録画人間の末路 -

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人形劇は特撮だ! 参加する映画「サンダーバード55/GOGO」

2022-01-07 23:24:29 | Weblog
注:本記事は映画に関してある程度触れています。
注2:筆者はサンダーバードに関して浅い知識しか持っていない"にわか"です。あらかじめご了承ください。

最近は疎遠になってしまったが、以前の友人に日本放送協会の人形劇が好き、という者がいた。
「いや、けっこうおもしろいんだって。お前さんならわかるはず。たまに深夜にまとめて放送してるから見てみるといいよ」
と言うので見てみた。なるほど、子供向けだからこそ分かりやすく、それでいてメリハリが効いていて続きが気になるストーリーで、ちょっと不自然だがイキイキと動く人形たちが見ていて楽しい。声優も声に特徴のあるベテランが大勢採用されていた。これも分かりやすさのためだろう。子供向けだからこそ本当に実績と実力のある人が、大真面目に取り組まないと楽しんでもらえないし、教訓なども感じてもらえないのだ。正直印象以上にお金がかかっていると思う。教育のためならスポンサーを気にせず予算が使える日本放送協会ならではだろう。
そしてなにより画面を盛り立てる特殊効果の数々。それも合成なしの一発撮りばかりという豪華仕様である。まるで特撮番組だ。なるほど、考えてみれば人形を動かすという行動自体一種の特撮だ。オープニングなどは別として本編では合成は見られないのも空気感と臨場感を大事にしたからだろう。「お前さんならわかる」と旧友が言ったのも頷ける。そして人形と特撮、と言えばやはりあの作品。イギリスの傑作テレビ特撮番組、「サンダーバード」だ。

一口に人形劇と言っても日本のテレビで主に行われているものとサンダーバードのものは大きくことなる。日本のものは下から棒で人形を動かす方法だ。これは決して偶然ではない。日本には人形浄瑠璃という人形を数人がかりで動かして物語を表現する芸能があり、日本の人形劇の表現方法は人形浄瑠璃の影響が強くその技術に習って発展してきた、と思っている。動きが二次元的に縛られるなどの欠点はあるものの動きを大きく表現するには向いた技法だと思う。登場人物同士の絡みもしやすい利点があるし、なによりもキッチリとした決めポーズを人形に取らせるのなら棒方式は非常に優れた方式である! と断言する。
一方、サンダーバードはという上から糸で釣って行う、特撮でいうところの操演で表現される。やり方次第ではあるが動きを柔らかくでき、椅子に座ったり立ったりといった細やかな動きが可能。その方式ゆえに登場人物複数が絡んだりするのは難しいもののより自然な表現が出来る。特に「サンダーバード」ではあえて奥行きのあるセットを組んで登場人物を立体的に配置し、操演の糸を極力目立たなくし、音声に合わせて自然に口が動く装置などを人形に組み込んでより人間に近い撮影を可能にする「スーパーマリオネーション」と呼ぶ方式を採用している。特撮で本編を撮影しているようなものだ。
そしてサンダーバードと言えばスーパーメカ。それらが活躍する特撮シーンが日本の特撮・アニメにおけるメカ表現に多大な影響を与えたことは言うまでもない。今振り返ってみると「あ、これサンダーバードのマネじゃない?」と思うメカものがいくらでも思い出される。
そしてその「サンダーバード」過去には「サンダーバード ARE GO」というリメイク版が放送された。日本放送協会の地上波で放送されていたので見てみたが・・・。うーん、わたしが見ても「これじゃないんじゃない?」と思うものだった。一番違和感が強かったのが、セットをミニチュアで、登場人物をCGで表現してそれを合成してドラマを作っている点である。こうした意図的に違和感を作り出す撮影方法は「サンダーバード」には合わない。旧作の[サンダーバード」でなぜ登場人物が人形で表現されたのかは謎(少なくとも「サンダーバード」のために人形表現を始めたということはない)だが、作中の物理法則が人形による本編でルール化されることでよりメカのリアルな格好良さが際立っているように思う。ついでに言えば人形劇らしく「サンダーバード」は合成をあまり使わない。使う時はもっぱら通信シーンに限られている。作品が悪いとは言わないが、合成を多用してあえて違和感を出したことがわたしの「サンダーバード ARE GO」に対する一番の不満。あれなら全部CGアニメでやったほうがよかったと思う。ちなみに日本放送協会の地上波で放送されたのは第一シーズンのみ。それ以降はCSの有料チャンネルで放送されたが、わざわざお金を出してみるほどでも・・・と思ってしまったので第2シーズン以降は見ていない。ひょっとしたら改善があったかも知れない。

まぁ不満を持った人は少なからずいたのだろう。あえて昔の表現方法であらたな「サンダーバード」を作るプロジェクトが始動、クラウドファンディングで資金が集められ、作り上げたものを日本では劇場公開されることになったのが映画「サンダーバード55/GOGO」である。

さーて、作品を見る前に余計な情報を仕入れたくない、という人のためのブラウザバック用のスペース作りの文章はこれで十分かな? 
もちろんわたしは公開初日である1月7日に見に行った。ちょうど店が定休日であったのも幸運。近所の劇場でやってくれれば店を少し早めに閉めて見に行く手もあったのだが、あいにくと地元ではちょっと郊外にある映画館までいかないとみられなかったため、休日でないとどうしようもなかったのだ。上映時間も初日にもかかわらず3回のみと少なく、なにか場所の確保だけで精一杯という印象。

で、見てきた感想は・・・。正直言って物足りないものでしかなかった。もっともそれを予想する情報はいくらでもあった。そもそも「サンダーバード」は一話が一時間近くもある長編テレビ番組である(それゆえ日本の地上波では一部をカットして時間を調整し、かつ前後編で一話を二回に分けて放送されていたそうな)。今回は2時間ほどの上映時間で3話をまとめている、という情報は入ってきていたし、それを考慮すれば一話が短く、ボリュームのないものになっていても当然だ。さらに言えば2時間とってあった公開時間でもやたら予告編や広告上映の時間が長くてなかなか本編が始まらず、始まっても別の番組用に撮影しただろうスタッフインタビューや紹介が冒頭にあり、中盤にはテレビ「サンダーバード」に登場した各種スーパーメカの紹介が(正直これが一番面白かった)、本編後には同じスタッフが技術や人形を流用し、コロナ禍のために序盤しかできていないSFドラマ「ネビュラ75」も上映された(訂正:今回上映された「ネビュラ75」が第1話のみだっただけで、それ以降もある程度完成しており、随時配信もしくはCSで放送されるそうです)ことを考えると、本編は1時間あったかないか、くらいだろう。第1話部分こそ紹介という形でサンダーバード号が次々と出てくるが、おそらくその特撮シーンの大半はテレビ「サンダーバード」の映像の流用だったようだ。そして2話3話のスーパーメカの活躍シーンは、残念ながら非常に少ない。そもそも本作の元ネタは奇跡的に残っていたレコードのボイスドラマを利用してシナリオを起こしたものなので、当然スーパーメカが縦横無尽に活躍するような内容で作られていない。後で追加したようなものなのでメカが出てこないのは当然なのである。「日本特撮界が憧れた「伝説」奇跡の復活」のキャッチに心躍らせ、「劇場公開なのだから技術はそのままでスケールアップした作品が見られるのだろう」と期待して見に行くと肩透かしに合う。多分ガチファンなら随所にみられるテレビシリーズに似た展開や演出にニヤリとできるのだろうが、わたしのような"にわか"ではそこまで楽しめなかった。見ていた時に左右の別の観客がやたらスマホをつけてはチラ見しているのが気になったが、それだけ集中できない作品だった、ということなのだろうか。そもそも劇場公開するためではなく、好きな人が好きな人の協力を経て好きな人のために作った作品なので、そこまで思い入れのない人を含めた万民向けの作品ではないのだ。正直なぜ劇場公開しようと思ったか、が謎である。

ここからはただの妄想。ひょっとしたら劇場公開を決めた人は本作がクラウドファンディングで資金を集められて作ったことを後で知り「そんなことやっているのなら自分も資金参加したかった!」と後悔したのではないだろうか。その穴を埋めるため、劇場公開用という形でちょっとはずんだお金を渡して買い付け、映画館でお金を払ってもらうことで後払いファンディングをして他の人たちにも参加してもらうという、気持ちだけでも参加型映画にしたかったのではないだろうか。わたしとしてはそれが映画化した理由として一番しっくり来る。そうした意義を感じる人なら映画館に足を運ぶのもいいが、8日以降は配信でも見られるし、協力しているスターチャンネルでもおそらく間もなく放送されると思うので、そちらで見ても十分だと思う。スターチャンネルは現在完全版と称して「サンダーバード」のHDリマスター版を原語版と吹き替え版で放送している。以前放送されたリマスター版は上下をカットした16:9の画角だったが、完全版は左右を黒くした4:3のオリジナル画角に戻してある。2月から第1話からの再放送を行うので、それを見るだけでも契約の価値はある。わたしは撮り直しのために契約予定。

最後に。テレビ「サンダーバード」日本語版でのオープニングはあの有名な歌詞の主題歌に差し替えになっているが、本来は勇ましいBGMを使用しているのだ。映画「サンダーバード55」ではどうするのか・・・と思っていたらオリジナルBGMのほうだった。あ、日本限定主題歌は無し? と思っていたら3話最後のエンディングで使われていた。これはひょっとしたら「サンダーバード」のプロデューサー、ジェリー・アンダーソンは後番組の「キャプテン・スカーレット」の日本語版がやはりBGMから主題歌に差し替えになっていたのを気に入らなかったというエピソードが残っているのを気にしてオリジナル通りのBGMにし、ファンサービスとして主題歌をエンディングに持ってきたのかも知れない。
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2 コメント

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Unknown (siinamon)
2022-01-20 10:00:46
自分も公開翌日の1/8に見てきました。
まあ内容云々する映画じゃないだろうというのは予測していたので、子供のころに見ていた"懐かしさ"を思い出すために行ってきました。
内容を気にせず雰囲気を楽しむだけならアリでした。いや本当に内容には触れなければ;;;
それはともかく配信が始まったとしても映画館で見る意義はありました。
それは音。
あのサンダーバードのテーマが劇場で鳴り響くのは心が躍ります。
自分、中高と吹奏楽だったんで運動会とかの入場で散々演奏したんですよ。
金管主役の曲なので木管でフルートだとやたらめったら指使いの面倒な曲な上、見せ場があんまりない曲でしたがノリノリで演奏できる好きな曲でした。
…なんか書いてて歳を取ったなと思ってしまいました;;;
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Unknown (krmmk3)
2022-01-22 22:20:00
>siinamonさん
オープニングのところとか異常にテンション上がりますよね。あのワクワク感だけでもファンなら劇場まで足を運ぶ価値はありますね。あと内容のボリュームがあったらなぁ・・・。
指が短くてフルートとかピアノとか全然ダメでした(泣)
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