波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

網誌人(blogger)が燃え尽きるとき:新年度の始まり

2005-08-27 14:01:41 | 雑感
網誌を色々覘いていると,仕事持ちの主宰者の場合,勤務形態の変更等により,本人が「燃え尽き」状態になり,網誌が停止・廃止になった事例に時々遭遇する.日本で通勤している網誌人の場合,新年度が始まる四月前後に集中することになるのだろうか.網誌『殿下さま沸騰の日々』で有名な安田隆之氏も,半年に渡る求職期間の後,この四月に目出度く転職に成功されたようだが,新しい職場での勤務は網誌を書く余暇の時間を侵食していたようで,遂に先月末「燃え尽き」状態に至ったのか暫く休筆となった.以前,さるさる日記で自分の都合に合わせて自由に書いていたころと違い,月刊WILLに記事が掲載されて,読者からの期待が高まると,いい加減な仕事(網誌)を日々残すわけにはいかなくなったという,有名人ならでは「縛り」という理由もあると思われる.
 日本で新年度と言えば,大抵四月と相場が決まっているが,かなり昔,即ち,夏目漱石の小説『心』の主人公が大学を終えた頃は,英米と同様,新学期は秋から始まり卒業式が夏だったことが文中から読み取れ,業界によって年度の始まりが異なっていたことが分かる.四月始まりの軍関係学校等との関係で,明治中期に小学校は四月始まりになったようだが,東京帝国大学が此れに従ったのは大正になってからのようだ.明治維新後,欧米の教育制度に倣って九月始まりにしたと思われるが,この背景には欧米からの御雇外国人との契約もあったに違いない.東大の前身の各学校の頃から御雇外国人が講師として教育機関等に多数雇われていたが,彼等の母国の流儀(仕事の始まりは九月からで春で仕事は御開き,夏は避暑・旅行による同業者間の交流・執筆活動等に充てる)に,日本の制度を合わせざるを得なかったのではないか.特に,日本の高温多湿の夏を考慮すると,学期間に長期の夏季休暇を入れることによる学習効率上の問題も含めて,御雇外国人にとっては九月始まりの方が望ましかったに違いない.そして,このような御雇外国人への妥協による制度は,帝国大学の教官がほぼ自前(日本人)で補充できるようになり,外国人教官への依存が解消された頃(大正時代)に消え去った,と.
 このような四月始まりの日本に対して,米国の役所の会計年度は全く一貫性が無い.連邦政府は10月始まりだが,大抵の州が此れに従わず独自の会計年度を持っていて,また市町村の段階でも州に従わず独自の会計年度をもっているところもある.このような年度開始の頭だし調整なしでも役所・社会がそれなりに動いているということは,米国において公的機関が果たす役割が1930年代のNew Deal政策が始まるまでは最小限に抑えられていて,財政規模が非常に小さかったので,連邦・地方の会計年度をそろえて効率化を図るような必要がなかったことが背景にあると思われる.公的機関の果たす役割が肥大化した現代の米国で,未だに国と地方が異なる会計年度を維持していることは,人間の適応力の幅が如何に広いかを示しているのではないか.このような米国でも,教育機関は何処でも九月乃至,緯度の高いところは八月末より始まる.九月の第一月曜日はLabor Day休日で,この休日にかけて昔米国が農業国だった名残の農畜産物の収穫祭というべきState Fairが各州で開催される.農畜産物の即売だけでなく,他の芸能系の興行や移動遊園地が一緒になった大規模のものもある.農業機械化以前の労働集約型農業のため,夏の農繁期には子供も重要な労働力であり余暇のように見做されていた学業は収穫終了までは休止という,工業化以前の社会を反映した流儀が,今でも米国の教育界だけでなく,他の業界,月刊誌,TV,古典音楽・歌劇その他に残っている.これらの業界では基本的に秋から春までが本稼動の期間で,夏の間は休業ないし間引き操業(月刊誌の場合,昔は七月と八月は合併号で済ませるのが普通だったらしい)状態となっている.また,自動車の新型販売が始まるのも九月からで,今秋販売開始されるのが2006年型のもので,七・八月は前年型の在庫一掃の特売の宣伝がTV上で頻繁に放映されることとなる.基督教系の教会にしても,信者が地元に居ない事が多い夏季中は各種の付加活動が停止状態になっていることが多い.
 このように米国に在住の網誌人にとっては新年度の始まりの九月前後が鬼門と言えるが,本網誌も肩に力を入れず,書きたいことを適宜暢気に書いていく形で続けていきたいものだ.

註:日本の学校の年度始まりの経緯については,取りあえず,以下の網頁を参照(詳しく調べれば,より学術的な網頁を見つけることができると思うが)
http://www.kitanet.ne.jp/~kiya/hometown/akasyo%20body.htm
http://homepage2.nifty.com/osiete/s542.htm

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