海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《ロシアの復活祭》覚書その3~聖歌の元ネタ探し

2020年02月18日 | 《ロシアの復活祭》
覚書その3は、《ロシアの復活祭》で用いられている聖歌の元ネタ探しです。
自伝で言及されている3つの聖歌のオリジナルがどのようなものなのかを確認しようとする企てです。
結論を先に書くと、作品の冒頭で聴かれる聖歌以外は突き止めることができず、継続調査ということになりました。(スミマセン)

さて、自伝で挙げられているのは次の聖歌です。
題名は自伝でのロシア語表記と、かっこ書でオイレンブルクの解説の日本語訳の邦題、その下に参考までに音楽之友社『作曲家別名曲解説ライブラリー「ロシア国民楽派」』の《ロシアの復活祭》の解説(以下「名曲解説」)で用いられている邦題と譜例番号を記しておきます。

<聖歌1> "Да воскреснет Бог" (主を呼び起こそう) 
名曲解説‥‥願わくは神おきたまえ [譜例1]

<聖歌2> "Ангел вопияше" (嘆く天使) 
名曲解説‥‥天使は嘆く [譜例3]

<聖歌3> "Христос воскресе" (キリストは復活した) 
名曲解説‥‥キリストは起てり [譜例6]

名曲解説では、以上のほかにアレグロの冒頭のメロディ(譜例4)も、聖歌「神をにくむものは御前より逃げ去らんことを」としていますが、これには疑問があります。
このメロディーは<聖歌1>の終わりの部分から派生したものであるように感じられることと、自伝では「 ”да бегут от лица Его ненавидящие”」 (憎しみを抱く者たちも、主の面前で逃避させよう)と書かれていて、曲名のように最初の文字が大文字となっていないことから、聖歌の題名ではなくプログラムで記された聖書の文章を引用した部分ではないかと考えられることがその理由です。

3つのうち重要なのは、<聖歌1>と<聖歌3>です。
覚書その2でご紹介した四手版楽譜の扉に記されていたのがこの2つの聖歌です。
<聖歌3>については自伝にも「この序曲の第2の主題を形成するといえる『オビホード』からのテーマ『キリストは復活した』」と書かれていますね。
「第1の主題」については明言されていませんが、<聖歌1>であることに異論は出ないでしょう。

前置きが長くなりましたが、ネットで見つけられたのは<聖歌1> "Да воскреснет Бог" (主を呼び起こそう)だけでした。
この聖歌が聞ける動画は数種類ありますので、それをご紹介します。

"Да воскреснет Бог" Стихиры Пасхи Зосимовой пустыни гарм. иером. Нафанаил
https://www.youtube.com/watch?v=Z76baGeei9M
手書きの楽譜・歌詞付きの動画です。

Пасхальный тропарь Хор Сретенского
https://www.youtube.com/watch?v=cZM6xY0ldVk
上記のものとは少し違います。いろいろなヴァリエーションがあるようですね。

Учимся петь: стихиры Пасхи
https://www.youtube.com/watch?v=oA__eI7asp4
こちらは練習用なのでしょうか。歌詞付きの動画です。登場する二人も妙なる組み合わせです。

Да воскреснет Бог! Христос Воскресе из мертвых. Праздник в Духовной Академии Christ Is Risen! Russia
https://www.youtube.com/watch?v=WahhtaaAIio
実際の復活祭での様子を収めた動画です。<聖歌1>が登場するのは3:41あたりから。

聖歌は同じ題名でもいくつものメロディーがあって特定するのはなかなか大変です。
探し方が悪いだけかもしれませんが、<聖歌2><聖歌3>とも題名で検索をかけても《ロシアの復活祭》で用いられたメロディとは異なるものしか出てこなくて、頓挫してしまいました。

ところでかなり前の話ですが、私がチフヴィンのリムスキー=コルサコフ生家博物館を訪れた際に、学芸員の女性が《ロシアの復活祭》のメロディーをハミングしながら、リムスキー=コルサコフは幼年時代に家のすぐ近くにある修道院で聞いた旋律をこの作品に取り入れたのだと教えてくれました。
そのメロディーは<聖歌2>だったと記憶しているのですが、今となってはもうはっきりとは思い出せないのが残念です。



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