波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

「留学」の中身 医学系の場合 その一

2005-08-15 23:20:05 | 雑感
 先週末は予想を超えた電脳周りの故障その他で,電脳・網路を基盤とした生活が一時的に不可能になった.そのような折,日本からの電話で,田中真紀子衆議院候補に波士敦内のとある大学病院所属の日本人が自民党からの対立候補として擁立されたことを知った.日本ではここ数年政治家の履歴書における「留学」の中身がいろいろ問題になっているようだ.米国の高等教育機関の場合,日本の在学・退学の概念が対応しないというか,確かに何か不祥事を起こして放校処分を受けて大学と縁が切れるということがあるが,入学後暫く在籍,その後数年中途休学,そして取得済みの単位を持って別の大学に編入する,というような単位取得方法が可能で,大学に在籍することは手段でしかなく,学位取得に向けての単位が規則通り積み上げられているか,ということに主眼を置いている.このような米国大学の裏にある価値観・規則・不文律は日本のそれとは必ずしも一致しないわけで,日本の報道機関による政治家学歴批判の中には的外れ的なものも結構あった.
 前述の立候補予定者は医学系留学だが,平均的日本人がよく思い違いしているのが,日本の医学部から米国のmedical schoolに留学している日本人医師が米国で「臨床」に関わっている,というものがある.日本の病院を舞台とした現代劇で,ある登場人物を退場させる場合よく使われるのが,当人が米国等に留学することになった,という形だ.世界的に見て,旧植民地の発展途上国でもない限り,他国で取得した医師免許を無試験で自動的に自国内で認めるようなことはないと思われるが,米国の場合,米国内の医師免許を持っていない限り,本国で医師免許を持っている留学生が米国内で診療行為におよぶことを原則的に禁じている.よって,日本人の医学系の留学は,先の例外のような場合を除き,「臨床」ではなく「基礎」に限定されることになり,日本の医学部外科からの留学医師が米国の病院で執刀するということは原則的にありえない.
 日本の医学部からの留学はこのように基礎研究に従事ということになるので,単位取得・学位取得を目指して留学した学生と違い,TOEFLなどのような全世界的英検得点等を使った受け入れ側による英語力での篩い落しがない.換言すれば,英語力が無いにもかかわらず,履歴書に「留学」の一行を入れるために,米国に来ている連中がそれなりに存在する.では,なぜ英語力もなく,留学先の米国の社会・文化について碌に勉強もしないで,米国のmedical schoolへの飛び込み留学が可能になるのだろうか.
(以下,その二に続く)
 ©2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:08/16/2005/ EST]