波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

故黒羽茂氏の日英同盟・日米外交に関する著作について

2005-08-16 23:40:25 | 読書感想
 最近日英同盟成立前後の日本外交に関心を持つようになり,あれこれ情報に当たっていると,別宮暖朗氏の網站「第一次大戦」(http://ww1.m78.com/index.html)で日英同盟に関する網頁があり,故黒羽茂氏の著作が参考文献として挙げられていた.そこで図書館で彼の著作を調べてみると,黒羽氏は東北大の教授で,前述の網頁上に列挙されていた『日英同盟の軌跡』上下巻(1987年刊)は,1968年に出版された『日英同盟の研究』を基に書き上げられたものであることが分かった.即ち,『日英同盟の軌跡』上巻が『日英同盟の研究』と重なりあっている.また,1974年刊の『日米外交の系譜』は1968年出版の『太平洋をめぐる日米抗争史』とほぼ内容が重複していた.日米開戦の原因を分析した章を前者の方で読んでみたが,海南島占領については全く言及されていなくて,後者の巻末にある「日米関係年表」においても同島占領は昭和14(1939)年の欄には書き込まれていなかった.やはり,戦後流布した「常識」の影響から逃れられなかったのか,地政学あるいは地理学的な視点からの考察が不十分だったのか,それとも旧日本海軍の南進計画についての資料・情報が身近になかったためだろうか.黒羽氏は明治41(1908)年生まれで東京帝大文学部西洋史学科卒のなので,単なる市井の一庶民としてではなく,少壮歴史学者として大東亜戦争の推移を同時代的に把握できたはずなのだが.
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