先日、米国在住の友人某氏と会って話していたときのこと。(ご馳走様でした♪@コメント欄)
たまたま、日本には月刊誌のように書籍を出して稼いでいる有名人がいる、という話になった。
そのとき彼女は「へえ、どうしてその人は雑誌を出さないのかしら?」と言った。
- アメリカで有名人が稼ぐモデルは講演会と雑誌
彼女によると、有名人が米国で稼ぐ方法は主に二つあるという。
ひとつは、講演会をバンバンひらいて、講演費でかせぐ。
これは日本にもあるモデルだ。
一回100万円とかいう講演を年に100回やって、一億稼ぐってやつだ。
もうひとつは、自分の名前を冠した雑誌を発行して、それで稼ぐモデルだという。
例えば、米国にはMartha StewartとかKatie Brown、Rachel Rayといったカリスマ主婦といわれる有名人がおり、
彼女らは自分の名を冠した雑誌を作り、料理や家事のコツ、彼女自身との対談などを載せて売っている。
彼女は言う。
「だって、書籍なんてせいぜい一冊5万部も売れれば成功な方。
1500円で印税10%だとしたら一冊750万円にしかならない。1年10冊でも7500万円。
けれどアメリカの有名人は、自分で雑誌を創刊して一年で数十億円売上げがあるのよ。
出版手数料やスタッフの給料をさっぴいてもかなり稼げる。」
(追記:本人のご登場により訂正→参照記事:Rachel Rayが創刊から7号で4900万ドル=約45億円稼いだ話)
「それに月刊誌のような頻度で本を出してたら、そのうち内容も薄くなるのが避けられないでしょうが、
雑誌なら、色んな情報を集めたり、対談とかでいくらでも持たせられるから長期的に儲けられる。
書籍は発行するのも手間がかかるし、アメリカじゃ2年に1冊が普通よ。」
なるほど、それは確かに一理ある。
彼女に宿題を頂いた感じの私は、ちょっと考えてみることにした。
日本で有名人が自分の雑誌「○○マガジン」みたいなものを創刊して、継続的に儲けられるのか?
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アメリカで雑誌が書籍より儲かる理由
米国で、雑誌がなぜ書籍に比べて儲かるか、というと、雑誌は読者と広告主の両方に課金できるモデルだからだ。
書籍の場合、対価を払うのは100%読者であり、せいぜい1000~2000円しか課金できない。
ところが雑誌の場合、5万部も出れば、読者からは一部あたり500円程度だが、
広告主からの収入は一部あたり5000円以上というレベルだ。
(参照:Peopleという有名雑誌の場合、一号あたり有効発行部数360万部に対して、広告収入9億ドル。
これくらい発行部数があると、一部辺り3万円の広告収入が出る。
普通はこんなに稼げないが。)
- 雑誌市場が小さく縮小してる日本では困難
ところがこれを日本でやるのは非常に難しいのである。
雑誌に広告をつけるのが至難の業だからだ。
実際、日本の雑誌は、アメリカに比べると、びっくりするほど広告が少ない。
雑誌の広告市場規模を比較すると、日本は4000億円程度でこの20年間横ばいであるが(参照)、
米国はついこの間景気が悪くなるまでは3兆円程度で、年3%で増加していた(参照)。
人口が3倍違うと考えても、一人当たり3倍の差があるのだ。
(注:米国の計算方法は大きな雑誌の積み上げなのでこの程度だが、実際にはもっと大きいはず。
詳しい数字を知ってる人は教えてください。)
米国のように広告費で儲けるのが困難な結果、日本の雑誌会社は何をしてるかというと、
主に三つの戦略を行っているように見受けられる。
ひとつは、雑誌の価格を高くして、読者からも多く取る。
日経BP社やダイアモンド社のように、雑誌の専門性を高めることで、値段を上げる。
または女性ファッション誌のように、雑誌自体の紙などのクオリティを上げたり、
おまけをつけたりして、雑誌本体の価格を上げるなど。(注:おまけは広告収入も得られるが)
ふたつめは、雑誌自体の価格は据え置きで、後から二次コンテンツにより、結局読者から取る。
日本の漫画雑誌が、単行本やグッズの販売によって儲けたりするモデルだ。
もうひとつは、フリーマガジンという新しい媒体をつくり、
アメリカだったら本来電話帳がやってるような、雑誌以外の市場から取ってしまう。
(注:アメリカの電話帳の市場は未だに馬鹿に出来ないほど大きい)
リクルートなどがこれで新しい市場を創出している。
結局、日本の雑誌は読者から取るモデルか、完全フリーに二極化。
雑誌は広告費が取れないので、読者から取る、まるで書籍のようなモデルになっている、といえる。
- 何故、日本では広告より読者課金の方がメジャーのか?
私自身、出版分野に詳しいわけじゃないので、正直よく分からないが、歴史的なものがあるんだろう。
恐らく、日本は書籍の会社が雑誌出版もやってきたから、そういうビジネスモデルになれてきた、とか。
電通が強くて、ナショナルクライアントの広告費の大半がTVなどのメディアに取られてる、とかってのもあるかも。
(追記:電通・・・とか書きましたが、全く他意はないです。
個別名出すべきではありませんでした。大変失礼しました。)
誰か詳しい人は教えてください。
いずれにせよ、日本は読者から金を取り、アメリカは広告主から金を取るモデルが主流だってことだ。
- おまけ:アメリカでも不況以降、雑誌業界は広告費が取れず厳しくなってる
ただ、アメリカでも状況は変わってきている。
まずは不況だ。
Media pubの記事によると、2009年の広告市場全体は、前年の18%減だそうだ。
で、有名雑誌も含めてどんどん休刊に追いやられてるそうだ。
景況になったとき、この雑誌広告市場が盛り返すのか、インターネットやモバイルに奪われるのかは定かではないが、アメリカでも雑誌で稼ぐのは厳しくなってきてるのが現状。
- いずれにせよ、書籍(=ユーザ課金)で稼いでいる日本の有名人は正しい戦略
話を戻すと、結局、日本では雑誌広告費市場が小さく、結局読者課金に行くのであれば、
実は自分の名前を冠した雑誌を創刊するよりも、書籍を月刊誌のようにバンバン出す方がより稼げる。
たとえその人が「○○マガジン」なるものを創刊したとしても、稼ぐためには結局内容を抜粋した単行本を出すことになったりして、二度手間だ。
そういう意味で、最初の疑問に答えると、
その有名人は、書籍を次々に出すことで、正しく効率的な稼ぎ方をしてるってことになるのだろう。
追記)誰か最近の電通の広告年鑑とかにアクセスできるひとは、この辺の詳しい話を教えてください。