ひとり井戸端会議

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原発住民投票条例について

2012年06月19日 | 憲法関係
原発是非を問う住民投票、都議会が条例案否決へ(読売新聞) - goo ニュース

 東京都内で原子力発電所稼働の是非を問うため、市民グループが都へ直接請求した住民投票条例案を審議する都議会総務委員会が18日午後始まった。
 同条例案は否決される見通しだ。
 都議会公明党(23人)が同日、「都民だけで判断すべきではない」などとして反対を決定。すでに反対を打ち出している自民党(37人)などと合わせて過半数を超えるためだ。最大会派の民主党(50人)は自主投票、共産党(8人)と生活者ネットワーク・みらい(3人)は賛成する方針。



 原発に関する住民投票の是非を考える前に、まず、地方自治体の上位に位置づけられる国家の役割について少し考えておく必要があると思います。とはいえ、国家の役割について詳細に論じるのではなく、一般的に国家にはどのような役目が期待されているのか、という点に絞って、考えてみます。


 論者によって様々ですが、概して国家に期待されている役割とは、外交および国防政策の遂行、国内治安の維持・改善、そしてここで問題となっているエネルギー政策の画定・実行でしょう。前二者はともあれ、エネルギー政策までも国家の役目として考えるのは、エネルギーは国の産業・経済はもとより国防も含め、国(地方自治体も当然に含む。)のあらゆる政策における社会的基盤(インフラ)の最たるものだからです。

 したがって、そのような性質を有するエネルギーに関する問題を、地方自治体の一存で左右できるとなると、国家の存亡に関わる事態にもなりかねません。よって、石原が述べているように、エネルギー政策は地方自治の範疇に属するものではなく、国家の責任においてなされるべきものであると言えます。

 このように、エネルギー政策は国の基盤に関わる問題であるという理解を前提に考えると、原発の是非に関する住民投票というのは、地方自治の仕事にはなじまない性質の問題であるということになるでしょう。

 それでは、今度は原発に関し住民投票をすることの意義を考えてみたいと思います。



 まず、原発に関する住民投票はこれまでに前例がないわけではなく、96年には新潟県巻町で同様の条例により原発に関する住民投票が行われましたし、類似の事例では97年に沖縄における米軍基地の是非に関する住民投票というのもありました。

 しかしながら、まず効力の面では、これら住民投票の結果には法的拘束力はなく(というか、上に挙げた問題の性質上、法的拘束力を持たせるべきではありません。)、また条例の法的正当性という意味では、条例というかたちを採るものの地方自治法その他の法律上の根拠が欠けている点において是認できるものではありません。


 また、住民投票という手法を一概に否定するつもりはありませんが、住民投票というのは「いささかプリミティブな手法であって、扇動の具となりやすく、必ずしもつねに公正な主権者の意思を表わすとはかぎらない」から、「その実施にあたっては、(中略)当該事項が住民投票になじむかどうか、住民投票の結果が貫徹できる事項かどうかなどを十分吟味し、その意義と効果をあらかじめハッキリさせ」なくてはならないのです(原田尚彦『行政法要論』)。

 そして、住民投票の対象となる問題が、その地域だけで完結するような問題ではなく、その地域以外の広域的利害にも関係してくる場合もまた、そうした問題を住民投票で決するというのは不適切な場合であると言えます。

 こうした理解に立って考えると、原発の再稼働の是非というのは、原発が担っている役割等を考慮すると、住民投票にはなじまない案件と言えるでしょう。


 というのは、まず現在における国内の原発政策に関しては、一部勢力が自分たちのイデオロギー実現のための道具としてこれを利用しているように見受けられるし、そもそも先に挙げた理由により住民投票として一自治体の判断に委ねるべき問題ではないからです。

 また、仮にエネルギー政策について地方自治体にも決定する権限があるとしても、東京だけで原発の再稼働の是非を決定したとしても、そもそも東京には原発がないのだから、そのような投票を実施する意味はあるのかということも問われなければならないでしょう(実際、私がさきに挙げた「先例」は新潟のケースです)。



 したがって、石原が言うようにエネルギー政策は国家がその責任で遂行すべき問題であるから住民投票にはなじまないし、またエネルギー政策を国家の役割とは考えないとしても、原発の再稼働は東京都のみならず東京都以外の広域的な問題であるため、東京都だけでその是非を決めるべきではないから、やはり住民投票にはなじまない問題ということになります。 一言付言するのであれば、これは原発以外の問題にも言えることですが、政治的思惑から安易に住民投票に訴えるべきではありません。



 なお、この条例には外国人参政権容認の一里塚ともいえる、投票資格について永住外国人を含む16歳以上の男女としている点も看過できません。この点においても、この条例は欠陥を有しているといえ、否決は当然といえます。

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