはその変化に対してどのように応えていくべきか?」
という問いに答えさせ、それに対してちょっとコメントするだけで、40分近く持たせてしまった。

この3つはまさに重要な質問で、すぐに出てくる辺りは流石だが、それで持たせちゃうってどうよ、と私は正直残念だった。
まあCEOは忙しいのだから仕方が無い。
特に世界で最大の企業のひとつで、世界中を飛び回っているGEのCEO、来てくれただけ有難う、だ。
思えば、コストコのCEOは、プレゼン資料を用意してきたのはとてもエライと思った。
もっとも実際に作ってるのはCEO室の若いスタッフとかなんだろうけど。
GEだって、作ろうと思えばそんなスタッフいくらでもいるはずだが、そこにアテンションを置かないって事なんだろう。

というわけで、最初の40分でジェフ・イメルト氏への過大なる期待が一瞬はがれた。
しかし、残りの80分の質疑応答でのイメルト氏の答えは、非常に面白くて、とても刺激された。
ドラマチックではないけれど、なるほど、流石だと思わせるものが多かった。

今日は文章力に全く自信が無いので箇条書きで。

・アメリカはひどい国なので変わるべきとは思う。しかし企業はもう国の枠なんかに縛られる必要は無い。

すごい、ここまで言っちゃうのか、というのに感銘を受けた。
どの国でもそうだが、アメリカでも、行政や法律、教育、医療といった部分は非常に非効率で、経済界の足をひっぱっていることが多い。
「根本的に変えなきゃこの国はダメになる」と思ってる人は多い。
アメリカを日本に置き換えたら、日本人も同じ感覚じゃなかろうか。

だけど、GEは既に事業収益の60%が海外、従業員も60%が海外にいる。
だから、べつにGEはアメリカの企業じゃないので、そんなダメな国と一緒に潰れるつもりは無い、
企業が国の枠に縛られる必要は全く無い、というメッセージだった。

・GEの最大の敵は韓国政府とサルコジだ。

これは非常に面白いと思った。
企業でGEの敵になるようなところはほとんどない、無敵だ、と言うことだ。
なぜなら、GEの事業運営の方針として、強大な敵がいるような分野からは撤退するし、
そうでないところは次々に拡大を進めて、無敵というわけ。
まさにポートフォリオ経営の奥義。

ところが、原子力事業のように、政策圧力をかけてくる分野は別だ。
この場合、国が自国企業を守ろうとして様々な政策で圧力をかけてくる、韓国やフランスが敵になる、というわけだ。

ちなみに最大の顧客はTEPCO(東京電力)だそうです。
Tokyo Electronics ...の略だ、と訳していたけど、GEの最大の顧客が日本企業だとすぐに分かったMBA生は少ないんだろうな・・。

・IBMはすごい企業だと思う。

IBMについて「ひとつの事業だけであれだけ稼げる産業を作り、維持しているのはすごい」と言っていた。
60以上の事業を抱えるGEのCEOは、そういうものの見方をするのか~、と新鮮だった。
まあ最近ITの歴史を勉強してても思うけど、「ソフトウェア」というものにしても、PCにしても、
現在のIT産業を支える多くのものが、IBMから派生して出てきたことを考えると、
IBM無しでは今の世の中はありえないわけで・・・。

ちなみに尊敬するCEOはCISCOのチェンバース氏だそうだ。

・今後は素材産業が面白い

一週間も前なので、どういう質問に対してこの答えが出てきたか忘れたが、
今後、面白くなる産業として、素材産業に着目しているという。

GEが本当に素材産業に参入するのかは不明だが、だとしたらとても面白い。
GEは、最初に成功した電球産業からして「システム全体」を売ることで儲けている企業であり、今でもそれを得意としている。
電球も、電球だけでなくヒューズとか電線とかソケットとか全体のシステムを作って売っていた。
発電タービンだって成功したのは、ただのタービン売りから脱したことが大きいし、
医療機器が成功しているのだって、サービスと絡めた全部売りをしているのが大きいと思う。
まあ、色んな解釈はあると思うが、私の見立てでは、GEはポートフォリオ経営なのが肝なのではなく、
システム全体を構築し、売る、というところが特徴的だと思っている。

そのGEが、素材産業に参入するなんてことがあるのか?
するとしたらどうやって参入するのか?

素材産業には日本が世界で独占シェアをとってる分野が多い。
東レとか帝人とか信越化学とか。
「技術で勝てる」部分が多いので、日本人の感覚にもあってるのかもしれない。

「着目してる」と言っているだけなので、参入に興味があると言ってるわけではないが、
それにしても素材産業をどう活用しようとしているのかが気になる。

・CEOとしての時間の30%は人材育成に、次の20-30%は世界中の変化の最先端の情報を入れるのにつかっている

学生からの最後の質問に、私が当てられたので、こんな質問をしてみた。
「GEは地域的にも分野的にも非常に幅広くカバーしている企業であり、CEOとして、その全ての最先端を理解し、マネージするのは難しいことだと思う。
CEOとして企業運営する上で、最も鍵になるのは何か?
CEOとして限られた時間のなかで、何に時間を優先して振り分けているのか?」

英語力が余り無いので、この程度の質問になってしまったが、イメルト氏ははっきり理解してくれたようで、ちゃんと答えてくれた。
学生の中には私が聞いた質問の真意が分からなくて、「何だそれ?」と思った人もいるようだ。
私の中では、これは「CEOにしか聞けない、しなければならない質問」だったのだが。
(他の質問はCEOじゃなくても聞ける)

CEOも普通に家族がいたりして、24時間365日しかない人間である。
ところが、各事業部のトップから次々にミーティングの要請が入り、出張の要請が入り、講演や取材の要請が入り・・・
その上、誰もお願いはしないが、企業成長のためにやるべきことがたくさんある。
本当にこのミーティングに出るのは意味があるのか?
この講演に行くのはイミがあるのか?
数ある要請の中から、恐らく90%以上を断って、重要な10%を選び出し、かなり明示的に優先順位を考えて、時間配分しなければ、企業を路頭に迷わせることになるだろう。
コンサルタントとして、大企業のCEOと直接お仕事をした経験があるが、彼らが本当に頭の中で心底悩んでいる問題のひとつがこれだった。

イメルト氏によると、彼が最も時間を費やしているのは人材育成であり、次は正しい判断力をするための情報収集だという。
一週間で世界中の新聞・雑誌を40誌購読しているのだそうだ。
つまり、自分の時間の60%近くは、誰にも要請されないが、CEOとして10年後のGEを正しい方向に導いていくための作業に費やしているということだ。

以上。
思い出した順に書き連ねていったけれど、なるほどと思わせることのおおい、かめばかむほど味が出る講演だった。
やっぱり、こういう超大企業の有名CEOに直接会って、話せる、というのは学ぶものがあるものなのだな、と思った。

←面白かったら、クリックで応援してください!



最新の画像もっと見る

8 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ysjournal)
2010-03-04 13:19:44
Lilacさん、首を長くして待っておりました。

Jack Welch 全盛の頃MBAにかよっていたので、良くケースなどを呼んだ事を思い出しました。

彼は引退した後に私生活がスキャンダラスにあばかれたりして、食わせ者(ある種のトリックスター)かと思った事もあるのですが、後継者選びが正しかった事を含めて、超一流でしたね。

Jeff Immelt に後継者争いで敗れて GE を去った Robert Nardelli がクライスラーをダメにしたのを目の当たりにしているので尚更です。クライスラーの件は、彼だけが悪いのではないのですが、Home Depot の前科もあります。

この辺の超一流当りでも実力がこんなに違うのですから、面白いものです。

日本の大企業の CEO も同じ悩みがあるという事は興味深いところですが、必然の様な気もします。

難しいと思いますが、Jeff Immeltと日本大企業 CEO の比較考察(実力などの)を、機会のある時にしてもらえばなんて、勝手にお願いしておきます。
早速有難うございます (Lilac)
2010-03-04 13:21:15
>YSJournalさん

早速きてくださり有難うございます!
確かにRobert Nardelliは何故あそこまでダメなのだろう、というほどでしたね。
人材の見極めというのは非常に難しいのだと本当に思います。

最近のMBAではGEのケースはとんと見ないです。
流行り廃りがあるのでしょうね。
そのころだったら日本企業のケースもあったのではないでしょうか?
今はほとんどありません。ケース自体はかなり書かれているはずと思いますが、余り取り上げられません・・。
Unknown (通りすがり)
2010-03-04 14:04:55
興味深い内容ありがとうございました。
著作を読んだことのあるWelch氏に比べ、この方のことは存じ上げなかったのですが、伊達にGEを仕切ってないですね…。

いずれLilacさんの講演の内容もお願いします!
Unknown (ツバメ)
2010-03-04 20:45:56
BOPについては何か発言されませんでしたか。日本ではいまBOP、CSRがちょっとしたブームです。
Unknown (Lilac)
2010-03-05 00:23:17
>通りすがりさん
ImmeltさんはJack Welchに比べるとやはり知名度劣ってしまいますね。本人も気にしてましたが。

「Jack Welchの後任者として比べられることが多いんじゃないか?どう思っているのか」なんてマスコミみたいな質問をしてるアメリカ人の女の子がいました。
私としては、そんなの本人が一番気にしてて、今更言われたくない、と思うに違いないだろうと思ってたんで、こういう質問するのってどうかと思うんですが、必ずひとり、二人はいるんですよね。
Immelt氏は冗談交えて返してましたが。

>ツバメ
BOPってBalance of PaymentではなくてBottom of the Pyramidのことかしら?
BRIC、特にミドルクラスの役割が重要になってくる、と言う話はしてました。
でも、GE自身はConsumer Businessの会社じゃないので、トヨタやサムスンが語るほどには語らないでしょうけど・・。

「CSR」という言葉の流行はリーマンショック以降アメリカでは終わった気がします。
最近は似てますが、オバマ政策にあわせたGreenとかSustainabilityとか。
違いは「Greenになる方が最終的には企業の長期成長につながる」といった感じで、CSRに比べて「社会的責任」感より経済的理由でドライブされてるところでしょうか。
Unknown (kentosho)
2010-03-06 00:33:26
疑問なのですが,何故MBAでは成功者ばかりを呼ぶのでしょうか?自分も個人事業主で,あやかりたい気持ちは分からないでもないのですが,基本的に経営という問題は明確な誤答はあっても明確な正答はない問題であると認識しています.となると必要なのは失敗者に何が駄目だったのかを広くヒアリングすることだと思うのです.経営の失敗者を集めて彼らに壇上に立ってもらう講義というのはあるのでしょうか?
失敗 (Lilac)
2010-03-06 02:37:05
>Kentoshoさん

失敗者を集めて壇上に立ってもらうとは、なかなかサディスティックな発想ですね(笑)

KentoshoさんがMBA経験者/よく知った上でこれを言ってるるのか、単なる思い込みで言ってるのかわからないですが、
講演に成功者を呼ぶのはMBAに限らずだし、一方でMBAには失敗を語ってもらう講演も結構あると思います。
例えば、シリアルアントレプレナーに過去の失敗案件についても語ってもらうとかね。
あとMITSloanの卒業生であるフォーリーナがHPとコンパックの統合に「失敗?」した後、それについて語ってもらう講演も過去にはあったそうです。
講演者には残酷ですが、卒業生だから頼めるんでしょうね、こんなこと。

実際に講演をお願いするプロセスを想像すると、それなりに成功してる人に、失敗談も話してもらう、という感じでなのでしょう。
社会的に失敗者と烙印を押されてる人に、失敗について語ってくれというのは失礼と言うか、酷というか、MBAだからとかでなく、普通に難しいのではないかと想像します。

日経ビジネスという雑誌に「敗軍の将、兵を語る」という連載コラムがあります。
これはまさに失敗で有名になってしまった人に失敗の原因を語ってもらうというコラムで、これを最初に始めた人はエライと思いますね。
個人事業なさってるならご存知かもしれませんが、もし知らなければ参考になると思います。
参考となりました (NA)
2010-04-24 03:05:59
久々にJ・ウエルチのわが経営(邦題)を読見直しているのですが、ジェフ・イメルトの近況を調べていてこのブログに行き着きました。『ニュー・ガイ』が10年たってもウエルチの教え通り人材にこだわっていることに感心しました。

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。