波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

James Risen著State of Warを読んで 下

2006-01-04 23:55:33 | 読書感想

 結局,昨夜は夜更かしをして同書を最後まで読んでしまった.阿富汗(Afghanistan)での麻薬用芥子栽培を何故米国は黙認し,米国務省が主張していた芥子栽培撲滅対策が実行に移されないのか(大統領の意向に対してもあれこれ理屈をつけて無視できる軍事重視の国防省の強力な反対,閣内で国防長官に勝てない力不足の前国務長官),核兵器保有の野心を持つ国を偽核兵器設計図で釣って開発を脱線させることを目指した「遣らせ」横流し計画など(例えば,露西亜系亡命研究者による墺太利(Austria)での伊朗(Iran)釣り),国内での爆破事件頻発まで回教原理主義過激派との腐れ縁で米からの情報が過激派側に筒抜けになっていた頼りない同盟国沙特阿拉伯(Saudi Arabia)等が同書の七,八,九章で扱われている.
 今日も伊拉克(Iraq)で自爆事件があり死者多数が発生したが,第二次湾岸戦争があった2003年の秋の段階において,既にCIAの巴格達(Bagdad)支部の幹部は占領の先行きに危機感を抱き,真実を大統領を始めとする米政権中枢に直言居士的に諫奏(かんそう)したそうだが,その代わり彼が得たのは米本国への人事異動だったとか.官僚制の歴史を振り返ればよくある話だが,伊拉克(Iraq)占領,ひいては米国の外交・軍事を牛耳る国防総省に対する弱小CIAのあからさまな挑戦と見做され,同省長官以下の激昂を買ったことは間違い.
 © 2006 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:1/4/2006/ EST]

James Risen著State of Warを読んで 上

2006-01-03 22:16:19 | 読書感想

 元日の記入で触れたJames Risenの本が正月休み明けの今日発売になったので,早速手に入れ読み始めた.本文は二百二十頁程で,六割程度読んだ感想等を忘れないうちにまとめておくことにする.
 先月から米国で耳目を集めている国内盗聴の問題は,第二章The Program(39-60頁)で扱われている.国内盗聴はFBIの島,NSAはそれ以外という島の割り振りが崩れ,NSAによる内国野放図盗聴等が行われるようになった背景(大義名分)は,米国外の地域間の国際通信(電話・電子電子郵件(e-mail))も米国内を経由するという現在の通信の状況があり,破壊工作絡みの情報が米国経由で流れているのをむざむざ指を銜(くわ)えて見ているだけで良いのか,ということらしい.勿論,大義名分が如何なる物であろうとも,裁判所や議会の監視がなくては,脱線の目的外利用が発生してもおかしくはない.同書を途中まで読んでみて,既報どおりの情報というか,現米政権において安全保障政策を実質的に取り仕切っているのは副大統領と国防長官であり,前大統領補佐官(国家安全保障担当)で現国務長官は両者に対抗できる実力を持っていない,前CIA長官は国防長官との情報をめぐる政府内の縄張り争いを当初から諦めていた節があり,大統領には上手く取り入ることが出来たが,政権内で各機関発の情報の統合・取りまとめにおいて指導力を発揮できず,上記実力者二名の壟断を許してしまった,などが報じられている.前政権の伊朗(Iran)の核兵器開発の重視策により,第二次湾岸戦争前,CIAが伊拉克(Iraq)内に持っていた情報源はほんの僅かで,国防省が亡命者から得ていた信頼性に欠ける情報に抗することが出来ず,政権中枢が開戦の意思が固いことが明白になると,不偏の分析よりも保身による風見鶏的な迎合分析がCIA内の上から下まで幅を利かすようになり,一部例外的な努力もあったが,CIA内の縄張り争い等で効果を持たず,大量破壊兵器隠匿間違いなし=開戦という既定路線を方向転換できる組織的背骨をもっていなかった.因みに,前国務長官が国連で指摘した移動型生物兵器実験室は,独逸発の全く信頼できない一亡命者からの未確認情報で,CIAの欧州幹部が演説原稿に目を通して仰天,削除するよう本部に注進したにもかかわらず無視されたようだ.また,二十代半ばの駆け出し分析官の偏執的な主張がCIA幹部と平の全体会議で幹部に認められるというような下克上状態ではCIAの分析能力の低下の程が分かる(辻政信に振り回された旧日本陸軍が思い出されてならない).伊拉克が尼日爾(Niger)から核物質を入手しようとしたという(偽)文書を米政権は証拠として取沙汰したが,実のところ,伊拉克にはuranium鉱石を採掘できる鉱山があり,核物質をわざわざ他国に求める必要はなかったそうだ.
 
© 2006 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:1/3/2006/ EST]

野放図電話盗聴を暴露した James Risen 記者による新刊書 State of War

2006-01-01 18:31:45 | 雑感

 昨日の記入で触れた現米政権による野放図の電話盗聴を暴露したのは二週間前の12月15日(木曜日)付のNY Timesの以下の記事だった(同記事は特別扱いのためか,一週間の無料閲覧期間を経過しているにもかかわらず,1月2日現在でも閲覧可能.『訂正』当初引用していた同記者達による12月18日付の記事は当該元記事の続報):
 
 Bush Secretly Lifted Some Limits on Spying in U.S. After 9/11,
 Officials Say by James Risen and Eric Lichtblau.
 http://www.nytimes.com/2005/12/15/politics/15cnd-program.html

なぜ今頃になって同紙が昨年米政権に妥協して塩漬けにした筈の記事を慌てて印刷したのか,様々な観測が流れているが,今日網路上得た情報によると,当記事の著者の一人であるRisen記者が元旦振替休日明けの3日に以下の単行書を出版するため,NY Times紙としては止むを得ず,お蔵入り状態の同記事を出したというものだ:
 
 State of War : The Secret History of the C.I.A. and the Bush Administration by James Risen. Free Press

因みに,今日のNYTの記事では野放図な電話盗聴について一昨年の2004年に前司法省幹部が反対していたことが明らかにされている.
 米国南部や中西部等の保守系の連中には,1960年代の旧奴隷州における非白人差別の解消において連邦政府が果たした役割について未だに反感を抱いていて,連邦政府は個人の自由を侵害している悪の巣窟という感じで日々文句を垂れている者が多い.今回のような「国家安全保障」を大義名分した野放図な電話盗聴を彼らはどのように見ているのだろうか.一貫性の欠けた御都合保守の典型的な,「国家安全保障」の中身をろくに確認せず,共和党政権のやることは何でも可というで黙認するのだろうか.民主党政権ならば,間違いなく喚き声を上げて,連邦政府=悪の権化の等式で攻撃し,大統領の弾劾を叫んでいるに違いない.
 現米政権を現在取り仕切っている連中の多くは,違法情報収集等で辞任においこまれた故Nixon元大統領を引き継いだFord政権の中枢にいた連中でもある.Nixon辞任後制定された各種の改革は結局30年も持たず,改革以前の当事者によって反故にされ30年前に回帰したようだ.実定法に優先するとされる「国家安全保障」という大義名分が醸し出す「魔力」に改めて恐れ入らざるを得ない.

 [1月2日に一部訂正および加筆]
© 2006 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:1/2/2006/ EST]