My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

ノーベル物理学賞-「光」なのに日本人がいないのは納得いかない

2009-10-07 08:16:07 | 7. その他ビジネス・社会

毎年楽しみにしているこの一週間。(といっても最初の3日だけだが)
昨日はついに物理学賞の発表

今年の受賞者は、「光」の分野で貢献した人たちに贈られた、ということでした。
CCDを世界で始めて作った元ベル研究所のボイルとスミス。
それから、光ファイバの長距離化を可能にして、実用化の鍵を担ったカオ博士。

CCDは、デジタルカメラの原理になっているもので、おおざっぱに言うと、光を受けて、それを電気信号に変えるデバイス。
(ちなみにCCDを初めて商品化したのはソニーのデジタルカメラですね。)
光ファイバーは、もう日本人にはインターネットなどでおなじみだけど、光の信号を何千メートルも中継点無しで伝えることが出来る技術。

さて、光ファイバについて、日本のメディアは「東北大学の西澤教授が受賞しなかったのは何故だ」と騒いでいるが、
私に言わせれば今回のノーベル賞の問題はそこではない。

まず、「光」関係の物質や通信分野では日本人が相当貢献しているのに、「光」のノーベル賞が日本人無しで終わらされてしまったこと。
「光」なんてマイナー分野なので、こうなっちゃうと、貢献した日本人たちが「光」で受賞できるのが、ずっと
先になってしまうこと。
(最低4年先、恐らく10年先)
これが、日本としては大きな問題のように思う。

「光」の物理学全体での日本人の貢献は大きい。
光ファイバー、半導体レーザー、発光ダイオード・・・どれを取っても日本人が活躍していない分野は無い。
ノーベル賞受賞をうわさされる人も少なくない。

まず、今回も話題になった西澤潤一
彼は、光ファイバーだけじゃなく、半導体レーザーを発明したり、発光ダイオードの赤と緑を作ったのもこの人だ。
それから、もう亡くなったけど、ベル研究所にいた林巌雄
半導体レーザーを実用化に漕ぎ着けたのは彼だ。
ノーベル賞候補レベルでいうと、もう一人は中村修二か。
おなじみだけど、青色発光ダイオード、青色半導体レーザ発見の立役者。

他にも個人では「ノーベル賞受賞」までは行かないが、これらの光技術の実現に貢献してきた日本人が沢山いる。
ご存じない人は、Wikipediaの光ファイバー半導体レーザの項を読んでみれば、そこにどれだけ日本人の名前が出てくるかに驚くと思う。
現代の通信技術、工業技術を支える「光」の分野の発展は、日本人の活躍無しには、成し遂げられなかったはずなのだ。

それなのに、何故「光」のノーベル賞を日本人無しでやる?
というのが、私の正直な感想だった。

ノーベル物理学賞の対象になる分野は山ほどある。
余り偏りすぎると、別の分野から文句が出るので、いろんな分野が交代でもらうようになっている。

だから、こうやって「光」で一度受賞してしまうと、次に半導体レーザーとか発光ダイオードがやってくる(ここは確実に日本人が受賞する)のがだいぶ先になってしまうじゃないか!

そもそも「光」なんて分野、物理全体では小さいから、なかなかもらえないのだ。
だったら、半導体レーザなど日本人が絶対にもらえる分野を対象にすべきだったのでは?

それなのに日本人を外した、外れる分野での表彰になった、と言うのが第一の問題。

もうひとつ、皆の納得感という意味でも、今回のカオ博士の受賞は問題。
光ファイバーは、重要な貢献者が沢山いて、「誰が決定的な立役者」と決めるのが非常に難しい。
そうすると、光ファイバーだけではなく、半導体レーザーやダイオードなど光の全ての分野で活躍している、西澤先生にノーベル賞をあげるのが、公平かつ良く考えられた大人の判断じゃないのか、と思うのである。

恐らくベル研究所とかも「実用化にはウチが相当貢献した」と思っているに違いない。
しかし、西澤先生がもらえば、「まあ西澤先生は、業績は光ファイバーだけじゃなく多岐にわたるし、納得感あるよね」となり、皆が平和になるのだ。

しかし、この皆が思っている「この人が先だよね」という順番を平気で覆し、皆の平和を壊すのがノーベル賞の常である。
仕方なし。

ここで光ファイバーの歴史を振り返る。(参考:Wikipedia +α)

一本のガラスファイバーで光ファイバーを作ることが原理的に可能だ、ということを言い出したのは西澤先生で、初期の重要な貢献をしている。
その後、世界中でみんなが光ファイバーを作り始めたが、短距離しか光が伝わらない。
「なんだやっぱりダメじゃん」と思っているところに、このカオ博士の論文が出る。
それを元にコーニング社が長距離の光ファイバーを実現した、と言う経緯。

ただしこのとき「実現した」とコーニングが主張したものは、実際には実用にはほど遠かった。
その後、ベル研究所や日本のNTT研究所の研究により、最終的に実現に至る。

かなりはしょったけど、他にも重要な貢献をしている人はたくさんいるし(日本人もたくさんいる)、
一番エライのは、最終的に光ファイバを実現させたNTTの研究者じゃないか、と思ったりもする。

カオ博士が受賞したと言うことは、西澤先生がノミネートに上がっていたことは間違えないのだ。
「光」の分野では、一応彼が世界的に最も有名なわけだから
ということは、今後、もっと彼の重要な業績である半導体レーザと発光ダイオードで、彼に授与するつもりだったんだろうか・・・
謎。

まあ・・・
毎年のことながら、ノーベル賞はよくわからん。
今回の受賞の片割れであるCCDも、実現したのは1970年のこと。
それから39年も経っての受賞ですよ・・・長生き競争だと言われる所以。

西澤先生(現在83歳)にはとにかく長生きしてもらうしかないです。

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6 Comments

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ノーベル賞 (freedom)
2009-10-08 03:01:17
西澤先生には有名になった光ファイバーよりもSIサイリスタで受賞してほしいですね。
アインシュタイン氏も一般に有名になった相対性理論では受賞せず、光電効果(光量子仮説)(Lilacの専門分野?)で受賞してますしね。
返信する
Unknown (Lilac)
2009-10-08 07:12:00
>freedomさま

受賞してくれれば何でもいいです、私は。

>光電効果(光量子仮説)(Lilacの専門分野?

私が物理をやってたときの専門って意味ですか?
違います。残念(笑)!
返信する
Unknown (tonton)
2009-10-08 21:44:30
もし、青色発光ダイオードでノーベル賞が出るなら赤崎勇先生じゃないでしょうか。
まあ、青色発光ダイオードでノーベル賞はちょっとむずかしいと思いますが。
返信する
発光ダイオード (Lilac)
2009-10-09 00:35:18
>Tontonさん

まあ発光ダイオード自体でもらえることはあっても、「ダイオードを作った」という名目ではもらえないかもしれないですね。

ノーベル賞は「この論文・仕事がきっかけでこの分野が築かれた」人にも(西澤さん)、「この仕事で分野の方向性が変わった」(カオ博士)にも、「この仕事自体が大発見だった」という人にも(今回の化学賞)送られるわけですが、一人にしか贈らないとき、どれに贈るのか、というのが割と不明確なんですよね。
また分野の選択も恣意的です。

それが面白いところでもあるんですが・・・
返信する
Unknown (大手町)
2009-10-14 15:13:04
「誰が」「どの機関が」人類に英知をもたらしたのかはとても重要だと思うのですが、それを国単位で考えてもおらが村の争いなだけで、人類全体にとって有益な競争ではないと思うのです。
Lilacさんがここまで国籍にこだわるのは、これまでの半導体の投稿などを読んでると分かる気もしますが、広い視野をもっていらっしゃるのにと思うと、依然少し腑に落ちません。
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なるほど・・国籍は (Lilac)
2009-10-15 07:00:19
>大手町さま

そうですね。

私がノーベル賞に関して国籍にこだわるのは、子供が科学に興味を持ってもらう、という一点です。
結局日本人がノーベル賞もらわないと、マスコミが騒いでくれないんですもの。
そして、マスコミが騒がないと、普通に学校で教育を受けてる普通の庶民の子供たちが(私立の小学校に行ってるような金持ちの子供は別として)、科学者のロールモデルに触れる機会が無い。

日本がノーベル賞の科学関係の賞をもらってなかった、88年から2000年の間、子供たちへの「科学」の露出と言う意味では、とても小さかったと思います。

私は小学→中学→高校→大学と過ごして、ずっと科学者になろうと思いながら、科学者のロールモデルを見つけるのが難しかった。
日本の学生の理科離れが進んだのもこの頃ですよね。
鉄腕アトムやガンダムを素直に信じられる上の世代と違って、「科学」を押してくれる要素は何も無かったと思います。

そういう思いがあるから、日本人にノーベル賞をもっと取って欲しい、と思うんですね。
結局、日本の教育は、多くの庶民にとって日本に閉じてるから、日本人がノーベル賞を取る、ってのがいまだに大切だと思うんですよ。
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