暮れ

打ち合わせの時間が近づいていたが、気まぐれに横に目を向けると飲み屋の看板があった。魅力的ではあったが、さすがにちょっと一杯という訳にもいかず、店先のメニューを眺めて想像するだけで我慢した。

脇を流れる川面には、渋谷駅の灯りが映し出されていた。その光が、冬の空気を幾分か温かくしてくれた。

帰り道、途中まで一緒だった仲間と話しながら、暮れっぽくないねと話題になった。不景気の影響だろうか、電車の中も普段と変わらない。それは仕方がないが、やはり寂しい。

ぽっけ

北の地方では大雪になっているという。関東地方でもかなり冷え込んでいて、手袋をしないまま駅まで来ただけで、指運びがぎこちなくなっている。

見上げれば僅かに青空が覗くが、灰色がかった雲が大勢を占めているなかでは暖かさが感じられるほどでもなく、自然に冷たくなった手をポケットに突っ込む。

子どもの頃、「ポケットに手を入れるな」とよく言われた。転んだときなどに手を付くことが出来ないというのが理由だったが、大人になったら手を付かなくても大丈夫という訳でもないのに、その躾は身に付いていない。そんな時「大人は別」だという人も少なくないが、子どもから見たら、何が「別」なのかを理解するのはかなり難しいと、大人ながら思う。

こうして書いているうちに、青空が広がってきた。それは僕の遅筆…というか、指使いの問題だが、そんな空を見ていたらポケットの中の手を出してしまった。