カナダの大学で文学を教えていたピエールは、退職後、念願のアジア旅行へと沖縄にやってきた。
10日間(だったか)の旅のはじめに気孔の教室を体験し、そのあと、あてどなく気ままな旅を楽しもうとするピエール。
たまたまモノレールで乗り合わせた純子は、日本語を解せないピエールのために博物館までの道案内を買って出る。
そこから、ふたりの旅がはじまる。
家族に疎んじられ、学生からの尊敬もなく、親友に先立たれたピエールは、はじめてのアジアに癒しを求めてやってきた。
今61歳になり、老いていく自分。死と向かい合うことに恐れ、これまでの自分の人生をどこか後悔している。
ひとりになって、もう一度自分を見つめ直すきっかけが欲しかったのだろう。
その旅の同行を願い出た純子は、実は夫のDVから逃れるための家出が目的だった。
静かな時間を過ごそうと望むピエールにとっては、純子は厄介者でしかなかった。
しかし、純子と一緒に沖縄の島々を巡りながら、互いの意見をぶつけ合い、次第に理解しあうようになる。
旅をしながらピエールが触れる沖縄の自然は、けして目を見張るような雄大な風景でもなく、ただ、ごくありふれた沖縄の海や樹木。
それが、この上なくピエールの心を刺激する。
おそらく、沖縄のものすべてが彼を包み込んでくれるような居心地の良さを、感じたに違いない。
ピエールはクリスチャンで(少なくともその価値観の世界で生きてきた)、自己を主張することや、自然を支配することがを当たり前だと思って生きてきた。
その彼が、沖縄のアニミズム的な物の捉え方に接することで、我欲がとろけ落ち、自然のなかに自己の居場所を見つけるのだ。
それに加えて、沖縄の人たちの生き方からも、刺激を受ける。
純子の友人のおばあさんは、80歳(だったか)を過ぎて今が楽しいという。
人生が楽しくなってきたのは65歳を過ぎてからともいう。
ピエールは、自分のこれからの人生に大いに希望を見出すのだ。
だからといってピエールが、大げさなジェスチャーや言葉で感動をあらわすわけではない。
柔らかな笑顔が画面に映るだけで、じゅうぶんに彼の心の変化が伝わってくる。
気孔に関心があり禅的な思想も理解していながら、やはり欧米人らしく個人主義であったピエールの考え方が、解けるように変わっていくのがわかる。
自分を第一に考えることがけして悪いことではないけれど、周りに生かされているということも忘れてはいけない。
それに気付くきっかけを、沖縄が、純子が、ピエールに与えてくれた。
旅の途中、沖縄の伝統工芸「芭蕉布」の製作現場を訪れたピエールは、その工程を取材しながら、深い感銘を受け、一大決心をする。
その決断を聞いた純子は、沖縄では、何かをはじめるのに遅すぎるということはない、といって彼の決意を応援するのだった。
ときに男と女の一線を越えながらも、最後には良き友人のような関係を築いていく素敵なストーリーだった。
タイトルの「カラカラ」とは、沖縄の酒器のこと。壺屋焼でできていて急須のような形をしている。
なかには、泡盛と一緒に陶器の玉を入れるらしく、酒がなくなると、器を振ってカラカラと音を立てる。
『もうお酒がないですよ、お酒をいっぱいに入れてください。』と催促するのだそうだ。
ときに切なく、ときに迷い、それでも最後には、ピエールも、純子も、干からびた心が幸せに満たされたエンディングとなってよかった。
映画館を出て、一緒に観た太郎に感想をたずねると、実はよくわからなかった・・・という答え。
そう、正直にそう言って構わないよ。むしろ、まだ20歳前の君に、この味わいが分かってたまるか。
今はまだわかるまい。あと、20年も経ったのち、この物語の良さがわかることを願うよ。
それから、音楽が抜群によかった。
沖縄の三線にかぶせてくる、スパニッシュなギターの音色が、情熱的でたまらなかった。
僕の満足度は8★★★★★★★★
映画『カラカラ』公式HP
最新の画像[もっと見る]
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2020 劇場鑑賞映画マイベスト10 4年前
- 2019 劇場鑑賞映画マイベスト10 5年前
- ひとりで気ままなぶらり旅へ。 5年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます