決算情報に依存した売買の落とし穴
会社四季報オンライン
11月17日(火)20時26分配信
決算情報に依存した売買の落とし穴

定量情報だけに頼るデイトレーダーが少なくない。
(撮影:吉野純治、写真と本文は関係ありません)
前週13日にフランスのパリで発生した同時テロを受けて
週初の16日には物色される日本株があった。
警備の国内大手セコム <9735> やALSOK <2331> の動意は乏しかったが、
材料を手掛かりにキーワードだけで
売買する中心プレーヤーは個人投資家である。
中小型株のCSP <9740> は明らかに買われていたほか、
監視カメラ関連で池上通信機 <6771> 、
あい ホールディングス <3076> にも買いが入った。
さらに、最も小型な銘柄(時価総額20億円未満級)に
ジャスダック上場のRSC <4664> という銘柄がある。
これが朝から買い気配でストップ高となった。
池袋のサンシャインシティや官庁関係の警備業務を手掛けているとはいえ、
頭で理解しようとするのは無理な反応といえよう。
先週12日に人知れず今2016年3月期上期(15年4~9月)業績の
下方修正をしたが、何らかの「期待」が
「現実」に勝る形となった。
この例は、「現実(決算)→期待」の順番になったことで
起きた現象だが、順番が逆になると悲惨である。
先週でいえば、12日引け後に
地盤ネットホールディングス <6072> が
今16年3月期純利益予想を従来の3.8億円(前期比約36%増)から
1.15億円(同59%減)へ下方修正したのがきっかけになり、
翌13日には暴落した。
上期(15年4~9月)の売上高が予想未達となったことが
理由となった通期計画の減額。
上期の期末は9月になるため、
10月に急騰した際の“横浜のマンション問題を受けて
地盤の調査が増えるのではないか?”なる「期待」は
その後の話である。それでも、投資家は
「期待」が芽生える前の「現実(決算)」であっさり見切ってしまう。
当初の「期待」とされた話題は単なるトレードネタであって、
その先行きを見届けようとする投資家は非常に少ないようである。
これも期待と現実のギャップを利用した一種の
「イベントドリブン」であり、デイトレードが
主流の日本の個人投資家が作る新興株が
ファンダメンタルズを反映しにくい一因といえる。
デイトレードが主流であるため、決算プレーも非常に雑という現実もある。
決算を受けて「買うか買わないか」の判断を、
業績数字だけで行う投資家が多いようにも思える。
新興株はアナリスト予想がほぼ皆無なため、
「上方修正イコール買い」で
寄り前に目星を付けている投資家が多い
(そういった株式関連のニュースや記事も多い)といえる。
デイトレ前提なので、定量的な情報で
投資行動を決めている投資家が多すぎるということだ。
■「販管費が想定以下」なのが上方修正理由なのに…
先週12日引け後に雑誌の定期購読のオンラインサイトを手掛ける
東証マザーズ上場の富士山マガジンサービス <3138> が
上方修正を発表した。上場初年度の業績だったこともあり、
「いきなり上方修正イコール買い」の連想は理解できる。
今15年12月期の営業利益予想を当初の2.69億円から
3.11億円へ約15%アップさせており、
ボリューム感もある。定性的な情報からは、
「これは前日比プラスになる材料だろう」と判断できる。
実際、13日には前日比130円高の4570円でスタートした。
だが、朝イチで買った投資家に、
上方修正の理由をチェックした投資家が
どの程度いたかは疑問である。
上方修正の理由はこう記載されている。
「他社との優秀な人材の取り合いとなり
中途採用が予定通り進まなかったこと、
及び定期購読者獲得のために出版社と共に行う予定であった
雑誌の誌面を活用したマーケティング企画が
当初の計画から遅れていること等から、
予定されていた販売管理費の使用が進まず……」
(会社リリースの原文通り)。
これ、誰が見ても後ろ向きな理由での利益増額である。
会社側もそのニュアンスを文章に盛り込んでいて、
非常に誠実な内容だと感じた
(一方で、リリースで事情を投資家に伝えようとしない会社もある)。
実際、株価が上がったのも寄り付き直後だけで、
その後は定性的な情報(上方修正の理由)から判断した
投資家の見切り売りが優勢となり、
13日は前日比7%超の下落(320円安)で取引を終えた。
前出のような定量判断に基づいた決算プレーは、
新興株に限らず、東証1部銘柄を対象にしたものも氾濫している。
これは、コンピューターを使った決算プレーの影響が大きい。
完全に定量判断で売買するのだ。
営業利益のコンセンサスが1,000億円の銘柄で、
それより大きければ1万株買い、10%上振れていれば3万株買い、
といったプログラムを組むことは容易。
ただ、この売買も当然ながら定量判断であるため、
定性的な情報は考慮されていない。
それでも、定量判断による初期反応で
「買わされる(買い戻させられる)」「売らされる」といった
追随的な動きをする結果、
定量判断の動きが助長されるのだ。
よく、決算発表シーズンの相場見通しについて、
「この時期は全体より個別銘柄に注目。業績相場になるでしょう」
なる発言を目にしたり耳にしたりするはずだ。
これは、何の根拠もないものとぜひ理解していただきたい。
決算発表シーズンの日本の業績相場は、
ほとんどが定量判断でなされていると考えて間違いない。
だからこそ、決算直後に定量判断で売られた銘柄は何だったのか。
これを自分なりに探すのが非常に有効だろう。
コンピューターは定性判断できるわけがなく、
定量判断で起きた株価のミスプライスにこそ
「割高か割安か」を見出すチャンスがあるだろうから……。
(おしまい)
※株式コメンテーター・岡村友哉
株式市場の日々の動向を経済番組で解説。
大手証券会社を経て、投資情報会社フィスコへ。
その後独立し、現在に至る。
フィスコではIPO・新興株市場担当として、
IPO企業約400社のレポートを作成し、
「初値予想」を投資家向けに提供していた。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、
投資勧誘を目的としたものではありません。
岡村 友哉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151117-00092914-shikiho-bus_all&pos=4より
会社四季報オンライン
11月17日(火)20時26分配信
決算情報に依存した売買の落とし穴

定量情報だけに頼るデイトレーダーが少なくない。
(撮影:吉野純治、写真と本文は関係ありません)
前週13日にフランスのパリで発生した同時テロを受けて
週初の16日には物色される日本株があった。
警備の国内大手セコム <9735> やALSOK <2331> の動意は乏しかったが、
材料を手掛かりにキーワードだけで
売買する中心プレーヤーは個人投資家である。
中小型株のCSP <9740> は明らかに買われていたほか、
監視カメラ関連で池上通信機 <6771> 、
あい ホールディングス <3076> にも買いが入った。
さらに、最も小型な銘柄(時価総額20億円未満級)に
ジャスダック上場のRSC <4664> という銘柄がある。
これが朝から買い気配でストップ高となった。
池袋のサンシャインシティや官庁関係の警備業務を手掛けているとはいえ、
頭で理解しようとするのは無理な反応といえよう。
先週12日に人知れず今2016年3月期上期(15年4~9月)業績の
下方修正をしたが、何らかの「期待」が
「現実」に勝る形となった。
この例は、「現実(決算)→期待」の順番になったことで
起きた現象だが、順番が逆になると悲惨である。
先週でいえば、12日引け後に
地盤ネットホールディングス <6072> が
今16年3月期純利益予想を従来の3.8億円(前期比約36%増)から
1.15億円(同59%減)へ下方修正したのがきっかけになり、
翌13日には暴落した。
上期(15年4~9月)の売上高が予想未達となったことが
理由となった通期計画の減額。
上期の期末は9月になるため、
10月に急騰した際の“横浜のマンション問題を受けて
地盤の調査が増えるのではないか?”なる「期待」は
その後の話である。それでも、投資家は
「期待」が芽生える前の「現実(決算)」であっさり見切ってしまう。
当初の「期待」とされた話題は単なるトレードネタであって、
その先行きを見届けようとする投資家は非常に少ないようである。
これも期待と現実のギャップを利用した一種の
「イベントドリブン」であり、デイトレードが
主流の日本の個人投資家が作る新興株が
ファンダメンタルズを反映しにくい一因といえる。
デイトレードが主流であるため、決算プレーも非常に雑という現実もある。
決算を受けて「買うか買わないか」の判断を、
業績数字だけで行う投資家が多いようにも思える。
新興株はアナリスト予想がほぼ皆無なため、
「上方修正イコール買い」で
寄り前に目星を付けている投資家が多い
(そういった株式関連のニュースや記事も多い)といえる。
デイトレ前提なので、定量的な情報で
投資行動を決めている投資家が多すぎるということだ。
■「販管費が想定以下」なのが上方修正理由なのに…
先週12日引け後に雑誌の定期購読のオンラインサイトを手掛ける
東証マザーズ上場の富士山マガジンサービス <3138> が
上方修正を発表した。上場初年度の業績だったこともあり、
「いきなり上方修正イコール買い」の連想は理解できる。
今15年12月期の営業利益予想を当初の2.69億円から
3.11億円へ約15%アップさせており、
ボリューム感もある。定性的な情報からは、
「これは前日比プラスになる材料だろう」と判断できる。
実際、13日には前日比130円高の4570円でスタートした。
だが、朝イチで買った投資家に、
上方修正の理由をチェックした投資家が
どの程度いたかは疑問である。
上方修正の理由はこう記載されている。
「他社との優秀な人材の取り合いとなり
中途採用が予定通り進まなかったこと、
及び定期購読者獲得のために出版社と共に行う予定であった
雑誌の誌面を活用したマーケティング企画が
当初の計画から遅れていること等から、
予定されていた販売管理費の使用が進まず……」
(会社リリースの原文通り)。
これ、誰が見ても後ろ向きな理由での利益増額である。
会社側もそのニュアンスを文章に盛り込んでいて、
非常に誠実な内容だと感じた
(一方で、リリースで事情を投資家に伝えようとしない会社もある)。
実際、株価が上がったのも寄り付き直後だけで、
その後は定性的な情報(上方修正の理由)から判断した
投資家の見切り売りが優勢となり、
13日は前日比7%超の下落(320円安)で取引を終えた。
前出のような定量判断に基づいた決算プレーは、
新興株に限らず、東証1部銘柄を対象にしたものも氾濫している。
これは、コンピューターを使った決算プレーの影響が大きい。
完全に定量判断で売買するのだ。
営業利益のコンセンサスが1,000億円の銘柄で、
それより大きければ1万株買い、10%上振れていれば3万株買い、
といったプログラムを組むことは容易。
ただ、この売買も当然ながら定量判断であるため、
定性的な情報は考慮されていない。
それでも、定量判断による初期反応で
「買わされる(買い戻させられる)」「売らされる」といった
追随的な動きをする結果、
定量判断の動きが助長されるのだ。
よく、決算発表シーズンの相場見通しについて、
「この時期は全体より個別銘柄に注目。業績相場になるでしょう」
なる発言を目にしたり耳にしたりするはずだ。
これは、何の根拠もないものとぜひ理解していただきたい。
決算発表シーズンの日本の業績相場は、
ほとんどが定量判断でなされていると考えて間違いない。
だからこそ、決算直後に定量判断で売られた銘柄は何だったのか。
これを自分なりに探すのが非常に有効だろう。
コンピューターは定性判断できるわけがなく、
定量判断で起きた株価のミスプライスにこそ
「割高か割安か」を見出すチャンスがあるだろうから……。
(おしまい)
※株式コメンテーター・岡村友哉
株式市場の日々の動向を経済番組で解説。
大手証券会社を経て、投資情報会社フィスコへ。
その後独立し、現在に至る。
フィスコではIPO・新興株市場担当として、
IPO企業約400社のレポートを作成し、
「初値予想」を投資家向けに提供していた。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、
投資勧誘を目的としたものではありません。
岡村 友哉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151117-00092914-shikiho-bus_all&pos=4より