持続する夢

つれづれにふと気づいたことなど書き留めてみようかと
・観劇生活はえきさいてぃんぐに・日常生活はゆるゆると

クラウディアからの手紙 2/3

2006-02-17 02:04:40 | 演劇:2006年観劇感想編
2/16のつづき> 以下、役柄として語るので。敬称略にて。
ソビエト連邦が、崩壊する。体制は消失したはずなのに、蜂谷に自由の日は来ない。。彼を日本に戻すべく、彼のために行動しはじめたのは。なんと、クラウディア。

日本には、50年間もの間、彼を待ち続けた妻・久子がいる。「この子を死なせてはならない」と言った夫との約束を守り、幼子を抱え、命からがら38度線を越え。再婚話も断りとおし、女手ひとつで娘を育て上げ。生死もわからぬ夫を、信じて待ち続けた妻がいる。「よくぞ生きていてくださいました。ぜひ帰国して顔を見せてください」という、久子からの手紙。それが、老いた彼女の最後の願いだという。

ロシアのクラウディアは、彼に「帰国の日まで、私が妻になる」と言ったのだ。でも、それは。彼女が彼を、日本に返すという約束ではないはずなのに。それは、かの地で自身が独りになってしまうということなのに。「私は、人の不幸の上に私だけの幸せを築くことはできない」と。彼を帰すための活動に、情熱をかたむける。

現在の久子には、娘と、その夫と、孫に囲まれる生活だという。それなりに幸せではないのか? と考え。なおも夫を取り戻したいか、クラウディアから奪いたいかと考えてしまう。
舞台では。久子役の高橋惠子氏は、常に同じ板の上にいて。夫の苦しみの日々、再生の苦労の日々の、すべてを助けられない無力さに涙していた。彼女が真実の涙を流し続ける姿には、充分揺さぶられているけれど。。本物の奥様は、クラウディアの存在を深く知らずに、帰国を望んだのだと思うけれど。

もうじゅうぶん、幸せな時間は過ごせたから。あとの時間は、待ち続けた久子さんにどうぞ。こう言って笑うクラウディアに。このあと、あなたはたった独りで生きていくことになり。寂しさに泣いても、もう誰も居てくれないのよ? と。心の中で叫ぶ。二人で居ることの居心地の良さを知ったあとに、おとずれる孤独へ恐怖し。クラウディアの行動を、止めたくて止めたくて仕方がない。

あとは、彼の望みを聞くしかない。10数年を幸せに暮らし、生き別れてしまった元妻と。37年間、辛い生活と互いの気持ちを支え合った妻と。果たして、どちらがより大切なのかを。

クラウディアからの手紙 1/3

2006-02-16 00:06:26 | 演劇:2006年観劇感想編
原著:村尾靖子 『クラウディア 奇蹟の愛』
脚本/演出:鐘下辰男
振付:井手茂太
出演:佐々木蔵之介,斉藤由貴,高橋惠子,小林勝也,山西惇 他


朝鮮半島でむかえる、太平洋戦争の終戦。蜂谷弥三郎氏は、軍関連施設に働く民間人で。日本へ引き上げる間際に、スパイ容疑でソ連軍に捕らえられてしまう。妻と乳飲み子と生き別れ、身の潔白を晴らすすべもなく。シベリア強制収容所への抑留。辿らざるをえない過酷な運命。事実を元に描かれるすべては、圧倒的な説得力で迫ってくる。

無機質なセットは、寒々しく。時には極寒の大地を、時には殺風景な収容所を連想させる。キャストが、すべて居並ぶままの芝居は。いま誰が物語に存在し、誰が居ないのか、片時も気が抜けない。けれど、浸り込んでしまうには痛すぎる舞台。時を告げる濁る鐘の音や、人の心の歪みを表現するかのダンスは不快で。蜂谷氏が受ける陰湿な暴力と、痛みを深めていく肉体からは、できれば目を背けていたい。誰ひとり信じてはならず、行動のひとつにさえ命を賭けて選ばなくてはならないさまに、息が詰まる。

幾度も死線をさまよい、現実も未来にすら絶望しかないのに。彼は、ただただ残した妻子のため、自尊心のために。方便も使わず、潔癖に。自ら死を選ばず、狂気に逃れることもなく。欠け落ちていく同胞を悼みながらも。想像を絶する精神力で、日々の命を繋いでいく。

時が過ぎ、刑期を終えて出所しても。無実のはずの容疑が、帰国はおろか身の移動すら許されない生活を強いられて。果てのない絶望の中で見つけた憩いは、同じ境遇のロシア女性・クラウディア氏と出遭い。彼女と暮らすため、この先も生き続けるために、ロシア国籍を取得し。底辺の暮らしではありながら、支え合える相手のいる喜びを得る姿に。ようやく、少し安堵する。彼の潔白を、心底信じてくれる彼女。銃砲の前に身をさらしてまでも、彼をかばってくれる彼女の存在は。どれほど心強かったことだろう。

なのに、運命は。まだ彼に、究極の選択を迫る

ナナ 7

2006-02-12 02:27:08 | 演劇:2006年観劇感想編
JOE Company  Another Play vol.2  『7』―ナナ―
劇場:アートコンプレックス 1928
作/演出/出演:小野寺丈
出演:山内としお,宮本大誠,清水拓蔵,藤村忠生,大場達也,平川真司


雑居ビルの5階。急ごしらえの保育園を仕切るのは、やけに迫力のある兄さんたちで。どうやら、本日開園なのらしい。どうやら昨日までの商売は、ヤクザなのらしい。。
ある日、親分が植物人間に。戻る確約はなく、かさむ入院費用。極道稼業に見切りをつけ、かたぎの商売を始め。とりあえず、かわいいエプロンを着けてみる。一生懸命、笑顔の練習をしてみる。だけども消せない、筋金入りの極道仕草。ワカガシラだ、アニキだと。出てくるセリフは不穏なものばかり。

それにしても。この役者陣の、堂に入った極道ぶりはどうよ? ほぼ、皆さまを初見なのだけど。清水氏は、『THE WINDS OF GOD ~零のかなたへ~』に出演されてたよね。もしや、Vシネマだとかで有名な方だったりする? よりどりみどりな、イイ男っぷりで。

破門になった子分が、舞い戻り。ヒットマンが、鉄砲玉の子分を追って現われ。保育スタッフとして雇い入れた善意の一般市民までが、こちゃこちゃに絡み合い。「ナナ」と名乗る謎の女からの、謎の電話。「7」は、倒れた親分が最後に書き残したメッセージ。もう、なにがなんだかのなかに。極道一筋の親分が戻ってくるものだから、混乱は最高潮。

ドタバタのシチュエーションコメディを。ドタバタだけで無くしているのは、若頭役の小野寺氏。苦肉の策で、ひねり出した保育園業。絶対に許してくれるはずもない親分を、ごまかすために汗みずくになる姿は。小ずるさはなくて、イイヤツすぎるくらいで。小心者なくせに、けっこう行き当たりばったりで。それじゃいかんだろうと、笑いがこみあげる。これを受ける、親分役の山内氏の芝居も。迫力のなかに、子分たちがかわいくて仕方がない様子を含むから。冒頭で流れた『仁義なき戦い』のテーマ曲(←タイトルは知らない)に、似合いの結末に(←宮本氏、大熱演!)。後味の悪さは、残らない。

JOE Companyとは、小野寺丈氏のプロデュースユニットで。Another Playとは、本流と世界観を異ならせる実験公演なのだという。男性7名のみで構成された、シンプルでいて力強い舞台。このところ、ユニットものの公演に当たりが多くて楽しい。