lifeis

店舗プロデューサー神村護氏より

飲食業はまさしく、生きがい産業である。
アメリカの視察で、洒落たパブやバーを何件も見たが、そういう店の主人や店長には、いわば遊びのプロのような人が多かった。もちろん、遊びといってもスケールが大きい。カードやバックギャモンからヨット、トローリングと、およそ大人の遊びのことなら何でも良く知っていて、しかも、お客に対して非常にフレンドリーな接し方ができる。そういう意味で、まさしくプロフェッショナルな人たちである。当時の私にとって、飲食業の理想的な人物像だったといってもいい。
私は3店舗目をオープンした後、小さいながらも事務所を構えている。個人店ではなく会社としての経営なのだから、会社の事務所が必要だというが、一応の理由だった。
それまでは、私は常に店の中にいた。常に経営者であると同時に店長であり、現場を何よりも大事に考えていた。早朝まで営業していたが、私は最後の後片付けまで一緒に働いたし、トイレだけは従業員に任せず、自分で掃除していたものだった。
ところが、事務所を構えてから、私の行動はおかしくなったのである。店ではなく事務所で過ごす時間が増えるにつれて、私が何よりも大切にしてきた現場(店)で働く熱意が急速に失われていったのだと思う。
しばらくして私は、視察と称して海外に出かけるようになる。ハワイへは年に6回は行っていたし、ヨーロッパにも年に2回ほど出かけていた。商売のヒントを探すというより、ほとんど個人的な遊びだったことは否定できない。
あとは自然の成り行きで、そのうち、ひとり、またひとりと、従業員が辞めていくようになる。従業員が次々と離れていくのを見て、私もさすがに目が覚めて、再び店で陣頭指揮を取るようになった。しかし、時すでに遅しである。慌てて周りを見回してみても、もはや打つ手は見つからない。
私は遊びのスケールを間違い、経営者としての決定的な思い違いがあった。だから失敗しただけのことである。
飲食業は実業である。しかし、経営者に慢心があると、必ず落とし穴が待っている。なぜなら、飲食業とは実は、人間性が正直にでてしまう仕事だからである。しかも、それがすぐに結果として出てしまう。サービス業といわれる理由もそこにある。
ところが、ここを勘違いしやすい。そこに、この業界の本当の怖さがあると思う。飲食業の本質とは、モラルのビジネスなのである。飲食業とはつまるところ、経営者の人格勝負なのだ。
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