波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

米国の郵便服務

2005-08-12 23:47:15 | 雑感
 先日当網誌で触れた岡田益吉著『危ない昭和史』上下巻がSAL便で届いた.米国の郵便服務の粗雑さに対してそれなりの免疫が出来ていると思っていたが,届いた包みを見て思わず絶句してしまった.舗装道路或は混凝土(concrete)打ちっぱなしの床等の荒い表面に対して包みを引き摺ったため,郵送用の包装紙,その内側の塑料袋(plastic bag)は勿論,上製本の表紙の布,芯の厚紙,背に貼り付けてある寒冷者紗を擦り切り,見返し迄達する擦り傷を下巻の耳・みぞの部分に与えていたのだった.日頃,郵便配達員が郵便物の入った布袋を歩道上で引き摺っているのは知っていたが,自分宛の書籍があのような荒い扱いで被害に遭うとは思いもよらなかった.
 以前の記入で述べたように,米国人に対して,日本での常識的物の扱いを期待してはいけない.郵便服務もその一つで,雨や雪で濡れた床に郵便物を置いたり,雨中・降雪中に郵便物を置き去りにして水浸しにするのは序の口だ.或る知人はCoachで買った数ダースの土産用革製品を簡単な紙包みで日本に郵送したが,運悪く米国内で水をかぶり,日本に届いた時には,革に浸水の痕が確りついてしまったいたそうだ.よって,自衛のために濡れてはいけないものは必ず透明な塑料袋で包装する事が不可欠だ.この点については周知徹底していたつもりだったが,道路等の硬い表面に擦り付けられるというような事態は余り真剣に考えていなかった.今後は水に強く破れにくいタイベックス紙(Dupont社製の登録商標Tyvek)での包装を依頼するしかないようだ.
 日本では郵政公社民営化が選挙の争点になっているが,米国の郵便服務も国営から公社へと経営形態を変えて経営の合理化を進めて来たが,日本とは違い貯金・保険関係を扱っていないので,赤字が続いている.経営学的に言うと,軍隊的な古典的経営が長く続いたことや,服務対象人口数の大きさ・地理的服務領域の広さという自重によって小回りが利きづらいことが背景にある.また,米国で職場での刃傷沙汰といえば「郵便局」を連想するほど,職場での人間関係の問題で銃撃事件がよく発生し,労務管理にも問題があることは間違いない.
 日本では法律の関係で実行不可能かもしれないが,米国では,郵便代行窓口業が存在する.有名なものが,小包配達等で全米最大手のUPS(日本のヤマト運輸と提携している)系列のMail Boxes Etc.(MBE)(http://www.mbe.com/)だ.郵便局が近所にない地区や郵便局と民間業者双方で物を送らなくてはいけない場合此処にいけば二箇所回らず一箇所で済むため,上乗せ手数料は取られるが,此処で済ませるという客も多い.小包配送での頽勢を挽回するため,郵便局はDHLと提携して末端の配送部分を担当するというような官民提携も最近生まれている.
 米国では一弗の硬貨が流通しているが,小銭を嫌がる米国人の気質もあって(店頭で釣銭を受け取らない者も結構いる),日常的にお目にかかることは殆ど無い.米国で最も利用頻度が高い25分(cent)硬貨と似た外観で混乱を招いていことから,数年前,金貨に変わった.その際一時的に取沙汰されたが,結局昔の状態に戻ってしまった.この一弗硬貨が日常的に使われている唯一の例外が,何を隠そう,郵便局の切手自動販売機なのだ.米国の自動販売機の場合,釣銭を札で出す機能がないものがほとんどで,よって一弗以上の釣銭は大抵一分硬貨等の組み合わせになるのが普通だが,郵便局の当該自動販売機は一弗硬貨を使うようになっている.一弗金貨になって厚みが倍近くになったので,数弗分を当該金貨で戻されると,財布がずっしり重くなり,ますます日常での流通を下げている.銀行のATMや自動販売機が盗まれるのが当たり前の米国では,今後とも高額硬貨の利用は進まないと予想され,一弗金貨は家の引き出しに記念物として眠ったままの状態が今後とも続くにちがいない.
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