黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

のぼうの城

2014年01月25日 | 本のページ
著者:和田竜
評価:☆☆

大分以前に読んだのですが、その時にはこちらを完全休止していたのもあって、書評は上げませんでした。先日映画がテレビで放映していたのを見て再読したので、思ったところを書いて見たいと思います。
・・・とはいえ、実のところ私にはあまり感じ入った本ではないのです。己の事をでくのぼうと平気で呼ばせ、農民の事を大事にし、彼らもそれ以上に長親の事を慕った、愛すべきご仁。坂東武者と呼ばれ、個性が強くおよそ他人の言葉には耳をかさぬ家臣も長親には一目置き、結果的に従ってしまう。そればかりか敵将の三成をも魅了してしまう不思議な人。思ったのはそれぐらいでしょうか。
不思議なのは、妻たちの姿はほとんど描かれていないこと。甲斐姫や氏長夫人の珠は別として、和泉はもとより丹波にも靱負にも、もちろん長親にも妻子はいたのであるから。
長親はでくのぼう、長束正家は秀吉の威を借りる愚か者、三成は小才子、と武人を軒並み阿呆に仕立てる。そもそも、内通により「手打ち」が決定していたこの戦だが、軍使の態度に腹を立てた長親の「わがまま」により戦に転じたのだ。いくら猿などと陰でそしってみても、物量、兵力ともに圧倒的な秀吉が総力戦で関東を陥落させるために迫ってくる。完敗必至の事態を前にして、天下人を相手に一泡吹かせるのも悪くない・・・。半ば熱に浮かされたような戦の後には荒れた田と、殺戮の跡。丹波に言わせた「戦で死ぬのは馬鹿者」というのは、案外著者の本心だったのかもしれない。
長親が総大将として戦ったのは忍城だが、「のぼうの城」とはのぼうさまを慕う人々が集った人の城、なのではあるまいか。

ちなみに、小才子として散々バカにされた三成だが、敗れたりとはいえど天下を二分した戦の片方の総大将であった事は事実であるし、その善政により実は領民からは長親以上に慕われていた人間である。長親とて馬くらいは乗れる。靱負は実は若者ではなく、著書には不明とあったその後の事もちゃんと資料でたどれる由である。ただ、和泉は忍城戦が元で、その数ヵ月後に亡くなったという説もあるとか。


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