夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆監査法人の役割

2006年05月21日 00時55分34秒 | 企業法務学習日記
数日前のワールドビジネスサテライトで,監査法人に求められる役割について,社会が期待するものと監査法人自身が考えているものには大きなギャップがあるという内容の特集が放送されていた。

特集の中では,監査法人に所属するある会計士がこんな趣旨の発言をしていた。曰く,監査法人は警察のような立場ではなく,監査を行う企業と対立的な存在ではありえないのであって,あくまで企業の側にある存在なのだ,と。

それに対して,一般の認識では,監査法人は中立的第三者の立場で企業活動の適正さを監査する存在であり,であるからこそ監査結果は意味があると思われている。同様に特集の中に登場したある個人投資家は,監査法人の適正意見が付された決算書を信じるのには監査法人の中立性があるとの趣旨を述べていた。

法の建前からすれば,監査をするものは,監査されるものとは別個独立の存在として監査を行うべきであり,かつ,監査は主に,所有と経営の分離により経営権を有さない立場にある株主の利益を守るためにあると考えられる。

ところが,会計士の発言に象徴されるように,監査は企業経営陣の便宜のためになされているといってもいいような実態がある。一種極論に近いかもしれないが,経営陣と株主の利益が対立する状況下では,監査法人は経営陣の側に立っていたというのが従来からの実態といっていいのではないだろうか。

企業監査はなんのためにあるのか? 企業活動の外部評価ではなかったのか?

現状は違うようである。

件の会計士の発言を聞いていて,実は少なからずショックを受けた。今回の中央青山の問題以前から(つまりカネボウ以前から),監査法人の監査には問題があるという意識が社会的にかなり高まっているはずである。それにもかかわらず現状維持の発想,しかも現状肯定の意識が現在も会計士には強く存在しているということは,今回の金融庁による処分を経てもなお業界に根本的な危機意識が欠如していることを表してはいないだろうか。

ただ,何で危機感がないのか考えてみると,それはそうかもしれないと納得する部分もある。エンロン事件を受けて米国では,SOX法による強力な規制がかけられることになり,企業のコストは急激に膨らんだ。しかし,監査法人にとってみれば,規制強化はある意味マーケットの拡大である。業界としてみれば,それほど困った事態は起こっていないとも考えられる。確かに,問題を起こした監査法人の会計士は巨額の賠償請求を受けることになるが,それは個別の問題である。

昨年,ある広告関係の会社の法務部長さんと話したときのことを思い出した。

コンプライアンスに対する意識が弁護士と会計士とでは大きく違うという話だった。弁護士は,企業に対して違法行為を奨励することはないが,会計士は場合によってはそれがありうるのだという。それはなぜかといえば,弁護士には強力な懲戒制度があるが会計士にはそれがないからだという。

会計士について何も知らない身なので,そのときはそんなものかなと半信半疑でいたが,件の会計士の発言を聞いていると,ありえる話かなとも思えてしまう。

しかしそうすると,現状では,今回のように金融庁が監査法人を処分したからといって一罰百戒の効果はとくになく,所属会計士が別の法人に移動するだけで問題の根本的解決には程遠いということになりはしないだろうか。

監査法人の役割は,企業活動の便宜にあるのではないし,まして不利益情報の隠蔽という違法行為を助けることにもない。しかし現状は,それが監査法人の役割であると業界が考えている。この状況を変化させる必要があることはもちろんなのだろうが,簡単ではなさそうだ。



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