夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆ライブドアにみる企業買収戦略のあり方

2005年03月23日 22時43分56秒 | 企業法務学習日記
 新聞報道等によれば,ライブドアは当面はフジに対して敵対的TOBをかけたり市場で買い増すことはせず,フジサンケイとの提携交渉を行っていくと,熊谷取締役が語ったという。堀江社長の発言も当初の刺激的なものから驚くほどトーンダウンしている。フジに対してTOB等をかけないのには,資金面での手当てがついていないという面も大きく作用しているだろうが,同時に,従来のM&A戦略が問題点をはらんでいることを考慮してということもできる。

 ライブドアによる買収計画が表面化したのは2月8日のことだ。同日,ライブドアは,ニッポン放送の株式35%程度を取得したこととニッポン放送の経営権取得を目指すこと及びフジサンケイとの業務提携を行いたい旨を発表した。ここでライブドアは,敵対的買収の実施と友好的提携の申し出を同時に行ったことになる。他方,現在に至るまで,ライブドアがニッポン放送を傘下におさめた場合の具体的経営戦略,友好的提携を行った場合のフジサンケイ側の具体的メリットについて,ライブドアは,ほとんど明らかにしていない。

 通常,企業買収を行う場合,まず,買収後の具体的経営戦略を被買収側経営陣に提示して,同意の上で買収を行うことを検討する。次に,被買収側経営陣に買収を拒絶された場合,買収後の具体的経営戦略を明らかにしてTOBを実施し,すべての株主に対して,買収された方がいいのか,そうではないのか判断する機会を付与していく。これは,被買収側経営陣に,株主価値向上の観点から買収の是非を判断する時間的余裕を与えるとともに,すべての株主に対して株主権行使の機会を与えることで買収行為の公正さを確保することが目的となる。そして,このような機会を付与せずに敵対的買収を仕掛けることは,株主価値を毀損するおそれのある脅威的買収とみなされ,相当程度の防衛行為を行うことが許されるということになる。

 日本における敵対的買収事例としてよく引き合いに出されるSPJによるソトー買収においても,SPJは当初,友好的買収提案を行っており,敵対的TOBの実施は約半年後から開始されている(買収自体は失敗)。また,最近取り上げられているプリヴェチューリッヒによる中堅証券会社2社に対する買収提案も,現時点では買収後の方向性を明示した友好的買収提案である(プリヴェはすでに大株主になっており今後,敵対的買収に動く可能性もある)。

 今回,ライブドアがこの通常の手法を採用しなかったことで,例外的手法の問題点が明らかになった。まず,今回のような例外的な手段も場合によっては行われうること,つぎに,やはり例外的な手法は大きなインパクトと想定外の問題を発生させうること,さらに,客観的な分析よりも情緒的な判断が影響力を持つ可能性が生じることだ。最近のライブドアの軌道修正は,このような問題点によって生じた事態を収拾し,本来の買収手法に回帰していく面を有していると考えられる。つまり,両経営陣による合理的な解決方法の模索である。

 そして,一連の経過から検討を要するのは,買収側にとって,今回のような例外的手法の採用による買収戦略のメリット・デメリット,防衛側にとって,例外的手法にも耐えうる合理的防衛策の構築ということだろうか。今回の買収劇は,依然として継続中で最終的にどうなるか不明だが,企業買収事例として検討する価値の大きいものだけに,今後も注目される。

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