千葉県市川市の本八幡駅から歩いて数分の場所には、足を踏み入れれば二度と出てこられないと古くから畏れられている場所があるそれが「八幡不知森(やわたしらずもり)」だ。
東京都中央区と千葉市を結ぶ幹線道路である国道14号線沿いに位置し、しかも絶えず人が出入りする市役所の向かいに有りながら不気味に佇む森は、わずか20平方mほどの大きさしかない。
入り口には「不知森(しらずもり)神社」と書かれた鳥居がひっそりと建ち、背後を竹藪(たけやぶ)が覆っている。
江戸時代の古書にはすでに、誰も立ち入る事が出来ない「八幡の藪知らず」として全国的に知られているとの記述がある。
だが、なぜここが立ち入り禁止になったのか、その理由についてはどうもはっきりしない。
有名なのは、平将門にまつわる奇妙な言い伝えだ。
平将門と言えば、平安時代にみずから「新皇」を名乗り、関東地方をはじめとする東国を支配しようと乱を起こした人物である。
この森には、その平将門と対峙していた平定盛が死門(あの世への入り口)を敷いていたと言われているのだ。
さらに、それに関連してか、平将門の家臣6人が平将門の首を守り続け、いつしか泥人形になったという、おぞましい話もある。
森にまつわるエピソードは他にもいくつかあり、本当の所は誰にも判らないが、地元の人たちは今も伸びた竹の枝ですら、むやみに切る事はないという。
住宅地の中に異空間の如く存在する森は、地域住民にとって決して侵してはならない聖域なのである。