甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

月山は、いくつ崩れて……

2023年04月05日 17時41分33秒 | 芭蕉さんの旅・おくのほそ道ほか

 どこかのテレビで見た芭蕉さんの姿を追い求めて、とうとう月山をめぐることができています。

 それはしあわせなことでした。何の気なしに生きてるけど、やりたいこと、好きなイメージを求めること、今までどれだけできたというのでしょう。

 簡単にはできないし、できたとしても何だか不満が残ったりするかもしれない。でも、自分にやれることは限界はあるのだから、自分で確かめながら、やっていくしかないのだと思うんです。それは芭蕉さんでも私でも同じです。せいぜいやりたいです。



 芭蕉さんは二千メートル級の月山に登ったそうです。江戸時代にそんなことができた人はどれくらいいたでしょう。一生に一度富士山とか、御岳山とか、神奈川の大山、筑波山など、信仰のお山くらいしか登れません。月山も信仰のお山ではあるけれど、関東・関西以南の人たちには、異次元の世界だったことでしょう。どうしてわざわざお山に登ろうとするのか、信仰もあったでしょうけど、ここで待ってくれる人がいて、その人たちと俳諧を共有するという目的もあったでしょう。

 人は、待ってくれる人がいたら、のこのこ出かけて行かなくてはならないのです。



 行尊僧正(ぎょうそんそうじょう)の歌のあはれ(哀)もここに思ひ出でて、なほ(猶)まさりておぼゆ。

 芭蕉さんよりも数百年前の天台座主の行尊というお坊さんがおられました。平安時代後期の人です。山伏修験道の行者もされたそうで、行動するお坊さんだったんでしょう。

 この方が大峰山に入ったそうで、

 大峰にて思ひもかけず桜の花の咲きたりけるを見てよめる……、

  もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし
 私と一緒に互いをしみじみなつかしく思ってくれ、山桜よ。花よりほかに、この山奥では私の心を知る人もいないのだ。

 というのが『金葉集』に載り、「百人一首」にも採られていたということでした。風景の中の何か一つを取り上げて、そこに自分の気持ちを託す、というのは昔から使われてきた手法です。行尊さんには山桜がありました。芭蕉さんには、「三日月」と「雲の峰(積乱雲)」があったんですね。

 そういう行尊僧正の歌の趣もここで思い出されて、いっそう感銘深く思い出されました。

 総じてこの山中の微細(みさい)、行者(ぎょうじゃ)の法式として他言(たごん)することを禁ず。よって筆をとどめて記(しる)さず。

 すべてこの山中の詳細については、行者のおきてとして、他言することは禁じられています。そのため、これ以上のことは筆を控えて書かないことにします。

 ある程度は聞かせてもらったけれど、お山の様子・寺社の雰囲気などもう語ってくれないそうです。



 坊に帰れば、阿闍梨(あじゃり)の求めに寄りて、三山巡礼の句々、短冊(たんじゃく)に書く。

 宿坊に帰ると、阿闍梨の依頼によって、三山巡礼の句などを短冊に書きました。

  涼しさやほの三日月の羽黒山

 忍び寄る夕闇の木立の影も黒々と静まり返った羽黒山の上に、三日月が淡く浮かんでいるのがほのかに見えます。いかにも神秘的な、心の中も涼しくなるような眺めです。

 木々の間から見上げた夏の三日月だったんですね。とても静かだけれど、森の静かすぎてざわめくような、ぞくぞくする夕暮れの月でした。

  雲の峰いくつ崩れて月の山

 盛夏の炎天に空高く立ち上っていた雲の峰が、いくつ崩れて、この月光に照らされ雲間に神々しくそびえたつ月山になったんでしょう。まことに天の一部が崩れて地上に築き上げられたかと思われるばかりの山の姿であることです。

 積乱雲が月山になった? まさか、そんなことはないでしょう。

 地面が勝手に盛り上がった? そんな地学的なことを芭蕉さんは言いたいのではないですね。

 誰がこの山を作ったのか? それは人ではないというのは確かで、自然はあるがままに私たちの前に存在しています。人間だけが、これはどんな山? なぜできたの? 私たちはどこへ行くの? なんて、あれこれ質問を投げ出している。

 月山は、そこにあったのです。そこに吹き寄せる風は積乱雲を起こさせるのです。だからといって、急に雨が降るわけではなく、人間たちのちっぽけな動きを見つめている。

 自然は、何度も何度も繰り返しているのです。その移り変わりの壮大さ、莫大な時間、すべて人間のスケールではありません。でも、そこに登らずにはいられない人間は、自然を感じて、その偉大さに怖くなっていくのです。



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